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どうやら帝国最強の魔導卿の魔塔ごと改造することになりました


「……ねぇ、ゼノス様。

 ……売らないなら、私、これから何したらいいんですか?

 正直、暇なんですけど」


 ミラは作業台に頬杖をつき、余った糸の端をペンペンと弾いた。


 五体のミニ猛獣たちを飾り立て、ゼノスとお揃いのブレスレットまで編み上げた今。

 その創作意欲は行き場を失い、ぷすぷすと燻っている。


「……暇?

 僕という最高の“素材”が目の前にいるのに、退屈だと言うのかい?」


 ソファで書類に目を通していた――ふりをしてミラを観察していたゼノスが、ゆっくりと顔を上げた。


「素材って言われても、もう手首に巻いちゃいましたし。

 ……これ以上、何を編めっていうんですか」


 少し考えてから、ぽつりと付け足す。


「作るたびに色々重くなりそうですし……。

 全身を蜘蛛の巣みたいにぐるぐる巻きにでもします?」


「……おや。それは誘っているのかな?」


「冗談です!! 怖いから乗らないで!」


 軽く笑ったゼノスは立ち上がると、静かにミラの背後へ回り込んだ。


 小さな肩に手を置き、耳元で囁く。


「いいよ。暇だと言うなら――

 君にしかできない“大仕事”を頼もうかな」


 わずかに間を置く。


「……そうすれば、帰る理由もなくなる。

 永遠に僕の傍にいられるだろう?」


「……大仕事?

 何ですか、それ。不穏なんですけど」


「この魔塔の“衣替え”だよ」


「……は?」


 パチン、と指が鳴る。


 次の瞬間、壁一面が透き通り、魔塔の内部が映し出された。

 無数の魔導師たちが忙しなく動いている。


「見てごらん。彼らの法衣は古臭い防御陣だけの、味気ないものだ。

 ……これを、君の手で塗り替えてほしい」


 静かに続ける。


「君の糸には、僕の魔力を安定させ、増幅させる力がある」


「え、ちょっと待って。

 魔塔“全員分”の制服、作れってことですか!?」


「デザインだけじゃない」


 ゼノスはミラの肩越しに視線を落とす。


「君が編んだ“飾り”を、彼らの杖やローブに一つずつ付与していくんだ。

 ……もちろん、僕との時間は削らせないけれどね」


 そして、低く笑う。


「どうだい?

 世界最強の魔導師軍団を、君の色に染め上げるというのは」


 ――その言葉に。


 ミラの瞳に、ぱっと火が灯った。


 売る相手はいない。

 けれど、この巨大な塔そのものを“作品”にする。


 それは――職人にとって、贅沢すぎる暇つぶしだった。


「……面白いじゃないですか」


 ゆっくりと立ち上がる。


「……やってやりますよ!

 ただし、材料費は全部ゼノス様持ちですからね!」


「ああ。大陸中の希少素材を買い占めてでも揃えよう」


 即答だった。


 ミラは勢いよく椅子を引いた。


「よーし、みんな!

 まずは、あの地味な側近さんの杖から、ド派手に可愛くしてあげよう!」


「キュゥ!!」


 ハクたちが一斉に鳴く。


 こうして――

 ミラの“魔塔改造計画”が幕を開けた。


 ゼノスはその横顔を見つめながら、静かに笑う。


(……これでしばらくは、外に出たいとは言わないだろうね)


 独占欲の滲んだ、満足げな笑みだった。


     ◇


 側近は、渡された杖を二度見した。


 そして震える手で、ゆっくりとゼノスを仰ぎ見る。


 杖の先端には――

 ショッキングピンクの極太フリルが、これでもかと揺れていた。


「……主様。

 私は何か国家反逆罪に当たるような不手際を?」


「それともこれが、明日の朝礼の正装でしょうか」


 絶望の顔である。


 ミラはそれを見て、腹を抱えて笑った。


「あははは! 側近さん最高!

 昨日の“ご愁傷様です”の仕返しです!」


「……ミラ様、技術の使い道を誤っておられます……」


 ゼノスも口元を押さえ、低く笑う。


「……悪くないよ。

 そのピンクで魔力の流れが乱れていて、実に愉快だ」


「やめてください主様」


 完全に追い打ちだった。


「うそうそ! 冗談ですって!」


 ミラはフリルを解き、すっと新しい飾りを通す。


 水色の糸と銀糸で編まれた、洗練された杖飾り。


 それが触れた瞬間――

 柔らかな光が広がった。


「……っ!?」


 側近の表情が変わる。


「魔力増強に三重防御結界……。

 それに精神汚染の解除まで……」


「これを、糸だけで……?」


 ゼノスも身を乗り出した。


「ミラ。君は僕の魔力を――

 “永続術式”として定着させたのかい?」


「え、暇だったし」


 あっさりした返答だった。


「側近さん、いつも大変そうだから守ってあげなきゃなーって」


「……ミラ様。一生ついて行きます」


 側近は敬礼した。


 その横で、ゼノスは静かに目を細める。


 ミラが気まぐれに作った一つの飾りが、すでに魔塔の均衡を書き換え始めていた。


 ――魔塔は、今日から少しずつ変わっていく。

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