表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/30

第30話:銀色の檻、共犯者のエピローグ

 玉座に飛び散った鮮血が、冷たい石床を赤く染めていく。

 かつての支配者の亡骸を、レオは見向きもしなかった。彼はただ、震える私の肩を抱き寄せ、その首筋に己の顔を埋めていた。


「……終わったな、エララ」


 リンクした神経を通じて、彼の荒い呼吸と、心臓の爆ぜるような鼓動が私の胸に直接響く。

 安堵ではない。それは、獲物を食い尽くした獣が抱く、狂おしいほどの「空腹」に似た熱量だった。

 私は、彼の漆黒の外套に爪を立て、その背中を強く抱きしめ返した。


「ええ。……もう、私たちを縛るものは何もないわ。レオ」


 その言葉を待っていたかのように、宮殿の最深部――「禁忌の書庫」の扉が、音もなく開かれた。

 扉の隙間から溢れ出すのは、銀色の吹雪のような光。

 私たちは吸い寄せられるように、その光の渦へと歩みを進めた。


       ◆


 書庫の中は、時間さえも凍りついたかのような静寂に包まれていた。

 無数の古文書が宙に浮き、中心には巨大な「銀の鏡」が鎮座している。

 鏡の前に立った瞬間、私の右腕の半龍と、レオの左腕の半龍が、かつてないほど激しく熱を放った。


『……求めたのは、自由か。それとも、共犯か』


 鏡の中から、誰のものでもない声が響く。

 それは指輪に宿った、千年の記憶の総体。

 

「……問うまでもない。自由など、とっくに捨てた」


 レオが鏡に向かって、傲慢な笑みを浮かべた。

 彼の銀の龍が私の視界を塗りつぶし、鏡の表面に「最後の契約」が文字となって浮かび上がる。


 ――代償は、個の喪失。

 ――恩恵は、魂の完全なる合一。


 その意味を理解した瞬間、レオの手が私の頬を優しく、けれど逃がさないように強く包み込んだ。

 

「エララ。……この契約を交わせば、貴様と私は、死が分かつことさえ許されない一つの魂となる。……一人の時間も、一人の孤独も、二度と手に入らない。……私の檻の中で、永遠に狂い続ける覚悟はあるか?」


「……皮肉ね。……私は、その檻をずっと探していたのよ」


 私はレオの瞳を見つめ、微笑んだ。

 私の銀の瞳が、鏡の文字を読み取り、最後の「承認」を与える。


 瞬間、銀の鏡が粉々に砕け散った。

 破片は光の粒子となって私たちの身体に吸い込まれ、リンクした感覚が、もはや「他人」とは思えないほど密接に溶け合っていく。


 視界が、レオの視界と重なる。

 思考が、レオの思考と混ざり合う。

 彼の悦びは私の悦びとなり、私の微かな震えは彼の指先の震えとなる。

 

 これが、指輪が求めた「真の代償」。

 もはや私たちは、互いなしでは呼吸一つ満足にできない、究極の共依存体となったのだ。


 レオが私を強く抱き上げ、書庫の暗闇の中で唇を重ねた。

 

「……ああ……。……熱いな、エララ。……貴様が私を求めているのが、自分の痛みのように分かる」


「……レオ、もっと……。もっと貴方を私の中に流し込んで……」


 二人の影が一つに溶け、白銀の光の中に消えていく。

 宮殿の外では、帝国の崩壊を喜ぶ民衆の声が響き渡っているが、そんなものは今の私たちには、遠い星の瞬きほどにも感じられなかった。


       ◆


 数日後。

 帝都を包んでいた戦火の煙は晴れ、代わりに澄み切った銀色の霧が街を覆っていた。

 

 宮殿のバルコニーに、私たちは並んで立っていた。

 レオは帝国軍を掌握し、新たな「秩序」の主として。

 私は、その傍らに寄り添う、誰の道具でもない「共犯の王女」として。


「……民たちは、貴方を新しい皇帝と呼んでいるわよ。レオ」


「……馬鹿げた話だ。……私はただ、貴様という領土を守るための、一人の騎士に戻っただけだ」


 レオが私の腰を引き寄せ、耳元で囁く。

 リンクを通じて、彼が民衆の歓声など露ほども興味がなく、ただ私の首筋に残った「接吻の痕」をどう深めるかだけを考えているのが伝わってくる。


 私は空を見上げた。

 そこには、かつての逃亡劇で見た、あの凍てつくような月はなかった。

 銀色に輝く私の瞳は、今やこの世界のあらゆる因果を視通し、私たちを邪魔する者を排除するための「力」へと変わっている。


「……ねえ、レオ。……世界はまだ、私たちを裏切り者と呼ぶかしら?」


「……呼ぶだろうな。……だが、その声もすぐに絶望に変わる」


 レオが私の指先を取り、銀の指輪にそっと口づけをした。

 

「……私たちは、世界を裏切り、運命を略奪した。……ここからが、私たちの『本当の遊び』の始まりだ。……そうだろ、エララ?」


 私は頷き、彼の胸に顔を埋めた。

 足首に刻まれた銀の刺青が、甘い熱を帯びて脈打っている。


 亡国の王女と、裏切りの騎士。

 二人の共犯関係が紡ぐ、残酷で甘美な新章の幕が、いま静かに上がろうとしていた。


 ――第1部 完――

第1部「銀色の檻、共犯者のエピローグ」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

逃亡者として始まった二人の物語が、運命を上書きし、世界を略奪する「支配者」として結実する瞬間。

指輪の呪いさえも「永遠の愛の証」に変えてしまった二人の絆に、筆を執る私自身も熱いものを感じました。


「もっと二人のいちゃつきが見たい!」「帝国を滅ぼした後の展開が気になる!」

という温かいお言葉が、第2部「新秩序・略奪編」を描くための最大の原動力となります。


これにて第1部は完結となりますが、二人の共犯関係は、ここからさらに深化し、世界を塗り替えていきます。

ぜひ、ブックマークと【☆☆☆☆☆】の評価で、二人の門出を祝っていただければ幸いです。


次なる章で、また皆様とお会いできることを心より楽しみにしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ