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どうやら帝国最強の魔導卿が小さな守護者たちに感謝したようです


精霊王は、皆を見渡せる中央の席に悠然と腰掛け、ミラたちを楽しげに見つめていた。


「ミラ、おいで」


 ミラはゼノスとともに、精霊王の座るテーブルへ向かう。


「ようこそ。こんなに早くこちらへ来てくれるとは思わなかったがな」


 聖霊王は笑い、嬉しそうにミラを見た。


 ゼノスはその眼差しを遮るように、そっとミラを抱き寄せる。


 精霊王はそんな二人へ席を勧め、ほどなくして香り高い茶が運ばれてきた。


 ミラはカップを手に取り、一口そっと啜る。


 それから、不思議そうに小首を傾げた。


 その様子に気づいたゼノスが、すぐに優しく問いかける。


「どうしたんだい?」


「……あり得ないと思ったんですけど」


 ミラは、手の中のカップを見下ろしたまま言った。


「私、昔は市場で一番安いお茶を買ってたんですよ。本当にお金がなかったから、一番安いやつを……。でも、今飲んでるこの最高級のお茶、全く同じ味がします」


 その言葉に、ミラの周りを飛んでいた三つの光――水ちゃん、碧ちゃん、紫ちゃんがぴたりと止まった。


 さっきまで得意げに飛び回っていたのに、今は見るからに挙動不審である。


 水色の水ちゃんは、あわあわと空中を泳ぎながら目を逸らし。

 碧色の碧ちゃんは、口をへの字に結んで、紫ちゃんの影へ隠れようとし。

 紫色の紫ちゃんは、頬をぽっと赤くして、小さな手で顔を覆っていた。


 ミラはじっと三人を見つめる。


「……もしかして」


「(……あ、バレちゃった?)」

「(……だって、ミラに美味しいお茶を飲んでほしかったんだもん!)」


 三人の顔には、いたずらが見つかった子どもみたいな気まずさが浮かんでいた。


 その様子を見て、聖霊王はすべてを悟ったらしく、愉快そうに肩を揺らす。


「なるほど。そういうことか」


「ミラ、一口いいかい?」


 ゼノスはミラのカップを借り、その黄金色の雫を静かに口へ含んだ。


 次の瞬間。


 彼の美しい眉が、驚きで跳ね上がる。


「なっ……これは!? 聖霊王、このお茶は一体……?」


 聖霊王は楽しげに微笑んだ。


「精霊界の最奥にしか咲かない『常若の蕾』から淹れたものだよ。

 飲む者の寿命を数倍に延ばし、病を遠ざける、至高の霊薬だ」


 そして、三人の小さな精霊たちへ視線を向ける。


「……どうやらこの子たちは、何年も前からミラの飲むお茶へ、これを一滴ずつ混ぜ込んでいたようだな」


「……凄いお茶、飲んでました」


 ミラが素直に報告すると、ゼノスは脱力したように、けれど心の底から安堵したように息を吐き出した。


「……そうか」


 その声は、わずかに震えていた。


 ゼノスはミラを抱き寄せ、その細い肩へ額を寄せる。


「……あぁ、感謝するよ、小さな守護者たち。

 僕は……君との寿命の差をどう埋めるか、そればかりを魔法書で探していたんだ」


 その言葉に、ミラはそっと目を瞬いた。


 ゼノスにとって、人間である自分との時間の断絶がどれほど大きな不安だったのか。

 今さらのように、その重みが胸へ落ちてくる。


 ミラはふふっと笑って、目の前でそわそわしている三人を見つめた。


「いつも美味しいお茶をありがとう」


 三人の小さな精霊たちが、びくりと震える。


「おかげで、ゼノス様やみんなと、これから先もたーっくさん一緒にいられるのね。……三人には、本当に感謝だわ」


 ミラが指先で、その小さな頭を順番に撫でる。


 すると三人は全身を小刻みに震わせ、喜びを爆発させるみたいに光を放った。


「(ミラが喜んでる……!)」

「(よかったぁ……!)」

「(えへへ……!)」


 ゼノスもまた、自分を救い、共に歩む時間まで用意してくれたこの小さな恩人たちへ、尊敬を込めた眼差しを向ける。


 そんな幸せな光景を見守っていた聖霊王が、ふともっともな不満を漏らした。


「喜ばしいことだ。……しかし、愛子を見つけていたのなら、私にもすぐ教えてほしかったものだな。そうすれば、このゼノスに会うよりずっと前に、私はミラに会えたはずなのだが?」


「「「(……はっ!!)」」」


 三人は、空中で一斉に飛び上がった。


「(……そういえば、王様に報告するの忘れてた!)」

「(……ミラを独り占めしたくて、つい……!)」


「あはは! 三人とも、そんな顔しなくても大丈夫ですよ」


 ミラの屈託のない笑い声に、聖霊王も「……全くだな」と負けを認めるように笑った。


 その隣で、ゼノスだけが内心でひっそり冷や汗をかいている。


(……先に会われていたら、僕はミラを独占できなかったかもしれないな)


「ゼノス様、どうしました?」


「……いや。小さな守護者たちへ、ますます感謝しなくてはと思ってね」


「ふふ、そうですね」


 ミラが笑って頷く。


 その様子を見て、ゼノスはますます複雑な顔になったが、結局は苦笑するしかなかった。


 星降る森の奥。


 小さな守護者たちが、ずっと前からミラへ贈っていたのは、ただのお茶ではなかった。


 それは、ゼノスとミラがこれから先も一緒にいられるようにと、誰よりも早く願ってくれていた、優しくて、長い、永遠の時間だった。

読んでいただきありがとうございます。

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