表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/30

第10話:監獄の初夜、繋がれた魂

 氷の冷たさが、背中から這い上がってくる。

 意識が戻ったとき、私がいたのは「特別室」という名の、窓のない冷麗な牢獄だった。


 高い天井、白磁の壁。

 置かれた寝台は豪奢だが、そこに温もりは微塵もない。


「……あ、っ」


 体を起こそうとした瞬間、右腕の銀の鎖が、焼け付くような熱を放った。

 痛い。けれど、これは私の痛みではない。

 リンクした神経の向こう側――地下深く、暗い牢獄に投げ込まれたレオの、肺を圧迫されるような苦悶だ。


(レオ、そこにいるのね……)


 私は胸を掻きむしるようにして、ドレスの胸元を握りしめた。

 彼が冷たい石床に膝を突いているのが、視覚を超えた感覚で伝わってくる。

 彼の「悔恨」が。自分自身の無力さを呪い、私の名を呼ぶ、その震える魂の叫びが。


『エララ……エララ、無事か……』


 声ではない。

 それは、私の心臓の鼓動に直接重なる、彼の脈動だった。

 私は壁に寄りかかり、見えない彼に向けて、せめて自分の「無事」を伝えようと必死に念じた。


(私は大丈夫。……だから、自分を責めないで、レオ)


 不意に、部屋の扉が重々しく開いた。

 入ってきたのは、皇帝ではない。

 白銀の鎧を脱ぎ、気品ある平服に着替えたカイル・セバスチャンだった。


「気分はどうですか、エララ様」


 彼の声は、かつての婚約者だった頃のまま、穏やかで優しい。

 だが、今の私の銀の瞳には、彼の顔を覆う「正義」という名の仮面が、不気味にひび割れて見えていた。


「カイル……閣下は? レオはどこにいるの」

「彼は今、帝国の反逆者として尋問を受けています。……王を殺し、貴女を略奪した罪。それを今、ようやく清算させているのですよ」


 カイルは寝台の傍らまで歩み寄ると、膝を突いて私の手を取ろうとした。

 その瞬間、レオの激しい「拒絶」が、雷のように私を打った。


(触れさせないで。殺す。そいつを殺してやる……!)


 リンクしたレオの剥き出しの殺意が、私の右手を激しく震わせる。

 私は咄嗟に手を引き、カイルを冷たく見据えた。


「清算? ……貴方は、彼が私を守るために何を捨てたのか、本当に知らないの?」

「彼が貴女を守った? ……エララ様、貴女は毒されている。あの男は、貴女の父を殺した張本人だ。……私なら、貴女をこんな冷たい石の部屋には置かない。かつてのレトラのような、光溢れる花園を、帝都の片隅に再現してみせましょう」


 カイルの瞳に宿っているのは、慈しみではない。

 それは、失った宝石を取り戻そうとする蒐集家の、執拗なまでの「所有欲」だ。

 レオの重苦しい執着とは違う。

 カイルのそれは、エララという存在そのものを見ず、自分の「理想の欠片」を押し付けようとする、無色透明な狂気だった。


「……お断りします。私は、あの香草の匂いがする、氷の公爵邸へ帰りたい」


 カイルの顔から、一瞬だけ表情が消えた。

 リンクの向こうで、レオの絶望が、一転して震えるような「歓喜」に変わった。

 ――ああ、エララ。

 私の名を呼ぶ彼の鼓動が、愛おしくて、切なくて、涙が溢れそうになる。


「……そうですか。ならば、少し時間を置く必要があるようですね」


 カイルは立ち上がり、冷笑を浮かべた。


「明日、公爵の『公開尋問』が行われます。貴女も立ち会っていただく。……彼が犯した罪のすべてを、皇帝陛下の御前で、その口から語らせましょう。……それでも、貴女が彼の傍にいたいと言うかどうか」


 扉が閉まり、再び静寂が部屋を支配した。

 私は一人、広すぎるベッドの上で膝を抱えた。


 ――レオ。

 私は、暗闇の中でそっと右手を胸に当てた。

 感覚の同期をさらに深めるように、意識を集中させる。


 冷たい風が吹く地下牢。

 手枷をはめられ、壁に繋がれたレオの姿が、陽炎のように脳裏に浮かぶ。

 彼の意識は朦朧としているが、それでも彼は、リンクした糸を必死に手繰り寄せていた。


(レオ、聞こえる……?)

『エラ……逃げろ。……今夜、ロザリンが動く。……私のことは構うな』


 リンクを通じて届く、彼の覚悟。

 自分を捨てて、私だけを逃がそうとする、その一途なまでの愚かさ。


「……嫌よ。独りでなんて、絶対に帰らない」


 私は、指輪が放つ銀色の光を見つめた。

 予言の力が、再び視界を歪める。

 明日の公開尋問。

 そこには、カイルも皇帝も予想していない、レオが隠し通してきた「最大の嘘」を暴く瞬間が待っていた。


 そして。

 私の中に流れ込んでくる、レオの、あまりにも熱く、湿った「独占欲」。

 離れているからこそ、彼の本音が、衣擦れの音さえ聞こえるほどの鮮明さで私を犯す。


『もし……明日、私が消えても……。お前の魂だけは、一生、私のものだ……』


 切ない独白が、私の首筋に彼の吐息を感じさせる。

 繋がれた魂。

 私たちは今、世界で最も孤独で、そして最も密接な「一つ」だった。

物理的に離され、牢獄に囚われた二人。

しかし、指輪が繋ぐ感覚の同期は、かつてないほど濃密に互いの本音を伝え合います。

レオの「自己犠牲」と、カイルの「歪んだ理想」。

その狭間で、エララは明日の公開尋問に向けた、ある「賭け」を決意します。


レオの言う「ロザリンの動き」とは?

そして、二人が共有する「熱」は、冷たい地下牢を溶かすことができるのか。


次話、第11話「断罪の法廷、真実の接吻」

物語は、皇帝の御前での決戦へと移ります。


「離れていてもレオの愛が重い!」「エララの覚悟に痺れる!」

と感じていただけましたら、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価で、二人を応援してください!

皆様の声が、二人の鎖を断ち切る力になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ