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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第5話:覚醒の銀、死神の誓い

抱きしめた体は、凍えるように冷たいのに、心臓の音だけが、耳元で狂ったように速く打ち鳴らされていた。


「……離せと言っている、エララ」


 レオの声は、もはや公爵の威厳など微塵もなかった。

 掠れ、震え、今にも消えてしまいそうな懇願。彼は血に染まった拳を握りしめたまま、私の腕の中から逃れようと身悶えする。


「嫌です。……貴方が、自分をこんなに傷つけるのを放っておけるはずがない」

「これは……私が負うべき罪の重さだ。貴様に触れられる資格など、私にはない……!」


 彼は強引に私を突き放そうとした。

 その瞬間、私の指に嵌った「琥珀の指輪」が、爆発的な熱を放った。


「――っ!」


 視界が、真っ白に染まる。

 脳裏に、先ほどの予言がより鮮明に、より残酷に繰り返される。


 月明かりの祭壇。

 銀の剣を握り、自分の心臓を迷わず貫くレオ。

 彼は微笑んでいた。

 まるで、ようやくすべての苦しみから解放されることを喜ぶかのように。


(そんなの、絶対に認めない……!)


 私は逃げようとする彼の背中に、さらに強く縋り付いた。

 レオの腕に這い回るあの黒い痣が、私の指輪の輝きに吸い寄せられるように、不気味に蠢き始める。

 彼の苦悶の声が、部屋の空気を震わせた。


「ああ……あああッ!」


 レオが、その場に力なく膝を突く。

 私も共に床に倒れ込みながら、彼の顔を覗き込んだ。

 琥珀色の瞳は、涙と汗で潤み、視点は定まっていない。

 けれど、その瞳の奥に、かつて私に忠誠を誓ったあの「少年」の面影が、はっきりと灯っていた。


「レオ、聞いて。……見えたわ。貴方が死ぬ未来が」


 私の言葉に、レオの体がビクリと跳ねた。


「……予言、だと? 失われたはずの力が……」

「貴方が私を『買った』せいよ。……この指輪が、貴方の『呪い』を糧にして、私の中に眠っていた力を無理やり叩き起こしている」


 レオの腕の痣から、黒い霧のようなものが私の指輪へと流れ込んでいく。

 激痛が走った。

 まるで血管の中に熱した鉄を流し込まれているような痛み。

 けれど、それと引き換えに、レオの荒い呼吸が次第に落ち着いていく。


「……よせ、エララ。……それを吸い取れば、貴様が死ぬ……!」

「貴方一人に、全部背負わせるほど、私はか弱くありません」


 私は震える手で、彼の頬を包み込んだ。

 血の匂いと、懐かしい香草の匂い。

 私の瞳が、本来の「銀色」を取り戻していくのを、レオが呆然と見つめていた。


「レオ。貴方はあの日、父様に何を頼まれたの?」


 レオの表情が、凍りついた。


「国を売り、私を絶望させる。……それが、父様が貴方に与えた『最後の密命』だったのでしょう?」


 沈黙。

 夜の静寂が、私たちの間に重くのしかかる。

 レオは、絶望したように目を閉じた。


「……王は、知っていた。帝国が既に、レトラを飲み込む準備を終えていたことを。……王女である貴様を、帝国の魔手から守る唯一の方法は、一人の『裏切り者』が貴様を略奪し、公的な保護下に置くことだと」


 絞り出すような告白。

 彼は、私の父に命じられたのだ。

 汚名を着て、憎しみを背負い、たった一人で私という種火を絶やさないための「檻」になることを。


「……そんな、馬鹿なこと。……どうして、相談してくれなかったの」

「相談して、貴様が納得したか? ……国を見捨てて自分だけが生き延びる道を、貴様が選ぶはずがない」


 レオは自嘲気味に笑い、私の手をそっと退けた。


「案の定だ。貴様は今日、あいつらの前で私を庇った。……それは、王の計画に反する。貴様は私を憎み、帝国に『無理やり連れてこられた哀れな犠牲者』を演じ続けなければならなかったんだ」


 レオは立ち上がり、壁に背を預けた。

 彼の腕の痣は、一時的に沈静化している。だが、消えたわけではない。


「予言が戻ったのなら、見えるはずだ。……私が死ぬことで、貴様の罪はすべて雪がれ、亡国の聖女として帝国をも支配する権力を得ることになる。……それが、王と私の、最後までの約束だ」


 死ぬことで、私を完成させる。

 そんな歪んだ愛を、私は知らない。


「嫌よ。……そんな未来、私が書き換えてみせる」


 私は立ち上がり、レオの目の前に立った。

 かつての近衛騎士と、その主君としてではなく。

 運命という名の鎖で繋がれた、一人の男と女として。


「レオ。貴方は言ったわね、私が貴方の『所有物』だと。……なら、所有者の勝手を許しなさい」


 私は、彼の左手首を再び掴んだ。

 今度は優しく、けれど決して逃がさない強さで。


「貴方は私のために地獄を選んだ。……なら、次は私の番。貴方をその死の予言から引きずり出して、この『公爵邸』という名の檻を、私たちの『城』に変えてみせる」


 レオは目を見開き、信じられないものを見るような顔で私を凝視した。

 その直後、指輪から眩いばかりの銀色の閃光が走り、邸全体が微かに震えた。


「……エララ、貴様、まさか……!」


 光の中に浮かび上がるのは、指輪に刻まれた、今まで誰も読めなかった古の文字。

 それは、物語が「政略結婚」という枠組みを超え、世界の根源へと手を伸ばした瞬間だった。


(聞こえる……指輪の声が)


 ――『契約の更新を承認。代償は、命ではなく――』


 続きの言葉が響く前に、私は深い意識の闇へと落ちていった。

 倒れる私の体を、レオが必死に抱きとめる感触だけを、最後に残して。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


ついに明かされた、父王とレオの「残酷な約束」。

エララを守るために、レオはあえて「裏切り者の騎士」という地獄を選んでいました。

しかし、エララの覚悟が、失われたはずの「予言」と「指輪」の真の力を呼び覚まします。


「代償は、命ではなく――」

指輪が求めた、新たな代償とは一体何なのか。

二人の関係は、ここから「絶望」を燃料にした、熱すぎる「共犯関係」へと変貌していきます。


次話、第6話「契約の代償、密室の熱」

意識を失ったエララの看病をする中で、レオの抑えていた「独占欲」が、ついに決壊します……!


少しでも「続きが気になる!」「レオの愛が重すぎて最高!」と思っていただけましたら、

ブックマークや評価【☆☆☆☆☆】で応援をいただけますと幸いです。

皆様の応援が、レオン・クラフトの執筆の原動力です!

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