どうやら帝国最強の魔導卿でも愛子の賄賂には勝てないようです
「魔力がうまく使えるってことは〜!」
ミラが満面の笑みでぱっと両手をかざすと、その指先からきらきらと輝く星屑みたいな魔力が溢れ出した。
それは空中で細い糸のように編み上がり、次々と色とりどりの、見たこともないほど美味しそうな『魔力お菓子』へと姿を変えていく。
「わぁ〜い、できたぁ〜!」
最初に降り注いだのは、ミラうさぎ、ミニ・ハク、そしてコハク、クウ、チョコ、テンたちの前だった。
「(……キュゥゥ!)」
「(……ガウッ!)」
騎士団は大喜びで、ミラが自分たちのために作ってくれた特別な魔力の塊へ飛びつく。
ミラの愛が直接練り込まれたお菓子は、どんな高級な魔力源よりも美味しいらしい。
頬張った瞬間、みんなの全身がほわっと温かな光に包まれた。
その様子を見ていた水ちゃん、碧ちゃん、紫ちゃんをはじめ、庭中の小さな精霊たちが羨ましそうにそわそわし始める。
「あ、みんなも食べられるの? はい、どうぞ」
ミラがさらに大きく手を広げると、今度は先ほどの倍以上の量の魔力お菓子が、まるで天の川のように庭いっぱいへ広がった。
優しい魔力の風に乗って、きらめくお菓子が精霊たちのもとへ届いていく。
水ちゃん、碧ちゃん、紫ちゃんは、自分たちの顔より大きなお菓子を両手で抱え込み、「(……美味しい! ミラ、大好き!)」と光り輝きながら飛び回った。
木の上の小精霊も、花の中の妖精も、草むらの精霊も、空を舞う風の精霊たちも。
みんな一斉に『愛子の恵み』へ歓声を上げ、庭そのものが喜びの歌に包まれていく。
「……ははは! 凄まじいな」
聖霊王は、黄金に輝くお菓子の風を眺めながら愉快そうに目を細めた。
「覚醒したばかりで、これほど精密で、しかも慈愛に満ちた広域魔法を放つとは。こんな愛子は、きっと彼女だけだろう」
ゼノスもまた、ミラの驚異的な制御能力に目を見張っていた。
だが、それ以上に胸へ響いたのは、みんなの喜びをそのまま自分の幸せみたいに笑うミラの姿だった。
その時、ミラはふと聖霊王の手元を見た。
「あれ? 聖霊王様はお茶を飲んでますよね?
みんなは魔力がご飯? 人間の食べ物は食べられないの……ん?」
聖霊王はクリスタルのカップを揺らし、慈しむように答えた。
「ふふ、いい質問だ。精霊は魔力の奔流そのもの。食べなくても生きてはいける。だが、人間が作る食べ物の味や、感情の乗った魔力は格別なのだよ」
その視線がやさしくミラへ落ちる。
「特に、愛子である君の魔力は……我ら精霊にとって、一生に一度出会えるかどうかの最高級のご馳走だ」
「えぇっ、そうなんですね! それなら……」
ミラは慌てて、近くに控えていた美しい上位精霊たちの方へ向き直った。
「ごめんね! さっきは『失礼かも』って思って渡さなかったの。意地悪になっちゃった。ごめんね!」
再び手をかざす。
今度は、さらに密度が高く、七色に輝く特製の魔力お菓子が生み出された。
「……まぁ、なんて芳醇な魔力なの……」
「……ありがとう、愛子様。こんなに優しい味、初めてです」
優雅に佇んでいた上位精霊たちも、その飾らない優しさと美味しすぎるお菓子に、一瞬で心を奪われてしまったらしい。
庭全体が、ミラへの感謝と親愛でさらに眩しく発光し始める。
そしてミラは最後に、目の前の聖霊王へひときわ大きく、流れ星を閉じ込めたような金色のお菓子を差し出した。
「はい、聖霊王様にもあげます!」
満面の笑み。
「出会いに感謝と、これからも仲良くしてくださいねの『わいろ』ですっ」
聖霊王は一瞬きょとんとした。
それから次の瞬間、お腹を抱えて笑い出す。
「はははは! 私に賄賂を贈るとは、君は本当に面白い!」
その笑い声は、さっきまでの神々しい威厳すら吹き飛ばしてしまいそうなほど楽しげだった。
「いいだろう、喜んで受け取ろう。こんなに甘くて温かい賄賂なら、いくらでも歓迎するよ」
その様子を横で見ていたゼノスは、内心で少しだけ冷や汗をかいていた。
(……聖霊王に賄賂、か。……全く、ミラには敵わないな)
どんなに言葉を尽くしても。
どんなに理を説いても。
彼女の笑顔と、お菓子ひとつで、世界の理そのものみたいな存在まで動いてしまうのだから。
ゼノスはそっとミラの腰を抱き寄せた。
幸せそうに『わいろ』を頬張る聖霊王と、それを見て満足そうに笑うミラを、宝物を見るような目で見つめる。
「……ミラ」
「はい?」
「君の贈り物は、やっぱり恐ろしいね」
「え? なんでですか?」
「世界すら、君の味方にしてしまうからだよ」
「ふふっ。じゃあ、ゼノス様ももっと味方になってくださいね?」
「今以上を望むのかい?
僕は最初から、全部君のものなのに」
「重いです〜!」
ミラが笑い、聖霊王がまた吹き出す。
星の庭には、甘い香りと笑い声がいつまでも満ちていた。
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