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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十六章《Repeating Prayer》

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第108話《星の丘》

――数週間後

崩れた塔の周囲では、ネオスと祈念種が一緒に瓦礫を運んでいる。

都市機能が止まったユナガーデンでは、夜明けと共に作業が始まり、日が落ちる頃には家路へ就く。

 

アストレアからも多くの祈念種たちが塔の跡地へ訪れ、皆で作業をした。


その傍では、祈念種とネオスの子供たちが手を取り駆け回っていた。その輪の中心には、ナギの笑顔があった。


イエルはその風景を眺めて微笑んだ。


「ナギ、何してるんだ?」


ナギは楽しそうに答える。


「かけっこなの! ナギが一番早いの!」


イエルが頭を抱えて笑う。


「そりゃそうだ。ナギはオリジンなんだから。だからナギはこの中で一番強い。でもね、本当にすごいのはそこじゃない。一番優しいところだ。マリー様みたいじゃないか」


その言葉に子供たちが騒がしくナギを見る。


「ナギちゃん凄い!」

「確かにナギって優しいよな。でも力もすごいぞ」


それを聞いたネオスの男の子が不満そうに言った。


「ちぇっ。オレはオリジンだろうが女なんかに負けねーよ」


その言葉を聞いたナギがその子に言う。


「だったら、どれだけみんなのためになることをしたかで、勝負ね!」


キョトンとした男の子をナギが見つめる。


「わ……わかったよ。オレは負けねー!」


そしてナギに見つめられて男の子は顔を赤らめる。


それを見たイエルが優しく微笑む。


「君はまるで、オルガみたいな子だな」


「え……オルガ様! 僕、オルガ様みたいになりたい!」


「……そうだ。優しく強く。オルガみたいになれ」


イエルの指先が、ほんの少し震えた。

そして、その子の頭を優しく撫でた。



カイとルカは、ルミエルの人権派だった幹部たちと共に、中央議会地下の巨大な機械室へ来ていた。


天井まで届く無数の配管。

幾重にも重なる機械群。

そして中央には、巨大な円筒型装置が静かに佇んでいる。


「カイ様、こちらです」


「あの……カイ様はやめてもらっていいですか? オレ、そういうの苦手で……」


男は少し困ったように笑う。


「……あ、ではカイ君で良いかな?」


「はい」


カイは装置の前で立ち止まる。


「……これは……」


巨大な機械の表面へ、そっと手を触れる。

その構造は、見たことのないものだった。

しかしどこか懐かしい。


ルカのレンズも淡く光っていた。


「これは二千年以上前の文明に存在していた、エネルギー生成装置を復元したものです」


幹部が静かに続ける。


「ノエル様とラグス様は、祈念波へ依存しない都市づくりを目指しておられました」


カイは目を見開く。


「都市インフラの三十五パーセントまで普及したのですが……現在は停止しております」


男は悔しそうに俯いた。


「技師たちも、あの日……祈りの塔で消息を絶ってしまいました」


巨大な機械だけが、まるで眠っているように沈黙していた。


そしてカイが前へ出る。


「……少し、見てもいいですか?」


カイは巨大な装置へゆっくり近づいた。


中央にそびえる円筒状の機関核。

その周囲を幾重もの配管が取り囲み、圧力計の針は全て停止している。

低く響いていたはずの駆動音も、今は完全に止まっていた。


ルカが隣でレンズを明滅させる。


「……解析中……解析中……」


カイは装置の外装へそっと手を置いた。


その瞬間だった。


「……あれ」


違和感があった。

壊れている感覚がない。

それは静かすぎた。

まるで動きを止めて眠っているだけのような。


カイは装置の側面へ回り込む。

無数の配線が走り、回転機構と圧力制御弁が複雑に組み上がっている。

そして奥にある一つの制御盤の前で足を止めた。


「……これ」


カイの目が僅かに見開かれる。


「カイ君?」


幹部たちが顔を見合わせた。

カイは制御盤の蓋を開く。

内部には無数の回路と結晶体が並んでいた。

ルカのレンズが強く光る。


「一致率……八十三パーセント。ルカノ内部機構ト……似テル」


カイは思わずルカを見る。

そして再び装置へ視線を戻し、小さく呟いた。


「……そうか。これ……壊れてない」


その場が静まり返る。


カイは制御盤の奥へ手を伸ばした。


「止まってるだけだ」


皆が息を呑む。


「この機関、祈念波停止と同時に安全機構が作動してる。まだ都市機能は祈念波に依存していた。だから連動が必要だったってわけか。でも、これ単体でってことなら……」


ゆっくり立ち上がる。

カイは少し照れくさそうに笑った。

 

「だから……きっとこれは、起こせる。でもこれ、かなり効率は悪いですよ」


要人も微笑んだ。


「いいんです。我々も、祈念種の方々にいつまでも頼りっぱなしではいけないでしょう」


その瞬間、機械室の空気が変わった。

止まっていた都市が、もう一度呼吸を始めようとしていた。


カイは改めて痛感していた。

二千年、この都市を支え続けた者たちが背負っていたものを。

それが、どれほど孤独で、どれほど重いものだったのかを。



マリアスとエリカは都市から少し離れた星の丘にいた。

ヨウルは風に吹かれながら、二つ並んだ墓標の先を静かに見つめていた。

そこは、文明の始まりを語る銀白色の記念碑がある場所だ。


オルガとノエルはここに埋葬された。

ラグスの亡骸は、ラグスの父と名乗る者が現れ引き取っていった。


エリカが呟いた。


「私の記憶の始まりは、ここだった」


マリアスが空を見上げる。


「聖記書によれば、ユナ様がここで空に祈りを捧げた。それが全ての始まりだった」


「マリアス、お前は本当に信心深いな。私はアネシアに繋がれてからは、嫌というほどアネシアに聞かされたよ」


「それはいいことだ」


「私の身にもなってみろ」


二人は顔を見合わせ笑った。


「マリアス、私はもう休ませてくれないか。この丘の麓で、ひっそりと暮らしたい。ここで、オルガとノエルを見守ってるよ」


「それでいい。エリカ、あなたはもう十分この国に尽くした。今度は、自分のために生きればいい。あとは私たちに任せてくれ。オルガもきっとそれを望んでいる」


エリカが遠くを見つめる。


「そうだな……。しっかし、オルガは……。ルカに私へのメッセージを残していた」


マリアスが思い返す。


「そういえば、七区での戦いの直後、アストレアに戻ったオルガが何か一生懸命ルカに話していたな」


エリカは少しだけ口元を緩め、オルガの口調を真似た。


「エリカー! 結婚式はアストレアの宮殿でやろう。子の名前は決めてある。……エレナだ」


マリアスはオルガを真似るエリカをみて思わず吹き出す。


「まったくオルガは……。で? エリカはどうするつもりだったの?」


「さぁね。オルガの心の奥底は邪悪だ。私は見抜いている。アイツは女心をわかっていない」


マリアスはオルガの墓標を見る。

 

「女心ね……。次があるなら、その時は少しくらい気づけ。な、オルガ」


風が吹いた。

星の丘の草花が、さわさわと揺れる。


その時だった。


「ウォン」


ヨウルが静かに鳴いた。


二人が振り返る。

白銀の狼は、丘の向こうを見つめていた。


遠くに見える、再建途中のルミエル。


崩れた塔の跡地には、小さく、けれど確かに人影が見える。

誰かが瓦礫を運び、誰かが笑い、誰かが手を差し伸べていた。


エリカは静かに目を細めた。


「……騒がしいな」


マリアスは微笑む。


「それでいい」


空はどこまでも青かった。

この星の未来は、もう誰か一人が背負うものではなかった。

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