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どうやら帝国最強の魔導卿が彼女が昔から愛されていたことを知ったようです

ミラは体に巡るあたたかな力へ意識を集中させた。


すると――


「ゼノス様、聖霊王様……誰かが私を呼んでる……」


ミラがふらりと、導かれるように祭壇の奥へ歩き出した。


 行き止まりの結晶の壁があるはずなのに、ミラがそっと手を伸ばすと、それは薄い絹のカーテンみたいに左右へ分かれ、未知の空間を静かに開いていく。


 一歩踏み出した先に広がっていたのは、星の光が永遠の昼をもたらす『聖霊の庭』だった。


 これまで見てきた結晶の森よりもさらに生命力に満ち、見たこともない色彩の花々が咲き乱れる、息を呑むほど美しい楽園。


「わぁ……。みんな、そこにいたの?」


 ミラが目を丸くして見渡すと、そこには大小さまざまな姿をした精霊たちが、息を潜めて彼女を待っていた。


 木の上からは、柔らかな光をまとったリスみたいな小精霊たちが身を乗り出し。

 大きな花の中からは、透き通る翅を持つ妖精たちが恥ずかしそうに顔を出す。

 足元の草むらからは土の精霊たちがもぞもぞと起き上がり、空中では風の精霊たちが小さな旋風となって舞っていた。


 何百、何千という純粋な魔力の瞳が、一点の曇りもなく、ただミラだけを見つめている。


「……これほどまでの数が、一斉にミラを呼んでいたというのか。ミラ、怖くないかい? 僕の魔力で彼らを遠ざけるが……」


 ゼノスが反射的にミラの肩を抱き寄せる。


 けれどミラは、やさしく首を振った。


「ううん、ゼノス様。みんな、『おかえりなさい』って言ってくれてるよ」


 ミラが一歩進むたび、足元の花々がほころぶように開き、空を舞う精霊たちが光の粉を祝福みたいに降り注がせた。


 肩に乗ったミニ・ハクも「キュゥゥ」と嬉しそうに声を上げる。

 後ろを歩くコハクたちも、神々しい小精霊たちの気配にどこか神妙な面持ちで続いていた。


 その足元で、ミラうさぎだけが負けじと鼻をひくひくさせている。


「(……ぷいっ! 私のライバルがこんなにたくさんいたなんて!)」


「あはは。ミラうさぎ、拗ねないの」


 ミラはその小さな体をひょいと抱き上げた。


「君はゼノス様の魔力だけど、意思を持たせたのは私なんだね。いつも守ってくれてありがとう」


「(……きゅぅぅん!)」


 ミラうさぎは、これまでにないほどきらきらと輝きを放った。


 その光を見て、ゼノスは静かに息を呑む。


 自分の魔力が、ミラの愛によって確かに『命』を得ている。

 その事実が、胸の奥をじんわりと満たしていった。


 やがて、上位精霊の女性たちに案内され、ミラたちはクリスタルで編まれたガゼボへ辿り着く。


 そこには星の雫を固めたみたいな菓子が並び、淡く輝いていた。


 その時だった。


 ミラの周囲を、特に親しげに飛び回る三つの光があった。


 ミラはその輝きを見た瞬間、ぱっと顔を輝かせる。


「あ! もしかして……水ちゃん? 碧ちゃん? 紫ちゃん?」


 三つの光が、ぴたりと止まった。


『……分かるの?』

『私たちのことが……?』


「うん、分かるよ!」


 ミラは嬉しそうに頷く。


「キラキラ澄んでる水色と、鮮やかな碧色、それに優しい紫色だもん。ずっと私のそばにいてくれてたでしょう?」


 三人の小さな精霊たちは、自分たちの“色”を理解し、名前までつけてくれていたミラに感動したように、一斉に彼女の頬へすり寄った。


「ふふ、くすぐったいよぉ!」


 ミラが楽しそうに笑う。


「ゼノス様、見てください! 昔からの仲良しさんたちですっ」


「……あぁ」


 ゼノスはその光景を、少し驚いたように、それから深く慈しむように見つめた。


「君が一人で工房にいた時も、彼らが君を守っていたんだね。感謝するよ、小さな守護者たち」


 そう言って、そっと指先を差し出す。


 三つの光は一瞬だけ警戒するように揺れたあと、やがて安心したようにその指へふわりと触れた。


 聖霊王が、静かに目を細める。


「……なるほど。普通の人間なら姿形でしか精霊を識別できない。だが愛子は違うのだな」


 その声音には、深い感嘆が滲んでいた。


「君はずっと、彼らの“色”で見ていた。魂の質で、彼らを識っていたのか」


 ミラはきょとんと首を傾げる。


「え? だって、色ってすごく大事じゃないですか。雰囲気も、温度も、みんな違いますし」


「……やはり、君はとんでもない」


 ゼノスは半ば呆れ、半ば誇らしげに笑った。


 工房でひとり紐を編んでいた頃から。

 ミラは誰にも見えないものを、ちゃんと見ていたのだ。


 聖霊の庭に、やわらかな光が満ちていく。


 ミラの頬に寄り添う小さな精霊たち。

 肩で喉を鳴らすハク。

 腕の中できらめくミラうさぎ。

 そして、その全部を見つめるゼノスの眼差し。


 愛子は、今さら特別になったわけじゃない。

 ただ、昔からずっと、こんなふうに世界に愛されていたのだと――誰もが、ようやくそれを知ったのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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