第23話:反逆の号砲、二人の戦場
雪原の向こうから響く地鳴りは、帝国の傲慢そのものだった。
地平線を塗り潰す黒い軍勢。数万の歩兵、重装騎兵、そして空を覆う魔導兵。
かつてレトロ王国を滅ぼした「鉄の濁流」が、今再び、一人の王女と一人の裏切り者を飲み込もうとしている。
「……数え切れないな。私一人の首に、これほどの兵を割くとは」
レオが低く笑い、剣を抜く。
その左腕の袖は破れ、そこには私と分け合った「銀の半龍」が、夜明けの光を吸い込んで白銀に脈動していた。
リンクした神経が、彼の高揚を私に伝える。
ドクン、ドクン。
それはかつての自己犠牲の悲鳴ではない。獲物を前にした、冷徹で、かつ狂おしいほどの歓喜だ。
「一人ではありません。……私も、貴方の一部なのだから」
私はレオの右側に立ち、彼の手首をそっと握った。
私の右腕にも、同じ龍の紋章が刻まれている。
熱い。
彼が剣を握りしめる力強さ、雪を踏みしめる筋肉の緊張、そして私を「絶対に生かして返す」という猛烈な執着が、私自身の意志のように脳を焼く。
「……来るぞ。舌を噛むなよ、エララ」
先陣を切った重装騎兵が、怒涛の勢いで雪を跳ね上げた。
咆哮と鉄の擦れる音。
レオが一歩踏み出す。
その瞬間、私の銀の瞳が、全方位の戦場を「視た」。
(レオ、十時方向から魔法矢! そのまま三歩前、右から来る騎兵の喉元を薙いで!)
私の思考が、レオの脳内に閃光となって走る。
彼は迷わなかった。予言を確認する間さえ置かず、私の言葉を「真実」として身体を預ける。
閃――。
レオが振るった一撃は、もはや人の域を越えていた。
銀の半龍が咆哮し、剣筋から放たれた白銀の衝撃波が、真正面の騎兵隊を馬ごと吹き飛ばした。
飛び散る鉄屑と、舞い上がる赤。
「……あ、っ……!」
レオが斬った感覚が、私の腕にそのままフィードバックされる。
肉を断つ感触、骨を砕く衝撃。
痛い。けれど、それを上回る「万能感」が私を支配していた。
二人の瞳が銀色に燃え上がり、戦場のすべてが、私たちが動かす「盤上」へと成り下がる。
(次は背後! 潜んでいた魔導兵が発動するわ! 三、二、一――今!)
レオが空いた左手で虚空を掴む。
リンクを通じて私の「魔力」がレオへと流れ込み、彼の手から巨大な銀の障壁が展開された。
降り注ぐ爆炎の雨が、私たちの前で虚しく霧散する。
「……素晴らしい。これなら、国の一つや二つ、本当に堕とせそうだ」
レオが返り血を浴びた顔で、不敵に笑う。
彼は私を引き寄せ、戦場の真ん中だというのに、その額に自分の額を重ねた。
共有される熱。
数万の敵に囲まれている恐怖など、この密着した「二人だけの世界」の前では塵に等しい。
「エララ、貴様は私の『眼』だ。……私は貴様の『剣』だ」
「ええ。……世界中を敵に回しても、私たちは独りじゃない」
私たちは、敵の渦中へと突き進んだ。
レオが振るう剣は、私が視る「死の隙間」を完璧にトレースし、敵の包囲網を紙細工のように切り裂いていく。
銀色の閃光が雪原を走るたび、帝国の誇る精鋭たちが次々と泥の中に沈む。
絶望していたはずの戦場が、いつの間にか私たちの「独壇場」へと変わっていた。
だが。
本陣の巨大な天幕が割れ、そこから一筋の「黒い光」が放たれた瞬間、レオの身体が強張った。
リンクした神経に、今までにない冷徹な、そして「死」そのもののような重圧がのしかかる。
現れたのは、皇帝直属の魔導処刑部隊――「黒き太陽」。
そして、その中心で鎮座しているのは、カイルでも、ヴォルグでもない。
全身を黄金の甲冑で包み、レオの「銀の龍」と対をなすような、不気味な「黄金の瞳」を持つ男。
「……ようやく見つけたぞ。我が不出来な従弟と、その玩具を」
男が言葉を発した瞬間、レオの腕の紋章が、恐怖に震えるように赤く変色し始めた。
(レオ……!?)
レオの心臓が、痛いほど激しく脈打つ。
リンクを通じて、私に流れ込んできたのは――レオの記憶の奥底に封印されていた、絶対的な「敗北」の記憶だった。
感覚を共有し、圧倒的な力で軍勢を蹂躙するレオとエララ。
しかし、その無双を打ち砕くように現れたのは、レオの血縁者にして、皇帝の真の代行者。
黄金の瞳を持つ男の登場により、レオの腕の紋章に異変が起こります。
「二人で一つ」になった絆は、果たしてこの「血の呪縛」さえも超えられるのか。
物語は、いよいよ第1部の最大にして最後の壁にぶつかります。
次話、第24話「黄金の支配者、血脈の檻」
レオの隠された出自、そして「銀の龍」と「黄金の瞳」の忌まわしき関係が明らかになります。
「二人の無双シーンに痺れた!」「新しい強敵の登場にワクワクする!」
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皆様の応援が、二人の反逆をさらに熱く燃え上がらせます!




