表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/45

どうやら帝国最強の魔導卿がうさぎを標準装備し始めたようです


「……ふぅ。ようやく静かになった。これで君を思う存分――」


 ゼノスは、もふもふの山からようやく生還し、乱れた襟元を整えながら椅子へ深く腰掛けた。


 目の前では、ミラが作った『魔力の揺りかご』にうさぎたちがぎゅうぎゅうに詰まり、幸せそうに寝息を立てている。


 だが、ミラはゼノスの顔を見るなり、堪えきれずに吹き出した。


「ふふっ……ねぇ、ゼノス様。

 ……頭の上に、まだ一匹いますよ?」


「……え?」


 ゼノスは初めて自分の頭頂部に意識を向けた。


 そこには、総大将であるミラうさぎが、ゼノスの銀髪を高級ソファか何かだと思っているのか、どっしりと鎮座していた。


 しかも最高出力の魔力を脳天からダイレクトに吸い上げているせいか、その銀糸の毛並みはいつもより一段と艶やかに輝いている。


「……ああ。……そういえば、乗っていたね」


 ゼノスは、ようやく気づいたとでも言いたげな顔で自分の頭に手をやった。


 だが。


 ぱしっ。


 ミラうさぎは「(ここは私の指定席よ!)」と言わんばかりに、ゼノスの指を小さな前足で叩いて拒絶した。


「あはは! 完全に住みついてるじゃないですか!」


「……信じられないな。この僕が、自分以外の気配を頭の上に乗せたまま忘れていたなんて」


 ゼノスは少しだけ目を細める。


「だが、不思議と不快じゃない」


「えぇーっ、あんなに『邪魔だ』って怒ってたのに?」


「……君に似ているせいかな」


 ゼノスは真顔のまま、とんでもないことを言った。


「重さも、温もりも。……もはやこの適度な重みがないと、重心が狂って魔法の精度が落ちるような気さえしてくる」


「適応が早すぎません!?」


 もはやミラうさぎは、邪魔な存在ではなく、ゼノスの**標準装備**として認識され始めているらしい。


 その様子を、側近が無表情のまま手帳へ書きつける。


【魔導卿・観測記録:新習慣】

主様は、うさぎを頭に乗せた状態を「標準」と認識。

威厳は低下したが、機嫌はすこぶる良い。……このまま放置。


「ふふふ! さすがに頭の上はシュールすぎますよ、ゼノス様。

 ……ほら、せめて肩にしたらどうですか?」


 ミラは笑いながら手を伸ばし、ゼノスの銀髪へ爪を立てて踏ん張っていたミラうさぎを、そっと摘み上げた。


 ゼノスは「ああ、なるほど」と小さく頷き、左肩を差し出す。


「(……ぴょんっ!)」


 ミラうさぎは不満げに鼻をひくつかせながらも、ゼノスの広い肩へ飛び移った。


 そこはゼノスの顔のすぐ横。


 ミラうさぎは耳元へ自分の長い耳を寄せ、まるで「(ゼノス様、浮気しちゃダメですよ)」と見張っているような格好で落ち着いた。


「……なるほど」


 ゼノスが少しだけ表情を和らげる。


「これなら重心も安定するし、視界も遮られない。

 ……それに、耳元でこいつの魔力が動くたびに、まるでミラ、君に囁かれているような錯覚に陥る。……これは最高だ」


「もう、ゼノス様は何でも私に結びつけるんだから!」


 ミラは笑いながらも、満更でもなさそうに頬を緩めた。


「……でも、うん。さっきよりずっと様になってますよ。

 かっこいい魔法使いさんと、可愛い使い魔さんって感じ♪」


 その言葉に、ミラうさぎも「(当然よ!)」とばかりに胸を張る。


 側近が再び無表情に手帳を更新した。


【魔導卿・観測記録:お引越し】

王冠から「肩乗せ使い魔」へ移行。

主様は「ミラに囁かれているようだ」と供述。……重症。

だが、威厳は「シュールな王」から「溺愛する魔獣使い」へと微増。


「ふふ。……さあ、ミラ」


 ゼノスはミラうさぎを肩に乗せたまま、再びミラの手を絡め取った。


「肩の護衛もついたことだし……邪魔者が完全に眠っている今のうちに、僕にも『ご褒美』をくれないかな」


「はいはい、またそうやって甘いこと言って……」


 ミラが呆れ半分に返した、その瞬間。


 ちょん、ちょん、ぺしぺし。


 肩の上のミラうさぎが、ゼノスの頬を前足で軽く叩き始めた。


「……ん?」


 さらに、ぺしぺしぺしっ。


 今度は少し強めだ。


「あはは! ほら、ミラうさぎも『ちゃんとお仕事して!』って怒ってますよ!」


「……やれやれ。君の分身は、僕に対してだけ随分と厳しいようだね」


 ゼノスは苦笑しながらも、ミラの手を離さないまま、残った書類へとペンを走らせた。


 さらさらさら。


 肩にはうさぎ。

 膝のすぐそばにはミラ。

 足元には眠るもふもふの山。


 そんな異様な布陣にもかかわらず――いや、だからこそなのか、ゼノスの集中力はかつてないほど冴え渡っていた。


「……すごい。肩にうさぎ乗せたままでも、普通に速い……」


「普通ではありません。主様はだいぶおかしいです」


 側近が冷静に訂正する。


「ただ、仕事が進んでいるのは事実ですので、本日は見なかったことにいたします」


「側近さんも順応してきてません?」


「生きるためです」


 即答だった。


 ミラはとうとう声を上げて笑い、ゼノスもつられたように目を細める。


 魔塔の執務室は、今日も騒がしくて、甘くて、そして妙に平和だった。


 肩の上のミラうさぎが、満足げに耳を揺らす。


 最強の魔導卿は、今日からどうやら**うさぎを標準装備**するらしい。


読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマークや評価いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ