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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第22話:虚無の玉座、王の真意

踏み出した一歩が、音もなく闇に吸い込まれていく。


 塔の内部は、物理的な法則を無視した異空間だった。

 壁一面を埋め尽くしているのは、無数の「瞳」だ。それらは瞬きもせず、侵入者である私たちを冷酷に、そして渇望するように見つめている。


「……っ、う、ああああッ!」


 不意に、レオが膝を突いた。

 リンクした神経を通じて、私の脳内に数万人の絶叫が流れ込んでくる。

 

「レオ! しっかりして!」


 私は彼の体を抱きかかえようとして、絶句した。

 彼の左腕、銀の龍の紋章が、剥き出しの神経のように赤黒く脈動し、彼の皮膚を内側から引き裂こうとしている。塔の中に満ちる濃密な魔力が、レオの呪いを暴走させていた。


「……来るな、エララ……。この『瞳』どもは……貴様を、喰らおうとしている……」


 レオが剣を杖代わりに立ち上がる。その瞳は、もはや自分の血で染まって赤く濁っていた。

 

 その時、塔の奥底、虚空に浮かぶ玉座から、あの「声」が響いた。


「……悲しいことだ、レオ・ハスカール。……我が娘を守るために、自らの魂をこれほどまで汚したか」


 玉座に座る影が、ゆっくりと形を成していく。

 それは、紛れもなく私の父――レトロ王ヴェスパーの姿だった。

 だが、その顔には幾百もの小さな瞳が蠢き、人間の慈愛など微塵も感じさせない、冷徹な「意思」そのものと化している。


「父様……。貴方は、一体何なのですか」


 私の問いに、父の姿をした異形は、悲しげに首を振った。


「エララ。……私は、千年の間この塔に蓄積された『予言の記憶』の残滓だ。……王家は代々、この瞳に魂を捧げ、破滅する世界の均衡を保ってきた。……貴女が『銀の瞳』を完全に覚醒させた今、世界は一度リセットされる必要がある」


 異形が手を広げると、塔の壁に埋め込まれた瞳たちが一斉に輝き出した。

 

「レオに『殺せ』と命じたのは、私の最期の親心だった。……『器』となり、永劫の苦しみの中で世界を視続けるくらいなら、人のまま、愛する者の手で終わらせてやりたいと……。だが、この男はそれさえも裏切り、貴女をこの深淵へと引きずり込んだ」


 レオが、血を吐きながら笑った。


「……ああ、そうだ。……私は、貴様の命令を鼻で笑って捨てた。……エララを神にするつもりも、死なせるつもりもない。……ただの女として、私の横で、泥を啜ってでも生き続けさせる。……それが、私の『裏切り』の完成だ」


 レオの剣が、銀色の炎を吹き上げる。

 だが、その炎は彼の寿命を削り、腕の龍が肉を食い破る音を加速させるだけだ。


「……エララ。……選びなさい。……器を受け入れ、苦しみのない新世界を作る神となるか。……それとも、このボロボロの男と共に、帝国の追撃と、朽ち果てていく肉体の痛みの中で、短い生を終えるか」


 父の姿をした怪物が、私に手を差し出す。

 その光に触れれば、足首の「赤き鎖」も、レオの腕の「龍」も、すべて消えてなくなるだろう。

 レオは、私を自由にするために、ここで独りで死ぬつもりなのだ。リンクを通じて、彼の「自分を置いて行け」という、狂おしいほどに切実な願いが伝わってくる。


(馬鹿ね、レオ。……貴方がいない世界なんて、リセットされたところで空っぽだわ)


 私はレオの前に立ち、彼の震える左手を、自らの両手で固く握りしめた。

 

「……断ります。父様」


 銀の瞳を、全開にする。

 視界が、白銀の光で飽和していく。

 私は「未来」を視るのではない。

 今、この瞬間の「運命」を、自らの意志で捻じ曲げる。


「私は神になんてならない。……私は、この『裏切り者』の共犯者として、最低の人生を歩むわ」


 私がレオの手に口づけを落とした瞬間、指輪が爆発的な輝きを放った。

 「契約の更新」が、最終段階へと移行する。

 

 代償は、命ではない。

 

 ――それは、二人で一人の「罰」を受けること。

 

 レオの腕の龍が、私の右腕へと半分移動し、二人の腕にそれぞれ「銀の半龍」の紋章が刻まれた。

 レオの苦痛が半分に減り、私の瞳の過負荷が半分、彼へと流れていく。


「……っ、あ……エララ、貴様……!」


「……もう、独りで背負わせない。……二人で、この世界のバグ(因果)を抱えて生きていきましょう」


 塔が激しく鳴動し、無数の瞳が恐怖に震えて閉じられた。

 父の姿をした異形が、霧のように霧散していく。

 最後に、一瞬だけ、本当の父の穏やかな微笑みが視えた気がした。


「……ハハ、本当に……。……救いようのない、悪女だ」


 レオが私を後ろから抱きしめる。

 共有された感覚が、震えるほどの愛着と、生き残った歓喜で満たされていた。


 崩落を始める白金の塔。

 私たちは瓦礫の山を駆け抜け、外の雪原へと飛び出した。

 

 そこには、朝焼けの光が差し込んでいた。

 だが、雪原の地平線には、帝国の数万の軍勢が、黒い絨毯のように迫ってきている。

 

「……休ませてはくれないようだな、私の奥様」


 レオが不敵に笑い、剣を構える。

 その腕には、私と分け合った銀の龍が誇り高く輝いている。


「……ええ。……ここからが、私たちの本当の『逃避行』の始まりよ」


 私たちは手を取り合い、迫りくる軍勢へと向かって、最初の一歩を踏み出した。

第22話をご愛読いただき、ありがとうございます。


ついに明かされた父王の真意、そして「器」の誘惑。

それを撥ね退け、レオとエララは「痛みも力も半分ずつ分かち合う」という、

極限の共依存関係へと進化しました。

一人が欠ければ二人とも死ぬ。もはや運命共同体となった二人の愛は、

世界のシステムさえも書き換えてしまったのです。


しかし、塔を脱出した彼らを待っていたのは、帝国の圧倒的な大軍。

「救済」を拒んだ二人に、帝国はどのような「断罪」を下すのか。


次話、第23話「反逆の号砲、二人の戦場」

第1部、いよいよ本当の最終決戦へ。

銀の半龍を宿した二人が、数万の敵を相手に無双を開始します。


「二人の絆が尊すぎる!」「痛みを分け合う設定、最高!」

と感じていただけましたら、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価で、二人を応援してください!

皆様の声が、二人の銀の龍をさらに強く輝かせます。

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