どうやら帝国最強の魔導卿が充電器扱いされているようです
「……主様。こちらの至急案件は、すでに三号兎が仕分けを終え、四号兎が関係各所への搬送を完了いたしました。さらに、主様の肩の凝りを察知した十号から十二号が、現在『全力肩叩き』を遂行中でございます……」
執務室の隅で、側近が膝をつき、絶望したように床を見つめていた。
彼の目の前では、ミラに調律されたうさぎたちが一糸乱れぬ動きでインクを補充し、書類を運び、完璧な連携で仕事を回している。
「……私の十年間に及ぶ苦労は何だったのでしょうか。
私、もう……居場所がありません。明日から田舎に帰って、羊でも数えて暮らします……」
「あはは! 側近さん、そんなに落ち込まないで。よかったじゃないですか」
ミラが優しく笑う。
だが、当のゼノスはそれどころではなかった。
その肩には三匹のうさぎが乗り、小さな前足で「トテトテトテ!」と猛烈な勢いで肩を叩いている。
「……ミラ。確かに効率は上がったが、これでは君を抱きしめるための余白が全くないんだが?」
「仕事中に何言ってるんですか」
ミラが呆れたように返した、その時だった。
キビキビと動いていたうさぎ軍団の動きが、一斉に鈍る。
耳がへにょりと垂れ、瞳の光がちかちかと点滅し始めた。
「あ、みんな電池切れかな?」
ミラが呟くより先に、本能に従ったうさぎたちが一斉に動いた。
「(魔力だ! 源泉へ急げ!!)」
数十匹の白銀の塊が、津波のようにゼノスへ殺到する。
「お、おい! 待て、一匹ずつ――わっ!
ちょっ、そこはポケット……! こら、登るな!!」
一瞬で、ゼノスの姿が消えた。
頭の上、肩、腕、足元――全身がうさぎで埋まり、そこには人型のうさぎの山だけが残されている。
「あはははは! ゼノス様、埋もれてる! 面白すぎます!」
「……ミラ……っ、笑ってないで、助けて……。
……くっ、魔力が、一気に持っていかれる……!」
ゼノスが半ば悲鳴を上げながら魔力を放出すると、うさぎたちは「(ぷはー! 満タン!)」とでも言いたげに、再びぴんぴんと跳ね回り始めた。
ようやく顔を出したゼノスは、銀髪をぼさぼさに乱し、精根尽き果てたような顔でミラを見つめる。
「……決めたよ、ミラ。
お忍び旅行には、こいつらは一匹も連れて行かない」
「えっ、そこですか?」
「当然だ」
ゼノスは真顔だった。
「……側近。このうさぎたちは全部お前に預ける。
こいつらを使って、僕がいない間の仕事を全部終わらせておけ」
「……っ!! 主様!」
さっきまで床を見つめていた側近が、光の速さで立ち上がる。
「撤回します! 田舎には帰りません!
この『うさぎオフィス』、全力で維持させていただきます!!」
「現金すぎません?」
「ミラ様、私は元々こういう男です」
側近は涼しい顔で言い切ると、次の瞬間にはうさぎたちと完璧なフォーメーションを組み始めた。
「三号兎は右列、七号兎は補充班へ。
十号から十二号は主様から一度離れなさい。魔力を吸い尽くすと仕事になりません」
「(りょうかーい!)」
執務室は、もはや魔導卿の部屋ではなかった。
ミラが生み出した奇跡の毛玉たちが支配する、世界一賑やかで、世界一優秀な作業場である。
そして、その中心で。
「……ミラ。やはり、僕の隣には君だけいればいいんじゃないかな」
「うさぎたちにまで嫉妬しないでください」
「嫉妬するよ。
君が作ったものは、全部ずるい」
ゼノスがぼそりと呟くと、ミラはとうとう吹き出した。
魔塔の執務室は今日も、甘くて騒がしく、そして前代未聞の効率で回っていた。
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