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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第9話「断罪のワルツ、銀の覚醒」

 差し出された皇帝の掌は、驚くほど冷たかった。

 それは生きている人間の温度ではなく、多くの命を凍らせてきた絶対強者の冷気だ。


 ワルツの旋律が、重苦しくホールを支配し始める。

 皇帝の手が私の腰に回った瞬間、右腕の銀の鎖が、悲鳴を上げるように激しく震えた。


(……レオ!)


 離れた場所に立っているはずの彼の、肺が潰れるような窒息感が伝わってくる。

 自分の妻が、仇敵の腕に抱かれている。その事実が、感覚を共有するレオを内側から焼き焦がしているのだ。

 私は足をもつれさせそうになりながらも、皇帝の冷たい瞳を見据えた。


「顔色が悪いな、エララ。……ハスカールの檻が、それほどまでに息苦しいか?」


 皇帝の囁きは、耳元で這い回る蛇のようだった。

 ダンスのステップに合わせて、彼は私をレオから、そしてカイルから遠ざけるように誘導していく。


「檻の中の生活を、楽しんでいるのは閣下の方ですわ。……私はただ、その眺めを楽しんでいるだけ」

「ほう。予言の力を失い、競売にかけられた女が言うことではないな。……余の騎士カイルは、貴女のために涙を流していたぞ。不実な近衛騎士に奪われた、哀れな姫を救いたいと」


 皇帝の視線が、ホールの端で拳を握りしめるカイルへと向けられた。

 その瞬間、私の瞳の奥で、銀色の火花が散った。


(視える……)


 視界が歪む。煌びやかなシャンデリアの光が消え、影だけが浮き彫りになる世界。

 カイル・セバスチャン。

 白銀の鎧を纏った彼の背後に、ドロドロとした黒い泥のような感情が渦巻いている。

 それは「正義」などではない。

 「かつての所有物わたしを、別の男に奪われたことへの、浅ましいまでの執着」。

 そして、その泥は一本の細い糸となって、目の前で微笑む皇帝の指先へと繋がっていた。


(カイル……貴方は、皇帝陛下と取引をしたのね。レオを排除する代わりに、私を『保護』という名の新たな檻へ戻すために)


 衝撃が脳を突き抜ける。

 同時に、レオの胸を刺すような「裏切りへの怒り」が、私の心臓を激しく叩いた。

 かつての友に、再び背後から刺されようとしている。その絶望が、リンクを通じて私を溺れさせる。


「……陛下。貴方は、何も分かっておられない」


 私は、皇帝の手に回した指に力を込めた。

 銀の瞳が、完全にその輝きを取り戻す。

 周囲の貴族たちが息を呑むのが分かった。淀んでいた灰色の瞳が、月の光を凝縮したような純銀へと染まっていく。


「何……?」


「カイル様は、私を救いたいのではありません。……失った『名誉』を取り戻したいだけ。そして貴方は、それを利用して、レオを――私の夫を、完全に壊そうとしている」


 皇帝の眉がぴくりと動いた。

 旋律が激しさを増す。

 私はレオの「痛み」を、自分の「力」へと変換するように強く念じた。

 (レオ、私に貴方の『怒り』を貸して。この男を、一瞬でも怯ませるための熱を!)


 指輪が、かつてないほど赤黒く、そして銀色に光り輝いた。

 感覚の同期が、限界を超えて加速する。

 レオの殺意が、私の瞳を通じて「予言の圧力」として皇帝へと放たれた。


 皇帝の足が、一瞬だけ止まった。

 その目に、初めて明確な「困惑」と、僅かな「恐怖」が兆す。


「……この瞳。やはり、予言の力は死んでいなかったか」

「ええ。……そして今、視えましたわ。陛下、貴方の玉座が、血に染まった銀の剣で両断される未来が」


 嘘ではない。

 今、私の瞳には、真っ赤な絨毯の上に転がる皇帝の冠が映っている。

 その剣を握っているのは――。


 その時。

 「ガハッ……!」という短い吐息が、リンクを通じて私の脳内に響いた。

 同時に、私の右腕の銀の鎖が、焼き切れるような激痛を放つ。


(レオ……!?)


 遠くで見守っていたレオが、膝を突き、口元を押さえているのが見えた。

 彼の腕の痣が、私の「覚醒」に耐えきれず、暴走を始めたのだ。


「レオ!」


 私は皇帝の手を振り払い、駆け出そうとした。

 だが、過負荷は私の体にも及んでいた。

 銀の瞳が捉えていた世界がガラガラと崩れ、激しい眩暈が私を襲う。


「おっと……。これ以上のダンスは、毒が回りすぎるようだ」


 皇帝が、倒れかかる私の肩を冷たく支えた。

 その指先が、私の首筋に触れる。


「カイル、ハスカール公爵を別室へ。……エララは余が自ら、特別室で『休ませる』ことにしよう」


「……っ、待って……レオを……」


 意識が遠のいていく。

 最後に視えたのは、カイルが冷酷な笑みを浮かべてレオに近づく姿と、

 狂ったように私の名を呼ぶ、レオの、震える心の叫びだった。

感覚同期と、完全覚醒した「銀の瞳」。

その代償として、二人は引き裂かれ、皇帝の張り巡らせた罠の中へと落ちていきます。


レオを「裏切り者」として断罪しようとするカイル。

そして、エララを「予言の道具」として手に入れようとする皇帝。

感覚がつながったまま離れ離れにされたとき、二人の「熱」はどうなってしまうのか。


次話、第10話「監獄の初夜、繋がれた魂」

離れているからこそ、より鮮明に、より狂おしく伝わってくる相手の「体温」。

絶望的な状況下で、二人の絆が真の試練を迎えます。


「エララの覚醒がカッコいい!」「レオを助けて……!」とハラハラしていただけましたら、

ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価で、この戦いの行方を見守っていただけると嬉しいです!

皆様の応援が、エララに未来を書き換える力を与えます。

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