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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第7話:毒蛇の招待状、仮面のワルツ

指先から伝わる彼の鼓動は、まるで冷たい雨音のように、私の胸の奥で規則正しく鳴り続けていた。


 感覚の同期。

 それは、最愛の者と結ばれる奇跡などではなく、互いの地獄を覗き込み続ける呪いだった。


「……背筋を伸ばせ。敵は貴様の僅かな『揺らぎ』を見逃さない」


 レオの低い声が、図書室に響く。

 私の腰に回された彼の腕は、鋼のように硬く、そして狂おしいほどに熱い。

 舞踏会のためのレッスン。邸の者にさえ知られてはならないこの「共有」を制御するため、私たちは密室で、幾度も手を取り合っていた。


「わかっています。……でも、貴方の『焦り』が私の心臓を叩くから、リズムが狂ってしまうのよ」


 私が睨みつけると、レオは僅かに眉を寄せた。

 彼が苛立ちを飲み込む瞬間、私の喉の奥がキュッと締まる。

 感覚が混ざり合う。彼が私を「美しい」と思った瞬間、私の肌には粟立つような感覚が走り、私が彼を「恐ろしい」と感じた瞬間、彼の指先には微かな痛みが走るのだ。


「……御託はいい。行くぞ」


 レオが私の手を引き、強引にステップを踏ませる。

 翻るドレス。重なる視線。

 無言の対話。

 言葉を交わさずとも、私にはわかる。

 彼が今、どれほど深い「後悔」の海に沈んでいるか。私をこの泥沼に引き込み、皇帝という怪物に差し出そうとしている自分を、どれほど呪っているか。


「……謝らないで。私は、自分の意志で貴方の手を取ったのだから」


 囁くと、レオの瞳が大きく揺れた。

 不意に、彼の胸の奥にある「独占欲」が、熱い波動となって私を犯した。

 ――誰にも見せたくない。この気高い瞳も、銀色を取り戻しつつあるその髪も、すべて私の檻に隠しておきたい。

 生々しい彼の本音が、私の脳を麻痺させる。


「あ……」


 膝の力が抜け、崩れ落ちそうになった私を、レオが抱きとめた。

 密着した体。

 彼の激しい動悸が、私の肋骨を内側から叩く。

 昨夜、彼が私の首筋に顔を埋めた時の熱が、フラッシュバックのように蘇り、私の頬を火照らせた。


「……エララ、貴様、今何を……」

「貴方が……貴方が変なことを考えるから……!」


 レオが顔を赤らめ、弾かれたように私を放した。

 共有されているのは痛みだけではない。……「渇望」までもが、一方通行ではないのだ。

 気まずい沈黙が流れる中、ロザリンが扉を叩いた。


「閣下、お車のご用意ができました。……帝国製の、特注のドレスも届いていますよ」


 ロザリンが持ってきたのは、深紅の布地に黒いレースをあしらった、毒々しいほどに美しいドレスだった。

 それはかつてのレトラ王国の伝統色ではなく、帝国の「勝利」と、それに従属する「敗者」を象徴する色合い。


「……着替えさせろ」


 レオは私を見ずに命じ、部屋を出ていった。

 扉が閉まる間際、私の右手に残った彼の「名残惜しさ」が、ひりひりと痛んだ。


       ◆


 帝都、シュヴァルツ宮。

 「毒蛇の巣」と称されるその場所は、千の灯火と、万の偽善で満たされていた。


 馬車を降り、レオの差し出した手を取る。

 白い手袋越しだというのに、彼の掌の熱が、私の血管を逆流して心臓へと駆け上る。


「……準備はいいか。ここからは、一瞬たりとも気を抜くな」


 レオの横顔は、完全に「氷の公爵」のそれだった。

 だが、私の右腕の銀の鎖は、今も彼の不安と、剥き出しの殺意を告げている。


 大階段を上り、黄金の扉が開かれる。

 楽団の奏でるワルツが、耳鳴りのように響いた。

 一斉に、何百もの視線が私たちに突き刺さる。


「……あれが、亡国の聖女か」

「公爵の愛玩物になったと聞いたが、随分と毒々しい色を纏わされているな」


 嘲笑。憐れみ。そして、執拗な好奇。

 私はレオの腕に添えた指に、僅かに力を込めた。

 (大丈夫、レオ。私は、貴方の『お飾り』になんてならないわ)

 私の決意が伝わったのか、レオの緊張が僅かに緩んだ。


 ホールの最奥、高い玉座に座る影が見える。

 帝国の支配者。父を殺し、レオに裏切りの呪いを植え付けた、すべての元凶。


 だが、玉座へと歩み寄る私たちの前に、一人の男が立ち塞がった。


「――お久しぶりですね、ハスカール公爵。それに、エララ様」


 聞き覚えのある、涼やかな声。

 太陽のような輝きを放つ、白銀の鎧。

 私の初恋であり、レオのかつての盟友――カイル・セバスチャン。


「カイル……」


 私がその名を呼んだ瞬間。

 レオの全身から、これまでにないほどの激痛と、嫉妬を孕んだ「拒絶」の熱が噴き出した。

 あまりの衝撃に、私の指先が、指輪ごと激しく震えた。


「エララ様。……貴女を、地獄から救いに来ました」


 カイルの手が、私のもう片方の手へ伸びる。

 レオの腕が、折れんばかりの力で私を抱き寄せた。


「……気安く触れるな。これは、私のものだ」


 ホールの中心で、二人の男の視線が火花を散らす。

 そして私の「銀の瞳」は、カイルの背後に忍び寄る、さらなる「不吉な黒い影」を捉えていた。

帝国宮廷での、美しくも残酷な戦いが始まります。

感覚が同期したまま、かつての婚約者・カイルと対峙することになった二人。

レオの心から溢れ出す、自分でも制御できないほどの強烈な嫉妬心が、エララの神経を焼き焦がしていきます。


カイルは本当に救世主なのか?

そして、エララが見た「黒い影」の正体とは……。


次話、第8話「白銀の再会、琥珀の嫉妬」

三者三様の想いが、きらびやかな舞踏会で激突します。


「レオの独占欲がたまらない!」「カイル君、不穏……!」と感じていただけましたら、

ぜひブックマークや評価、感想をいただけますと幸いです。

皆様の応援が、私の「じれ甘」描写をより一層熱くさせます!

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