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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十六章《Repeating Prayer》

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第104話《塔の崩壊》

マリアスはラグスに剣を向け構える。

 

ラグスの手にはもう武器はない。

 

マリアスはエリカに問う。


「エリカ。今ここで、ラグスを殺めることは、新たな贖罪を生むのか。それが罪だと言うなら……私は背負う」


エリカはオルガの亡骸を抱いたまま静かに答える。


「マリアス……。殺してはダメだ。生きたままラグスには罪を償わせなければ。ラグスは祈りの墓場に堕ち……またその輪廻を繰り返す」


「しかし……殺さずしてこの男を止める術が見当たらない」


ラグスが軽く微笑む。


「さすがは、女神。寛大なお心遣い、感謝いたします。が……甘い」


ラグスは胸元に右手をやる。


「――起爆か!」


次の瞬間、マリアスはラグスの間合いの中にいた。

そしてラグスの右腕はマリアスに斬られ宙を舞う。


「クッ……!」


ラグスは苦悶の表情浮かべながら、後ろに倒れる。

その途中、ニヤリと笑った。


「……もう遅いのですよ、マリアス」


地下から轟音が鳴り響き、広間の石床が中央から崩れ落ちる。


「――ナギ!」


マリアスは身体を翻し、片翼を展開して崩落した床へ飛び込む。

しかしその時には、崩れた床と共に皆の姿は地下へ呑まれていた。

それと同時に、大扉が崩れ落ちる。

天井の岩盤が砕け、マリアスの上へ降り注いだ。



塔の外には多くのルミエルの国民が集まっていた。

ナギの祈念波に呼応するように、同調した祈念種たちが救いを求めるように塔を目指していた。

諦めていた何かが、まだそこに残っている。

そんな希望が、彼らの祈念核を震わせていた。


それを見たネオスたちがパニックに陥る。

集まる祈念種たち。

そしてノエルの死。


怒号が飛び交う中、イエルは声を枯らしながら民衆へ叫んでいた。


「落ち着け!」


イエルの声が広場へ響く。


「剣を取るな! 逃げるな! 今ここで争えば、本当にルミエルは終わる!」


混乱する民衆へ、必死に声を張る。


「祈念種は敵じゃない! 彼らは……僕たちを救うために来たんだ!」


ざわめきが揺れる。


それでもイエルは叫び続けた。


「父上は、こんな世界を望まなかった! それは兄、ノエルもだ! もうこれ以上、誰も憎むな!」


それでも民衆の混乱は収まらない。


次の瞬間、地面が大きく一度揺れた。

都市のインフラが停止する。

都市を満たしていた機械音が、一斉に消えた。

次の瞬間、轟音とともに祈りの塔が崩れ始めた。

ルミエルの象徴だった白亜の塔が、ゆっくりと地へ沈んでいく。


「――皆、離れろ!」


イエルの叫びと同時に、民衆が雪崩れるように後退する。

逃げ惑うネオスたちの悲鳴が広場に響き渡った。


祈りの塔はなおも崩れ続けている。

白亜だった外壁が砕け、巨大な瓦礫となって地へ沈んでいく。

二千年、祈念種たちが神聖視してきた象徴。

その崩壊を前に、祈念種たちはただ立ち尽くしていた。

崩れ落ちる轟音が大地を震わせる。

 

涙を流す者。

膝をつく者。

祈るように両手を組む者。


誰もが理解できずにいた。

信仰とは何だったのか。

守られていたはずのものが、なぜ崩れ落ちていくのかを。


イエルは唇を噛み締めた。

そのすぐ傍には、静かに横たわるノエルの棺がある。

吹き荒れる砂煙から兄を守るように、イエルはその棺へ覆い被さった。


「……兄さん」


震える声が、かすかに漏れる。


やがて風が吹き抜け、舞い上がっていた砂塵が少しずつ晴れていく。


その先に現れたのは――崩れ落ちた祈りの塔だった。


かつて空へ届くように聳えていた白亜の塔は、いまや巨大な瓦礫の山へと変わり果てている。


「……そんな……」


イエルは力を失ったように地へ膝をついた。

風だけが吹き抜けていく。


「あの中には……まだ皆がいる……」


掠れた声だった。


「マリアス……エリカ……オルガ……。カイも、ナギも……ヨウルも……ルカも……」


視線を逸らせない。

逸らしてしまえば、本当に全てが終わってしまう気がした。


「どうなってるんだ……。頼む……みんな、無事でいてくれ……」


祈るように呟いた、その瞬間だった。

瓦礫の奥で、何かが動く。


「……誰だ」


イエルの目が見開かれる。

希望と不安が入り混じる中、その影から目を離せない。


やがて、それはゆっくりと姿を現した。

右腕を失った、大柄な男。


「……ラグス」


イエルは息を呑む。

理解が追いつかなかった。

塔は崩れた。

ならば、あの中にいた皆は――。


「皆は……どうした……」


震える声で問いかける。


瓦礫の下敷きになって無事でいられるはずがない。

いくらマリアスたちでも。


「負けたのか……。皆は……死んだのか……?」


握り締めた拳が、地面へ叩きつけられる。


「すまない……アストレアの民よ……。すまない、マリアス……オルガ……。すまない、カイ……ナギ……。ヨウル……ルカ……」


絞り出すような声だった。

涙が地面へ落ちていく。


絶望の中、イエルは再び瓦礫の山へ目を向ける。

その間にも、ラグスはゆっくりと歩いてくる。

ふらつきながら。

失った右腕の傷を押さえながら。

満身創痍だった。

それでも、その眼光だけは死んでいない。

やがてラグスは、イエルの前で足を止めた。


「ラグス……マリアスたちはどうした」


イエルの声は、怒りと恐怖に震えていた。


ラグスは血の混じった息を静かに吐く。


「全員、塔の下へ落ちました」


その口元が、ゆっくり歪んだ。


「イエル様……私の勝ちです」


イエルの瞳に怒りが灯る。

ゆっくりと立ち上がり、ラグスを睨みつけた。


「勝ったから何だ……。だからといって、お前が父上を……お祖父様を……兄さんを殺した罪は消えない。必ず償ってもらうぞ」


拳が震える。


ラグスは首を軽く鳴らした。


「知りませぬ」


イエルの目が見開かれる。


「……何だと?」


「ですから、知りませぬ」


淡々とした声だった。


「ルシエ様は十七年前、祈念種に殺された。先代エリオ様も、祈念種に暗殺された。そして今日――ノエル様もまた、アストレアのマリアスに殺された」


わざとらしく目を伏せる。


「……なんということでしょう」


「――貴様ッ!」


怒声が響く。


だがラグスは笑みを崩さない。


「イエル様。あなたも……同罪ですよ」


ラグスは大衆に向き直る。

そして残された左腕を高く掲げた。


「ルミエルの民よ! 我々の勝利だ!」


その瞬間、ネオスたちの歓声が広場に鳴り響いた。


「ラグス……貴様ぁ……」


イエルは唇を噛み締め、その口から血が滴る。


「アストレアの女王マリアスは死んだ! 守護神オルガも、もういない! 我々に刃向かうものはもういない。今日、この日から新しいこの国が始まる! もう祈念種に怯えることはない!」


歓声はさらに熱を増す。


そしてラグスが冷徹な眼差しで言う。


「この都市の祈念種全てを……排除する」


一瞬の静寂。

そして誰かが、足元の石を拾った。


次の瞬間だった。

ネオスたちが、一斉に祈念種へ襲いかかった。

殴る者、蹴る者、石を投げる者。

あちこちで悲鳴が上がる。

幼い子供たちの泣き声まで混ざり始める。


イエルは必死に叫ぶ。


「やめろ! やめるのだ! 騙されるな!」


次の瞬間、イエルの襟首が掴まれ、そのまま地面へ叩きつけられた。


「――クッ!」


「イエル様、邪魔ですよ。あなたもここで死んでもらいます。罪を償いなさい」

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