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どうやら帝国最強の魔導卿が嫉妬しているようです


「……ミラ。もう一度だけ言うよ。


 その編み続けている糸を置いて、僕の方を向きなさい。


 ……でないと、今すぐこの国中の馬車をすべてカボチャに変えて、


 注文を物理的にストップさせるけれどいいのかな?」


 魔塔の最上階。

 山積みになった注文書に囲まれながら、ゼノス様はゆっくりと立ち上がった。


 その瞳は深淵のような紫に揺れ、指先からは不穏な魔力が滲んでいる。


「……あはは! ゼノス様、それどこの童話ですか!


 馬車をカボチャにする魔導卿なんて、末代までの恥ですよ!」


 ミラは手を止めることなく笑った。


 だが――


 気づいた時には、背後にいた。


 音もなく詰め寄ったゼノス様が、ミラの肩を優しく、けれど逃がさない強さで抱きすくめる。


「本気だよ。


 君がその『糸』ばかりを見つめて、僕を視界の外に追いやるなら……


 僕は、この世界から君の興味を引くものすべてを消し去るしかない」


「……もぉー。愛が地層レベルで重いです、ゼノス様」


 ミラはようやく手を止め、編んでいた糸を置いた。


 そして、ゼノス様の腕にそっと触れる。


「……ねぇ、ゼノス様。私のどこがいいんですか?


 私はただの、市場で紐を編んでただけの小娘ですよ?」


 ゼノス様はミラを抱き寄せ、その首筋に顔を埋めた。


「全部だよ。


 君の指先が生む不器用な優しさも、


 僕の魔力に怯えない不敵さも……全部が愛おしい」


 深く息を吸い込み、耳元で囁く。


「……そして、僕という怪物を『ウザい』と言ってのける。


 ……その眩しい魂もたまらないね。


 君以外のすべては、僕にとってはただのノイズでしかないんだ」


 ――剥き出しの執着だった。


 ゼノス様はミラの手から糸を優しく取り上げると、そのまま抱き上げた。


「今日はもうおしまいだ」


 耳元で、甘く囁く。


「……これからは、僕との時間だよ」


「はいはい。毎日重いです。


 重すぎて甘すぎて、胃もたれしますけど」


 その返しに、ゼノス様は嬉しそうに微笑んだ。


 そのままゼノス様は、ミラを抱いたまま私室へ向かった。


 扉をくぐった瞬間、待ち構えていたメイドたちにミラはあっという間に囲まれる。


「え? え、え? なんですか?


 ゼノス様? 不穏なんですけど?」


 そのまま流れるように浴室へと連行された。


 メイドたちはにこやかな笑顔のまま、迷いなくミラの体を整えていく。

 その手際の良さが、逆に逃げ場のなさを突きつけてくるようだった。


「……やっぱり不穏だ……」


 磨き上げられ、髪を整えられ、何もかもがあまりにも手際よく進んでいく。


 ミラはされるがままになりながら、じわじわと現実味を帯びてきた状況に頬を引きつらせた。


(うわ、準備が本格的すぎる……)


(いやいや、ゼノス様、段取りの圧が強すぎません?)


(せめて心の準備ってものをください……!)


(あれ? 心の準備ってなに???)


 にこやかな笑顔のメイドたちは、やはり何も答えてくれない。


 ――逃げ場がない。


 そうしてミラは、得体の知れない不穏さに包まれたまま、静かに整えられていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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