どうやら帝国最強の魔導卿の独占欲が限界を突破したようです
「……ちょ、待って……!
ゼノス様、近い、近すぎますって!」
ミラは手首を掴まれたまま、じりじりと距離を詰めてくるゼノスから逃れようともがいた。
けれど――びくともしない。
「……ミラ。さっき、自分で言ったじゃないか。
……『心地いい』、と」
低く、甘く、逃げ場を塞ぐ声。
「それなら、もっと深く……
僕の魔力と愛を刻み込ませてくれるよね?」
「それは、その……魔力とは言いましたけど!
重すぎる愛については答えてません!
待っ、わわっ!?」
逃れようと胸を押した瞬間、視界がふわりと浮いた。
――お姫様抱っこ。
あまりにも自然に、あまりにも簡単に。
そして。
短すぎる裾が、無慈悲に重力へ従う。
ゼノスの腕の上に、何の隔てもなく触れる素肌。
「……っ!!」
触れた瞬間、熱が走った。
ミラの体温と、ゼノスの腕の硬さと熱が、触れた一点から一気に広がっていく。
「…………ミラ」
ゼノスは動きを止めた。
腕の中の、壊れそうなほど柔らかな存在を見つめて。
「……もう、逃がさない」
囁く声は、甘い毒。
「君が僕以外の誰かのために歩く必要なんてない。
……僕の腕の中だけでいい」
そのまま、ゆっくりと歩き出す。
向かう先は――天蓋付きのベッド。
「……ゼノス、さま……
ま、待って、まだ心の準備が……っ」
「……出会ってから、一秒も君が離れなかった。
準備なら、僕の方がずっと前に終えているよ」
ベッドに沈められるミラ。
銀髪が、カーテンのように降りる。
逃げ場のない距離。
二人だけの密室。
――その、はずだった。
その瞬間。
主の魔力が乱れたせいか、閉じたはずの空間が揺らいだ。
ドサッ
ドサドサドサッ
「ぐっ……!?」
上から降ってきた影が、ゼノスを直撃した。
「……え?」
ハク、クウ、チョコ、コハク、テン。
五体がまとめて落下してきたのだ。
「み、みんな……!?」
ゼノスは咄嗟にミラを庇いながら受け止める。
だが次の瞬間。
モフモフたちは一斉にミラへ――!
「あ……みんな、おかえり~」
ミラはそのまま抱きつかれ、自然に撫で始める。
「ちょ、くすぐったい……ふふっ」
「……お前たち……戻れ」
地を這うような低い声。
だが、一匹たりとも離れない。
完全に、無視だった。
「はは……皆、元気だね……」
ミラの笑い声。
その空気に、ゼノスの怒気が――瞬だけ緩む。
そして、最後のあがきのように。
ゼノスはミラの顎を軽く引き寄せ――
そっと、触れるだけの口づけを落とした。
「……愛しているよ、ミラ」
「……えっ」
驚くミラを見て、ゼノスは色気を含んだ微笑みを浮かべた。
「今日はこれで許してあげよう」
静かに、けれど確実に。
「……仕方ないからね」
一歩引きながらも、その瞳だけは逃がさない。
「……次は、待ったなしだよ」
読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマークや評価いただけると励みになります。




