表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

第29話「黒薔薇の葬列、皇帝の終焉」

「……来ないでくれ、エララ様。……来ないでくれ、レオ……!」


 宮殿の門の前で、カイル・セバスチャンは震えていた。

 かつての白銀の鎧は黒い煤に汚れ、その胸元に抱えられた「黒薔薇」の結晶が、帝都の命を吸い上げて脈打っている。

 彼の瞳はもはや銀色ですらない。どろどろとした、濁った灰色の涙が頬を伝っていた。


「どけ、カイル。……これ以上、貴様の無様な姿を見たくはない」


 レオが、私を肩に抱き寄せたまま一歩踏み出す。

 リンクした神経を通じて、レオの心にあるのは、怒りですらなかった。

 かつての友に対する、深すぎる「憐憫」と、それを塗りつぶすほどの冷徹な「殺意」。


「……嫌だ。私が、私が貴女を救うはずだったんだ! レオ、君のような人殺しの裏切り者から、私が……っ!」


 カイルが叫ぶと同時に、黒薔薇が爆発するように開花した。

 地面から噴き出すのは、鉄を腐らせる黒い蔦。

 

 ――視える。


 私の銀の瞳は、その蔦が描く「死の弾道」をすべて把握していた。

 

(レオ、動かないで。……そのまま、剣を左に薙いで)


 私はレオの首筋に手を回し、その耳元で囁く。

 レオは私の予言を、自らの血肉の動きとして受け入れた。

 彼は剣を抜くことさえせず、鞘に収まったままの重厚な一撃を振るった。


 ドォォォォンッ!


 銀の半龍から放たれた波動が、迫りくる黒い蔦を根こそぎ粉砕する。

 リンクを通じて、レオが私の腰を抱きしめる力が強まった。

 (エラ、見ていろ。……貴様を弄ぼうとしたこの世界が、どれほど脆いかを)


「……あ、……ぁ……」


 カイルが、その場に崩れ落ちる。

 黒薔薇の結晶が砕け、彼の生命力を吸い尽くしていく。

 

 私はレオの腕から降りて、カイルの目の前に立った。


「カイル。……貴方が守ろうとしたのは私ではなく、『エララを救った自分』という誇りだったのね」


 冷徹な銀の瞳。

 カイルは私の瞳を見て、ようやく悟ったらしい。

 自分が愛していたのは私ではなく、自分の理想の中にいた「無垢な王女」に過ぎなかったことを。


「……さようなら。……私の、かつての初恋」


 私が指輪をかざすと、白金の光がカイルを優しく、けれど残酷に包み込んだ。

 彼は抗うこともなく、そのまま銀色の灰となって、帝都の風の中に消えていった。

 

 静寂。

 残されたのは、重厚な宮殿の扉だけ。


「……行くぞ、エララ。……黒幕の首を獲りに」


 レオが扉を蹴破った。

 

 玉座の間。

 そこには、震える手で聖剣を握りしめた、皇帝の姿があった。

 数万の軍勢を失い、最強の騎士たちを失い、もはやただの「怯えた老人」に成り果てた男。


「……ハ、ハスカール! 貴様、よくも余の帝国を……!」


「帝国? ……そんなものはもう、どこにもない。……あるのは、貴様が犯した罪の山だけだ」


 レオの歩みは止まらない。

 皇帝が放つ魔導の光も、レオの銀の龍の前では蝋燭の火も同然だった。

 

 レオは皇帝の首根っこを掴み、その玉座から引きずり下ろした。

 かつての支配者が、泥のように雪原ゆかを這い回る。


「……命だけは! 命だけは助けてくれ! エララ、貴女も望むだろう? 王国を再興させてやろう、金も、権力も――」


「……汚らわしい」


 私は皇帝を見下ろし、吐き捨てた。

 リンクを通じて、レオの「独占欲」が狂おしいほどに膨れ上がる。

 (こいつは、貴様に触れようとした。……それだけで、万死に値する)


「……レオ。……終わらせて」


「ああ。……一瞬だ」


 レオの剣が、一閃。

 

 帝国の支配は、あまりにも呆気なく、沈黙の中に消え去った。

 玉座に飛び散る鮮血。

 

 私たちは、血に濡れた宮殿の中心で立ち尽くしていた。

 外からは、圧政から解放された民衆たちの、地鳴りのような歓声が聞こえてくる。


 けれど、レオはそんな歓声など聞こえていないかのように、私を強く、壊してしまいそうなほど抱きしめた。


「……エララ。……これで、私の『裏切り』は終わった」


 リンクした神経。

 彼の心臓の音が、私の胸の中で、安堵と――それを上回る「深い渇望」を奏でている。

 

「……いいえ。……これから始まるのよ、レオ。……誰にも邪魔されない、私たちの『檻』の中での物語が」


 私が微笑むと、レオは私の首筋に顔を埋め、深く、深く、その唇を刻み込んだ。

 

 その時。

 宮殿の奥、誰も入ることの許されなかった「禁忌の書庫」が、指輪の熱に呼応して輝き始めた。

 

(……代償。……最後の一つが、あそこにあるのね)


 私はレオの背中に腕を回し、終わりの予感と、始まりの熱を噛みしめた。

第29話をご愛読いただき、ありがとうございました。


因縁のカイル、そして諸悪の根源であった皇帝……。

二人の共犯者による、あまりにも無慈悲で鮮やかな「清算」が完了しました。

もはや、二人の行く手を阻むものはこの世界に存在しません。


しかし、物語はここで終わりではありません。

指輪が最後に示した、禁忌の書庫。

そこに眠る「真の代償」と、二人が選ぶ「最後の契約」とは。


次話、第30話「銀色の檻、共犯者のエピローグ」

第1部、堂々の完結。

愛の執着が辿り着く、究極の「幸福の形」を、ぜひその目で見届けてください。


「カイルの最期が切ない……」「エララとレオ、強すぎて最高!」

と思っていただけましたら、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価、そして感想をお願いします!

皆様の応援が、完結回を最高の熱量で書き上げるための、最大の糧になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ