どうやら帝国最強の魔導卿が仕事を放棄しているようです
ミラが意識を浮上させた時、最初に感じたのは――
全身を走る鈍い痛みと、身動き一つ取れないほどの重みだった。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、無情にも眩しい。
原因は、明確だった。
「……み、みんな……特にハク……。
顔の上に寝るのは死ぬ……窒息死って、人間にはあるからね……」
五体分の、物理的な重量。
昨夜、空間に戻されたことを根に持っているのか、一匹たりともミラから離れようとしない。
その上。
「……あ。おはよう、ミラ。……いい夢は見られたかな?」
耳元で響く、甘く低い声。
恐る恐る視線を動かせば――完璧な美貌を保ったままのゼノスが、ミラを抱き枕のように閉じ込めていた。
「……おはようございます……ゼノス様……」
「ミラ……こんなに可愛い格好をしているのに……。
僕は理性と必死に戦っていたんだよ」
不満げに囁きながら、彼はミラの額に軽く口づける。
「……慰めてくれるよね?」
指先が絡め取られる。
逃げ場は、ない。
「今日はもう離さないよ。
側近には、公務はすべて無期限延期と伝えてある」
「……は!?
無期限!?」
ミラは思わず身を起こそうとするが――
ドス。
もふ。
ぐい。
「うぐっ……!?」
コハク、チョコ、そしてハクが追撃。
完全封鎖である。
「仕事してください!!
この国どうするんですか!?」
「仕事なら、ここにあるよ」
ゼノスは満足げに微笑んだ。
「……僕の心を満たす、たった一つの仕事がね」
「それただのサボり宣言ですからね!?」
さらに追い打ちのように、耳元に触れる吐息。
「……君が足りないんだ、ミラ。
次の『補充』まで持たない」
「重い!! 朝から重い!!」
ミラがベッドを叩くと、
「グルルゥ……!」
「ガウ!」
「キュゥ!」
使い魔たち、即参戦。
完全にゼノスを敵認定している。
「……お前たち……」
一瞬、空気が冷えるが――
「……仕方ない」
ゼノスはため息をひとつついた。
「可愛いうさぎを落ち着かせるには、まず朝食だね」
厨房へ魔法で伝令を飛ばす。
ミラはハクを顔面に乗せたまま思った。
(……危ない)
(この甘さ、砂糖よりやばい)
(このままだとダメ人間になる……)
その時。
コンコン。
「失礼いたします、主様。……緊急報告が――あ」
側近、停止。
視界に広がるのは、ベッドの上で毛玉に埋もれた主だった。
「…………」
「主様。確認なのですが」
無の声である。
「帝国の威信は、現在どの毛玉の下に埋まっておりますか?」
「……うるさい。今はセラピー中だ」
「……そうですか」
側近は淡々と続けた。
「隣国より、『魔導卿が女を囲って職務放棄している件』について問い合わせが来ています」
「カボチャにして送り返せ」
「……了解しました。しませんが」
そしてミラへ視線を向ける。
「……ミラ様。ご無事で何よりです」
「……助けてください……重いです……」
だが。
「グルル……!」
「キュゥ!」
完全ガード。
側近は一瞬だけ沈黙し、すべてを諦めたように目を閉じた。
「……では、ご武運を」
静かに退室。
再び密室。
ゼノスは満足げに囁く。
「……邪魔者は消えたね、ミラ」
距離が、また縮まる。
「……セラピーの続きだ」
「キュゥ!!」
結局。
本体と分身による『ミラ争奪戦』は、昼過ぎまで続くことになった。
(……お腹、空いた……)
魔塔最上階。
最強の魔導卿と五体の使い魔に包囲されながら、ミラは再び意識を手放すのだった。
読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマークや評価いただけると励みになります。




