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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第6話:契約の代償、密室の熱

まどろみの底から引きずり上げられたとき、最初に感じたのは、喉を焼くような「熱」だった。


 視界が白く霞んでいる。

 ここは……私の寝室。

 カーテンの隙間から差し込む月光が、部屋を淡く青く染めていた。


「……気がついたか」


 耳元で、低く、掠れた声がした。

 驚いて体を起こそうとして――私は息を呑む。

 私の右手を、レオが両手で包み込むようにして握っていた。彼はベッドの傍らに椅子を引き寄せ、そのまま突っ伏していたのだろうか。乱れた黒髪が、私のシーツに散らばっている。


「レオ……。貴方、ずっとここに……?」


 問いかけようとして、言葉が止まる。

 熱い。指先が、脈打つように熱い。

 それはかつての琥珀の指輪が放っていた熱とは、明らかに異質だった。


 ドクン、ドクン。

 自分のものではない鼓動が、指先を通じて直接脳に流れ込んでくる。

 レオが顔を上げた。その琥珀色の瞳は酷く充血し、疲弊しきっている。

 けれど、彼が私の手首に指をかけた瞬間、私は声を漏らしそうになった。


「あ……っ!」


 触れられた場所に、痺れるような衝撃が走る。

 ただの接触ではない。まるで、彼が感じている「私の肌の質感」や、彼の「指先の微かな震え」が、そのまま私の神経に書き込まれるような――。


「……気づいたようだな。あの指輪が、勝手に『契約』を書き換えた」


 レオは忌々しげに、けれど私の手を離そうとはせず、さらに強く握りしめた。

 その瞬間、彼の胸の奥にある「激しい焦燥」と、私を失うことへの「底知れぬ恐怖」が、濁流となって私の中に流れ込んできた。


「何、これ……。貴方の気持ちが、入ってくる……」

「気持ち、などという生易しいものではない。……『共感覚の同期』だ」


 レオは、自身の左腕を捲り上げた。

 驚いたことに、あのアリの這い回るような黒い痣が、僅かに薄くなっている。

 代わりに、私の右腕の同じ場所に、薄く、銀色の鎖のような紋様が浮かび上がっていた。


「私の命を削っていた呪いを、貴様の指輪が半分、肩代わりした。……いや、『分配』したと言うべきか」

「分配……?」

「そうだ。これからは、私が痛みを感じれば、貴様も同じ痛みを感じる。……そして」


 レオが言葉を切り、私の唇をじっと見つめた。

 彼の喉が、小さく鳴る。

 その瞬間、私の心臓が跳ねた。

 いや、跳ねたのはレオの心臓だ。その高鳴りが、リンクした神経を通じて私の胸を内側から叩く。


「……貴様が『悦び』を感じれば、私もそれを、耐えがたいほどの鮮明さで共有することになる」


 背筋に、ゾクリとした戦慄が走った。

 それは、死よりも残酷で、死よりも甘美な「檻」だった。

 これから私たちは、互いの情動を隠すことができない。

 彼が私を愛おしいと思えば、私はそれを自分の心のように感じてしまう。

 私が彼を求めてしまえば、彼はそれを、自身の渇望として受け取ってしまうのだ。


「そんな……それじゃあ、私たちは……」

「ああ。もはや他人ではいられない。……一人が傷つけば二人で血を流し、一人が狂えば二人で奈落へ落ちる」


 レオが、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 彼の吐息が、私の唇を掠める。

 触れていない。まだ、触れていないのに。

 私の唇は、彼が感じている「触れたい」という強烈な独占欲に焼かれ、痺れていた。


「……貴様は、私を壊すつもりか。エララ」


 掠れた囁き。

 彼はそのまま、私の首筋に顔を埋めた。

 服越しに伝わる彼の体温が、共鳴した神経を伝って何倍にも増幅される。

 私の指先が、彼の背中に回る。

 触れる。

 その瞬間、脳が弾けるような快楽と、焼けるような痛みが同時に押し寄せた。


 ――ああ。

 私たちは、もう戻れない。

 復讐も、憎しみも、すべてはこの「共有」という名の熱に溶かされていく。


 その時。

 寝室の重厚な扉が、遠慮なく叩かれた。


「――閣下、奥様。夜分に失礼いたします」


 扉の向こうから、ロザリンの声が響く。いつもの軽薄さは消え、そこには隠しきれない緊張が混じっていた。


「……何事だ」


 レオが私から離れず、首筋に顔を埋めたまま、低く鋭い声で応じる。

 リンクしている私にはわかる。彼の全身の血が、一瞬で「冷徹な戦闘モード」に切り替わったのが。


「帝国の中央政府より、緊急の使者が参っております。……皇帝陛下より、お二方へ『建国記念舞踏会』への正式な招待状が届きました」


 レオの体が、強張った。

 招待状。それは実質的な「出頭命令」だ。

 亡国の王女を独占し、不穏な動きを見せる「氷の公爵」を、皇帝が呼びつけたのだ。


「……毒蛇の巣へ来い、ということか」


 レオは、ようやく私から顔を上げた。

 その瞳には、先ほどの情熱を塗りつぶすような、暗く深い殺意が宿っている。


「エララ、覚悟を決めろ。……これからは、一瞬の気の緩みも許されない。貴様の心臓の鼓動一つ、敵に悟られるわけにはいかないのだからな」


 彼は私の手を離し、立ち上がった。

 けれど、離れたはずの手には、まだ彼の指の感触が、熱を持ったままこびりついていた。


 帝国という巨大な怪物。

 そして、感覚を共有してしまった、裏切りの騎士。


 私たちの「政略結婚」は、もはや後戻りのできない、甘く危険な戦場へと突き進もうとしていた。

感覚が同期してしまった二人。

触れるだけで、相手の心臓の音が、渇望が、痛みが、ダイレクトに自分を犯していく。

この「じれったすぎる密室」に、帝国の魔手が伸びようとしています。


皇帝の真意は何なのか?

そして、感覚がリンクした状態で、二人は社交界という「戦場」を生き抜けるのか。


次話、第7話「毒蛇の招待状、仮面のワルツ」

物語はついに、公爵邸を飛び出し、煌びやかで残酷な帝国宮廷へと舞台を移します。


二人の運命の加速に、ぜひお付き合いください。

「この設定、エロティックで切なすぎる!」と感じていただけましたら、

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