↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
特別編 第1.5部《神託プロトコル》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/121

第113話《メモリーリーパー・レーテ》

――翌日


エイドスの全記憶が収蔵された記録中枢《クロニア地区》。

そこは他の地区とは異なり、住人たちの祈念から切り離されていた。

空は常に夜。

無数の光が黒い空間を流れ、まるで星々そのものが記録として保存されているようだった。


区の中枢にある、都市で最も高い塔。

その頂点からは銀河へ向け、一筋の閃光が伸びている。


エレナとルナは塔へ入り、ガラス張りのエレベーターで中層へ向かう。


上昇する途中、エレナは窓の外へ目を向けた。


クロニアの夜は境界線で途切れ、その先にはアウロラの明るい空が広がっている。


やがて中層へ到着する。

扉が開くなり、エレナは飛び出した。


「レーテ!」


勢いよく扉を開く。

 

黒い書庫のような空間だった。

その中央に、一人の男が立っていた。

無数の光の書物が宙に浮かび、静かにページをめくっている。


無造作な黒髪に、黒い外套。

そして感情の読めない瞳。


「騒がしいですね」


男は振り返りもせずに答える。


「メモリーリーパー・レーテ。昨日覚醒した邪龍について聞きたい」


ルナの言葉はイラつきを隠せていない。


レーテは一冊の光書を閉じた。


「オルドですね」


エレナの肩が僅かに震える。


「知ってたの?」


「もちろん。私は記憶を管理する者です」


レーテはようやく二人を見た。


「むしろ聞きたいのはこちらです。なぜ覚醒直後に邪龍化したのでしょう」


「それを聞きに来たんだけど!」


エレナが声を荒げる。


「あなたがルナに渡したんでしょ!?」


「ええ」


「だったら説明して!」


レーテは僅かに首を傾げた。


「私は説明できません」


ルナが目を細める。


「どういう意味だ」


「オルドは本来、墓場への移送対象でした。セレアが送りつけてきたものですから……どう処理したものかと、二千年近く保管していましたが」

 

レーテの声は淡々としていた。


エレナとルナが顔を見合わせる。


「移送対象?」


「えぇ。あと、もう一つのマリーもです。あれは魂かどうかも怪しい。地球文明のテクノロジーに、セレアが細工したのか何なのか……」


エレナが昨日のマリーの言葉を思い出す。


《――確かに私は元は人工知能で……。ユナのために身体は構築したけど……。元々、人としての身体は持っていなかった》

 

レーテは首を傾げる。

 

「ですが覚醒命令が届きました」


レーテは宙へ指を伸ばす。


空間に光の文字列が浮かび上がる。


『覚醒承認』


『優先権限:最上位』


『対象:マリー』


『対象:オルド』


エレナの瞳が大きく開く。


「そんな……」


ルナも言葉を失う。


レーテは静かに続けた。


「エイドスの管理権限を一時的に上書きした存在がいました」


「――そんなこと……誰なの?」


エレナの問いに、レーテは少しだけ間を置いた。

そして最後の記録を表示する。


『送信者』


その文字の下に、一つの名前が現れた。


『アネシア』


その名をレーテですら初めて見るような表情で呟いた。


「私は知りません。この存在が、どうやってエイドスへアクセスしたのかを」


ルナが目を細める。


「なら、もう一人のマリーとやらも仕留める。元々覚醒対象ではなかった。それに私の邪魔をした」


レーテが無表情でルナに視線を向ける。


「あぁ、構わないですよ。月下の執行人、ルナ。あなたが失敗したのは、初めてですね」


ルナはレーテに鋭い視線を向ける。


「仕方がない。これは想定外の事例だ。それにレーテ。これはあんたの管理不足の後始末だ。バカにしたような言い方はやめて!」


レーテはルナから視線を外さないまま頭を下げる。

 

「はい……これは失礼しました」


「行くよ、エレナ」


ルナはエレナの手首を強く握り引っ張る。


「ちょっと……痛い、ルナ」


二人は外へ出て、ルナが勢いよく扉を閉めた。

バタンという大きい音が、レーテの部屋に響き渡る。

 

「クッ……。こっちは万年頭痛だというのに」


レーテは頭を抱え、深く息を吐いた。

 

「生意気ですね。記憶を消して地球に堕としてやりましょうか。……なんちゃって」

 


ルナはエレナの手を引いてクロニア地区を出る。

境界の空は朝焼けのように赤かった。


「ルナ、痛いって。もう離して!」


エレナはルナの手を振り解いた。


ルナがエレナを見つめる。


「ねぇエレナ。あんた本気であの邪龍を倒す気あるの? いつもの覇気が感じられないんだけど」


エレナは目を伏せる。


「……もちろん。でも……私の名前を呼んだの。……エレナって。それに、マリー、あの人は悪い人じゃ……」


「悪い人じゃない?」


ルナの声が低くなる。


「あの女は邪龍を庇った。それでも?」


「……うん」


次の瞬間、エレナの頬をルナの掌が打った。


「――痛っ」


エレナは頬を抑え、地に膝をついた。


ルナはしばらく何も言わなかった。

その瞳に浮かんでいたのは怒りではない。

失望だった。


「見損なったわ。暁光の守護者エレナ。アウロラ地区も終わりね。担当があんたみたいなので、住人が可哀想」


ルナはそのまま背を向けて歩き出して行った。


「――ちょっと、ルナ! 待って!」


ルナは足を止め、視線だけをエレナに向けた。


「あんたがやれないなら、私一人で片付ける。意気地なし」


そのままルナは振り返ることもなく、ノクティス地区の方へと歩き出して行った。


エレナはその背中を見送ることしかできなかった。

頬が熱い。

だが痛かったのは頬ではない。


「意気地なし……か」


ぽつりと呟く。

反論できなかった。


「守護者として見れば、ルナの言うことは正しい……」

 

邪龍は排除しなければならない。

それがエイドスの理だ。


だが、あの邪龍がオルドだと知ってしまった。

そしてマリーの瞳を見てしまった。

あの二人が、本当に悪なのだろうか。


エレナはゆっくりと拳を握る。


「でも……わからない」


だからこそ確かめなければならない。

感情で動けば、きっとルナの言う通りになる。


「……レーテなら何か知ってるはず」


エレナは顔を上げた。

だが、今は聞ける雰囲気ではない。

 

赤く染まった空の向こう。

記録中枢クロニア地区の塔が静かに輝いていた。


それでもエレナは塔に背を向ける。

俯いたまま、アウロラ地区へと足を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。