どうやら帝国最強の魔導卿の魔力が新しい形になってしまったようです
自分の魔力から生まれた「網」を不敬な新参者として敵視するゼノス。
その網に嫉妬するハクたち。
さらに、ミラのそばにいたい一心で暴れる三枚の網。
――完全に収拾がつかない。
「……もぉー!! いい加減にしてください!
ゼノス様も、ハクたちも、網さんも!」
ミラの声が、雷みたいに落ちた。
「喧嘩するなら、まとめて形変えますよ!?」
その一言で、空気がぴたりと止まる。
「そこ、動かない! ……えいっ!」
ミラは三枚の網を空中でひょいと捕まえ、そのまま指先を走らせた。
絡み合う魔力。
ゼノスの濃密な執着と、ミラの優しい手つきが混ざり合う。
銀糸は淡く光を帯び、するすると形を変えていった。
数分後――
ミラの手の中に、小さな白いうさぎが生まれていた。
「……できた。はい、これでもう喧嘩しないでしょ?」
それは、ただのぬいぐるみではない。
長い耳。
ミラの瞳と同じ色の小さな石。
少しだけ気が強そうで、それでいて柔らかな雰囲気。
――まるで、ミラそのものだった。
「…………」
場が凍る。
ハクも、コハクも、クウも、テンも、チョコも。
そしてゼノスまで、ぴたりと動きを止めた。
(……ミラに似すぎている……)
ゼノスは思わず息を呑む。
(……触れることすら、畏れ多い……)
自分の魔力から生まれた存在のはずなのに。
そこに宿った“ミラ”の気配が、あまりにも強かった。
とことこと、うさぎが動き出す。
ためらいなくミラの腕を登り、首元へぴたり。
ぎゅっとしがみついて、すりすりと甘えた。
「わぁ、可愛い……!」
ミラの頬が、ふにゃりと緩む。
うさぎは満足そうに鼻をひくつかせると、今度はくるりと向きを変え、ゼノスたちの前へ進み出た。
ぴょこん、と耳を揺らす。
それから、ぺこり。
まるで「仲良くしてくださいね」とでも言うように、小さく頭を下げた。
――勝負ありだった。
「……ずるいよ、ミラ」
ゼノスがぽつりと呟く。
「あんな顔で挨拶されたら……
もう何もできないじゃないか」
「ふふ、でしょ?」
ミラは満足げに笑った。
「今日からこの子、私の助手ね」
それからしばらくして。
魔塔の最上階は、また賑やかな空気に包まれていた。
うさぎは五体の間をぴょこぴょこと駆け回り、背に乗り、翼にぶら下がり、完全に遊びを支配している。
だが、ふいに動きが鈍った。
耳が、しゅんと垂れる。
「……あ、電池切れ?」
ミラがそう言った途端、うさぎはぴたりと動きを止め、くるりと向きを変えた。
一直線に向かった先は――ゼノスだ。
「…………またか」
ゼノスは本を閉じ、ゆっくり視線を落とす。
うさぎは迷いなく膝を登り、そのまま胸元へ。
ぎゅっとしがみついて、離れない。
「(魔力ください!)」
「……僕を何だと思っているんだい」
呆れた声だった。
けれど、その手つきは驚くほど優しい。
壊れ物でも扱うように包み込み、静かに魔力を流し込む。
銀糸がふわりと輝きを取り戻した。
垂れていた耳も、ぴんと元気よく立つ。
「……はい、フルチャージだ」
ゼノスが言い終わるより早く――
ぴょん。
うさぎは消えるように飛び出した。
一瞬で遊び場へ帰還。
残されたのは、わずかな温もりだけだった。
「…………」
ゼノスはしばらく手元を見つめ、それから小さくため息をつく。
「……ミラ」
その視線の先で、ミラは遊び場へ戻っていったうさぎを見て笑っていた。
「……あの子、君に似ていないかな」
「え?」
「必要な時だけ来て、満足したらすぐ離れる」
「ちょっと! 私そんなに現金じゃないですよ!
そもそも、私からくっついてませんから!」
ミラは笑いながらゼノスの隣へ腰を下ろした。
「まぁ、暇な時に横に座るくらいなら、いてあげますよ」
一瞬、沈黙。
ゼノスの瞳が、すっと細くなる。
「……後悔しないでよ?」
低い声だった。
「僕は、あの子みたいにすぐ離さない」
次の瞬間、ミラの体は優しく、けれどしっかりと抱き寄せられていた。
「え? 横に座ると抱きしめるって同義語?」
呆れた声を出しながらも、ミラは結局逃げない。
そのままゼノスの腕の中で、くすくすと笑った。
足元では、うさぎと五体がまた新しい遊びを始めている。
魔塔の最上階。
そこには、世界で一番騒がしくて、
そして、どこよりも満たされた時間が流れていた。
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