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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
特別編 第1.5部《神託プロトコル》

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114/121

第114話《父と娘》

――翌日。

マリーとオルドはアウロラ地区にいた。

全身機構が中心のマリーと、くたびれた服のオルドはその都市の中で浮いて見えた。


「オルド、離れないで。あなたの邪念、抑えきれてない。私から離れればきっとすぐ気付かれる」


「わかってる……」


オルドはすれ違う住人たちと目が合えば、向こうが逸らすまでその視線を外さない。


住人たちは足早に通り過ぎていく。


「オルド、その目どうにかならないの? この都市の住人の祈念波……皆すごく強い。神々の都市と言われるのが理解できる。今バレるとあなたを守りきれない。とにかくその目つき、やめて」


「オレ以外の者は皆オレの敵だ。皆オレを忌み嫌う。……セレア以外」


「面倒な性格ね。でも、今は私もあなたの味方でいる。ユナに手を出さない限り」


「あの地はそういう場所だ。何かを得れば何かを失う。愛を知れば憎しみも知る。そうやって均衡を保っている。墓場に堕とされた者は、その負の役目を担わされているだけだ」


マリーは足を止める。


「――役目? 誰がそんな役目を?」


「そんなことは知らない。だが、エイドスにそれはいると思っている」


「……そう」


その時、人波の中から駆け寄る足音がした。


「マリー!」


息を切らしたエレナが立ち止まる。


「良かった……無事だったのね」


「エレナ。ちょうど良かった。あなたを探していたの」


オルドは無言のまま、マリーの後ろへ半歩下がる。


エレナは少しだけ表情を曇らせる。


「マリー。あの時、どうして邪龍を守ったの?」


マリーはそっとエレナの手を取った。


「エレナ。オルドは、かつてあなたの父親だった人。母親はセレアなのでしょう? セレアとオルドはあなたを探していた。やっとあなたを見つけたの。私はセレアに恩もある。それにオルドにはセレアの祈念の加護がある。……きっと、それはオルドを守りたいというセレアの願いだ」


エレナは目を伏せた。


「でも……。パパは悪い人だった。あの頃、私たちは人から盗み、奪い傷つけて生きていた。私は小さかったからそれが悪いかもわからなかった。でも、そんな生き方……必ず報いが来る」


エレナの瞳から涙が溢れる。


「だから私が攫われて。助けに来たパパは……私の目の前で殺された。私は十六の時に、私を攫った山賊から逃げて、行くあてもなく行き倒れた。そして……ママより先に死んだ」


マリーの脳裏に、かつてセレアと邂逅したときに、銀河で見せられた魂を灼くような記憶。

そして、地球でオルドが最後にマリーに見せた記憶の侵食が蘇る。


エレナは声を振るわせた。


「死んだあと……空から見てた。ママはそれでも私を探し、最後に命を絶った。ママが亡くなって、ようやくママに会えると思ったのに……。次に目覚めたらこの都市にいた。マリー、今のあなたと同じ」


「そう……。この都市の住人の祈念は皆、神のようだ。その中でも、あなたやルナは別格だ。あなたはセレアの子だ。祈念が高い者がこの地、エイドスに還される。その認識で合ってる?」


「……ええ、概ねは。でもエイドスに辿り着ける魂なんてほんの一握り。ほとんどの魂は銀河を漂い、また次の生へ向かう」


「そうなのね……。ありがとう、エレナ……」


マリーは少しだけ声を落とした。


「あなたは……オルドを憎んでいるの?」


一瞬間を置き、エレナは小さく答えた。


「……少し」


マリーの後ろで背を向けていたオルドが、その言葉を聞いて肩がぴくりと動いた。


「ところでマリー。後ろにいる汚い男の人は誰?」


「き……汚い!?」


オルドの身体が強張る。

振り返りざまに、オルドの鋭い視線がエレナに向けられた。

 

「あ……彼は」


マリーが答える前に、エレナが気づいた。


「――パパ?」


エレナが一歩後ずさる。


「邪龍じゃない……。でも本質は変わらない。パパの中に何か悪いものが蠢いている……」


それを聞いたオルドの目からは鋭さが消え、少し悲しげな目をした。


オルドの感情の波がマリーの背に伝わる。

それは邪龍のときだった怒りや憎しみではなく、悲愴そのものだった。


「エレナ。それは否定しない。だとしても、オルドは目覚めて真っ先にあなたを感じ、あなたへと向かってきた。拒絶はより深い悲しみになり、それがまた……オルドの怒りや憎しみの根源となってしまうんだ」


「……でも」


戸惑うエレナにオルドがようやく口を開いた。


「マリー……もういい。オレは墓場に堕ちた身だ。エレナは見つけた。セレアもきっと……オレもそれだけで十分だ。これ以上この子に悲しい過去を思い出させないでくれ。オレはこの子のそばにいるべき存在では……ない」


オルドの言葉にエレナが拳を握る。

その拳は小さく震えた。


「そうよ! パパが私とママを置いて先に死ぬから! だからママも私もあんな生き方しかできなかった……。全部パパのせい!」


エレナは後退り、そのまま背を向け人並みへと走り出した。


マリーが手を延ばす。


「――エレナ! 待って!」


そのとき、地が大きく揺れ地響きが鳴り響いた。

アウロラの住人たちの悲鳴が街に響く。


次の瞬間、地をすり抜けるように複数の黒い邪龍が空へと舞い上がった。


エレナは立ち止まり空を見上げる。

 

「――邪龍!? しかも四体も……」


マリーは即座に振り返りオルドを確認する。


「オルド……じゃない?」

 

オルドも空を見上げ邪龍たちを凝視している。


「良かった……。オルド、あの邪龍、あなたかと思った」


「ふざけるな。オレはもうあの子の前で、あんな醜い姿にはならん」


空を旋回する邪龍たちは、エレナでもマリーでもなく、オルドを見ていた。

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