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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
特別編 第1.5部《神託プロトコル》

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111/121

第111話《黒龍オルド》

遠く、ノクティス地区から砲撃音が届く。

エレナはその方向を見つめる。


「発砲音が多いなぁ……。ルナ手こずってる?」


マリーも音のした方へ顔を向けたその時、月に龍の影が重なった。


エレナが背伸びをし、目の上に手を翳す。


「おー、あれは大きい……。え? こっちに来てない?」


黒い咆哮はこちらに向けられ、龍がこちらに向かってきた。


「ちょっと! ルナ! アウロラに来ちゃうじゃない!」


エレナはマリーの手を引いた。


「こっちに来て!」


二人はノアの掌から飛び出し、白い腕を駆け上がる。


巨大な装甲の上を風が吹き抜けた。


やがて二人は左肩へ辿り着く。


「まぁちょうどいい。マリー、見せてあげる。私の祈念を」


エレナは、機神の耳に囁く。


「ノア、行くよ。あの邪龍をエイドスから叩き出して」


ノアの瞳がゆっくりと開く。

その瞬間、周囲の空気が震えた。

胸部の核が桃色に輝き始める。

光は全身へと巡り、巨大な腕が静かに邪龍へ向けられた。


「よし、来い、邪龍め」


邪龍は一直線にノアへ向かってくる。

そして目の前に迫ったその時、ノアの巨大な手が邪龍を両手で掴んだ。


「よし! ノア、このまま引き裂け!」


邪龍の黒い波動と、ノアの増幅された祈念がバチバチと弾ける。


「ちょ……! 何これ! 何か加護の祈念が付いてる!」


マリーの表情が変わる。

その加護と呼ばれた祈念に懐かしさがあった。

 

――セレア?

 

そして、その奥に絡みつくもう一つの黒く荒れ狂う波動。

忘れるはずがない。

ユナの命を狙い、幾度となく立ちはだかった邪念だった。

 

「まさか……」


邪龍が咆哮を上げる。


その瞬間、マリーの胸が強く脈打った。


「これは……オルド!」


マリーの言葉にエレナの目が鋭くなる。


「へぇ……」


エレナの瞳から光が消える。

 

「なら尚更……祈りの墓場に堕とさなきゃね」


エレナは祈念を強める。

ノアの締め付けが強くなり邪龍は更に強く暴れ出す。


その刹那、エレナの脳裏に声が響いた。

 

――エレナ……。

 

低く、懐かしく。

忘れていたはずなのに。

エレナの身体が凍りつく。


そして邪龍と目が合った。


「あんたがその名前を呼ぶな!」


エレナの感情が揺れ、ノアの手が少し緩んだ。

そして次の咆哮を上げた瞬間、邪龍はノアの手をすり抜け、ノアの右肩に体当たりした。


ノアの巨大な身体が大きく揺れる。


「きゃぁ!」


マリーとエレナはその衝撃で、投げ出されたが、ノアがそれを両手で受け止めた。


邪龍がそのまま空に登っていく。


「エレナ! 大丈夫か!?」


遠くから、建物の頂上を跳ねるように飛び、ノアの身体を駆け上がってくる少女。

やがて、ノアの掌に飛び乗った。


エレナが不機嫌そうな顔でその少女を見た。


「ちょっと、ルナ! あんたが仕留め損ねたから邪龍がアウロラに入ってきたじゃない!」


長い黒髪を夜風に揺らし、その手には身の丈を超える長大なライフルが握られている。

ルナの青い瞳は、静かに邪龍を見据えていた。


「すまない、エレナ。あの邪龍は私の祈念の砲弾を弾き飛ばすんだ。それに……」


「それに……。何よ」


「覚醒させる前に、違和感を感じた……。それでも強い祈念に覆われていたから……。そのまま起こしたら、急に邪龍になったんだ」


「え? 侵入してきたんじゃないの?」


「違う。覚醒担当として、レーテから引き継いだ時は普通だった」


マリーには話が見えなかった。

だが一つだけ分かる。

目の前にいる邪龍はオルドだ。

 

マリーが二人を見る。


「セレア……。セレアがここにオルドを託した」


その名を口にしたとき、エレナだけが目を背けた。


ルナが空を旋回する邪龍を目で追う。


「セレア……。事情はわからない。でもここで殺らなきゃエイドスが壊される」


ルナがライフルをオルドに向ける。


「あの邪龍、星哭きの女神、セレアの加護に守られてるってわけね。だったら私の祈念をこの一発に全部込める」


ルナの祈念が全身を覆い、やがて青白い光球が発射口の手前で輝き出す。


エレナの唇が僅かに動く。


「……待って、ルナ……。待っ……」


言い切る前に動いたのはマリーだった。


マリーの背中に片翼が展開し、ノアの掌から跳躍し、そのままオルドへと音速で飛翔する。


しかしそれと同時に、ライフルからルナの激しい祈念を纏った弾丸が撃ち放たれた。

弾丸はオルドの頭部目掛けて一直線に飛ぶ。


マリーは体勢を翻し、弾丸の軌道に飛び込む。


「間に合って!」


マリーは祈念でバリアを展開し、弾丸が着弾する。


「――ダメだ! 防げない!」


激しい祈念波を纏った弾丸はバリアを貫通したが軌道がずれた。

そしてオルドのこめかみを擦り、弾丸は空へと消えていった。


マリーはオルドの首に掴みかかる。

オルドは振り落とそうとするが、マリーは離れない。


マリーにオルドの黒い祈念が流れ込む。


――お前は……。何故ここにいる。


「あの日……あなたを止めた後、あなたが残した最後の兵器に殺された」


――そうか……死んだか。


「今はその話はいい! オルド、止まれ! ここでもまた、あなたを殺したくはない! ここでは私の体内から溢れる祈念は地球とは桁違いだ。今の私は、あなたを簡単に滅ぼせる。あなた、ずっと探していたんでしょう。……エレナを。」


オルドの動きが止まる。

荒れ狂っていた黒い祈念が、僅かに揺らぎを失った。


――何が目的だ。


「私にもわからない。ただ……セレアがここにあなたを送ったのであれば、セレアの祈りがあなたにある。セレアには恩がある。私はあなたを救ける。一旦この都市の外へ出る」

 


ノアの掌で、エレナとルナは飛び去るマリーとオルドを見ていた。


ルナが舌打ちをする。


「厄介だな。エレナ、何者だあの女は!」


「わからない……。でも元は人じゃない。ただルナ、感じたでしょ。彼女の祈念……私たちよりはるかに上回っていた」


ルナは銃口を降ろす。

赤く揺らいでいた月が、白月に戻る。


「ダメだ、祈念は今の一発で使い切った。追えない」


エレナはがくりと膝から崩れ落ち、膝を抱える。


「はぁ……。レーテは何であの二つの魂を覚醒させたの? あんなの、私たちじゃ止められない」

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