どうやら帝国最強の魔導卿と最強の使い魔たちが遊び始めたようです
姫が連行されたあと――
張り詰めていた空気が、ゆっくりとほどけていく。
廊下に残ったのは、ようやく戻ってきた静けさと、どこか気の抜けたような温もりだった。
ぎゅっ。
「ふふふ。やっぱり重い。
……ゼノス様の愛も、この子たちも」
ミラは「中型」になった五体に囲まれながら、楽しそうに笑った。
ゼノスは、その「重い」がもう拒絶ではないことに気づいて、どこか安堵したように彼女の肩へ顔を埋める。
「……重くて何が悪い。
……一生かけて、その重さに慣れてもらうよ」
「はいはい。……あ、そうだ。ねぇ、みんな」
ミラはハクの角を指先でなぞりながら、ふと問いかけた。
「みんなって、本当の大きさ……もっと違うの?
今は私が抱っこしやすいように、小さくなってるだけ?」
その瞬間。
五体が一斉にミラを見た。
そして――
見事なドヤ顔。
「当たり前だろ?」と言わんばかりの圧である。
特にハクは、胸を張って鱗をきらりと輝かせていた。
「えっ、何その顔! ハク、そんなに凄いの?」
「……ミラ。こいつらは、僕の魔力の根源だ」
ゼノスが静かに告げる。
「ハクは天を裂く真珠の巨龍。
コハクは山を呑む白虎、クウは月を喰らう銀狼。
……本来の姿なら、この塔ごと消し飛ぶ」
「……えぇーっ!?」
ミラは目の前にふわりと浮かぶハクを見つめた。
可愛い。
どう見ても可愛い。
……なのに、世界を滅ぼす側らしい。
「……じゃあ、私のために小さくなってくれてたんだ」
ミラは優しくハクを抱きしめた。
「ありがとう。みんな、大好き」
五体は誇らしげに喉を鳴らす。
そして――再びミラの取り合いが始まった。
「……ミラ。
それでも可愛いと思うのかい?」
「もちろんです」
即答だった。
「どんな姿でも、私の大好きな子たちで、
ゼノス様の一部なんですから」
ゼノスは、完全に敗北したような顔で目を細めた。
その空気を壊したのは、ハクだった。
ハクは一度ミラを見上げると、「見てろ」と言わんばかりに胸を張る。
次の瞬間。
眩い光が弾けた。
体が一気に膨れ上がる。
中型だった体は、ミラを乗せても余裕のある大きさへと変わった。
「わわっ!?」
気づけば、背に乗せられている。
そして――
ハクは走る。
いや、飛ぶ。
廊下の気流を掴み、縦横無尽に魔塔を駆け抜けていく。
景色が流れる。
足元が消える。
「きゃあぁっ……! あはは、速い……!」
怖さより先に、笑いがこぼれた。
その背後で――
ゼノスが追う。
本気で。
さらにその後ろを、コハク、クウ、テン、チョコが全力で追いかける。
廊下にいた魔導師たちは、その光景にただ呆然と立ち尽くした。
書類が手から滑り落ちる。
誰も拾わない。
ただ、目の前を駆け抜けていくあり得ない光景を見ているしかなかった。
やがて――
ミラの笑い声が響く。
軽く、明るく、魔塔の奥深くまで届くように。
その声は、この場所に積もっていた空気を塗り替えていく。
孤独だった塔は――
完全に、
遊び場へと変わっていた。
ゼノスは走りながら、小さく息を吐く。
怒りも、殺意も、すべてどこかへ消えていた。
残るのはただ一つ。
「……ハク」
低く、しかしどこか穏やかに。
「ミラを返しなさい」
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