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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十五章《崩壊の継承》

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103/121

第103話《あの日の約束》

十七年前、第七区にマリアスは家族と住んでいた。

突然、胸の奥の祈念核に流れ込む恐怖の祈念。


「――何?」


慌てて外に出ると、遠くから聞こえる激しい爆音と悲鳴。

母親が玄関の前に立ち尽くしている。


「ママ……何が起こってるの?」


「……ネオスが……街を焼いている……」


幼いマリアスには、それが何を意味するか理解できなかった。


遠くから声が聞こえた。


「マリアス! 無事か!?」


逃げるように駆け寄ってきたのは、まだ小さな身体で母親の手を引き走るオルガだった。

その瞳には堪えきれない涙が溢れている。


「マリアス……父さんが殺られた。父さんが母ちゃんとお腹の子を守れって……オレらを逃して……振り返った時には……」


オルガは涙を拭う。


「マリアス行こう、もう七区はダメだ」


マリアスは遠くに目をやる。

そこには大柄な男が何百機と黒いユニット群を従え、街を破壊し、祈念種を次々と斬り捨てていく。

ユニットもまた、建物を焼き破壊していく。

七区の祈念種たちは抵抗する術もなく、ただ悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。


「……どうして……? 私たち、祈っていたのに……」


問いより先に、恐怖が胸を埋め始めていた。


次の瞬間、オルガの背後にユニットが一機滑り込み鋭い前脚を振り上げ――そして落とされた。

 

「オルガ!」

 

マリアスは直視できずに目を塞ぐ。

ゆっくり目を開くとそこには信じられない光景があった。

オルガと身籠った母親を庇うようにマリアスの母が立ちはだかり、その胸を前脚が貫通していた。


「――ママー!」


その脚が、ゆっくりと引き抜かれる。

赤いレンズが、今度はマリアスへ向いた。


その時だった。

マリアスの祈念核に激しい波動が波打つ。

それはメッセージだった。

悲しくも無力に叫ぶように、それでもただ必死に伝えようとする祈念。


――逃げて! 早く逃げて!


「――エリカ」


その祈念を受けたマリアスには、記憶とは違う懐かしさと使命が蘇るような不思議な感覚だった。


「……私は……始祖マリー様の思いを引き継ぐ者。……ユナ様とピリカ様と共に……」


マリアス自身も理解はできない。

ただ感覚的に祈念核に何かが流れ込む。

魂の系譜がまるで蘇るように脳裏に見える。


「……また……この地で巡り会う……」


立ち尽くすマリアスの腕をオルガが強く引く。


「マリアス! 逃げるぞ! 母ちゃんも早く!」


マリアスは我に返った。

だが、広がる惨状に足が動かない。


「マ……マ……。……ママー!」


目の前に迫り来るユニット。

ユニットが再びマリアスへ脚を振り上げる。


次の瞬間、ユニットの頭上に影が落ち、そのまま剣が突き刺さる。

ユニットはそのまま崩れ、レンズの光が消えた。


ルシエだった。


「マリアス! オルガ! そのまま国境を越えてルミエルを出ろ! 走れ!」


オルガに強く手を引かれ、マリアスは夢中で走った。


国境には大型の警備ユニットが立ち尽くしていたが、静かにルミエルを去る祈念種たちを見守っていた。

オルガの母も他の祈念種に支えられなんとか国境を越えた。


森の悪路を生き残った何百という祈念種たちはただ進む。


もうどれほど歩いただろうか。

疲れを滲ませるオルガが母に尋ねる。


「母ちゃん、オレたちはどこに向かってるの?」


オルガの母は顔色が悪かった。

その様子に気づき、二人は自然と歩みを緩めた。


「アストレア。祈念種が集まる国。みんなが幸せに暮らせる国よ」


厳しく情報統制されたルミエルに暮らす祈念種にとって、アストレアは理想郷であり、本当に実在するかなど半信半疑だった。

それでも信じて歩くしか、彼らには道はなかった。


背後から二人を呼ぶ声がした。


「マリアス! オルガ!」


駆け寄ってきたのは数人の護衛と共にいるイエルだった。


「二人とも無事だったか……良かった」


三人は互いの手を掴み、そのまま声を上げて泣いた。


イエルが震えながら話す。


「父上が……ラグスに殺された」


マリアスの目が見開く。


「ルシエが……ルシエが私たちを逃してくれたの」


マリアスの目にも涙が滲む。


オルガも泣きながら口を開く。


「オレも、父さんが……マリアスのお母さんも、目の前で……。マリアスのお父さんも行方知れずだ」


イエルはその場に崩れるように膝をついた。


「すまない……ネオスが君たちを……本当にすまない」


イエルの涙が地面に滲む。


「なのに君たち祈念種は、僕を助けてくれた……。国境を抜けるとき、僕を守るために命を落とした人たちもいた……。ごめんなさい、ごめんなさい」


オルガの母が、崩れ落ちたイエルの肩に手を乗せる。


「イエル様、私たちは種族など関係ないのです。あなたのお父上も仰っていたでしょう。ルシエ様は立派なお方でした」


オルガの母はそっとイエルの手を引き、立ち上がらせる。


「イエル様、共に行きましょう。アストレアへ」


「でも……僕はネオスだから……アストレアへは……」


イエルの言いかけた言葉を、マリアスは制止した。


「イエルも一緒に行こうよ。アストレアへ!」


オルガも手を差し伸べる。


「行こう、イエル。でも……アストレアなんて本当にあるのか?」


イエルが大きく頷く。


「うん、アストレアはある。およそ百年前からね。ただ、とても貧しい国のようだ。父上がいつかアストレアも豊かにしたいと言っていた」


マリアスは遠くを見るように呟く。


「アストレアを豊かに……みんなが幸せに暮らせる国。……ずっと昔から、それを願っていた気がする」


「はぁ? 何を言っているんだマリアス」


少し呆れたようにオルガがマリアスを見る。


「私たちが創ろうよオルガ、私はやるよ! イエルは?」


「でも……僕、ネオスだし……」


「関係ない! みんなの中にはネオスも入ってる」


オルガが少し目を伏せる。


「本気かマリアス。そんなこと……。エリカはどうするんだよ。みんなの中に入っているのか?」


「もちろん! だからオルガ、私に手を貸して」


「……しょうがねぇな。わかったよ」


三人は手を取り合った。


オルガの母は、夢を語り合う幼い子供たちを、静かに見つめていた。


数日歩き続けた末、祈念種たちはようやくアストレアへ辿り着いた。

だが、そこに理想郷はなかった。

住人たちの瞳に光はなく、街には疲弊だけが沈殿していた。


オルガの母は、アストレアに着いた直後に子を産み、それと引き換えに命を落とした。

身重の身体での逃避行は、あまりにも過酷だった。


オルガはその子を、カイと名付けた。


マリアスはカイを抱き、オルガに言った。


「オルガ、この子を知ってる気がする。安心して。私がこの子の母親がわりになるから」


「マリアス、また変なこと言ってるな。まぁなんかそれがマリアスらしいって思うようになってきたよ」


その夜。

荒れ果てたアストレアの空を、三人は並んで見上げていた。


灯りも少なく、風は冷たい。

それでもマリアスは、小さく笑った。


「いつか必ず、この国を……皆が笑って暮らせる場所にする」


オルガは呆れたように肩をすくめる。


「……でっかい夢だな」


「でも、嫌いじゃないだろ?」


その言葉に、イエルも静かに笑った。


冷たい夜空の下。

三人の小さな約束だけが、静かに未来へ残された。

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