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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第15話:影の調律師、古の隠れ里

視界が、赤黒い雨に溶けていく。


 地面に膝をついたレオの背中が、酷く小さく見えた。

 突き刺さるようなカイルの拍手。

 かつての初恋の騎士は、白銀の鎧に返り血を浴び、歪んだ慈愛をその瞳に湛えて歩み寄ってくる。


「……離れろ、エララ。……奴の魔力に触れるな」


 レオが、血を吐きながらも私を背後へ隠そうとする。

 リンクを通じて届くのは、内臓を灼かれるような激痛。老騎士の自爆による衝撃が、彼の「銀の龍」の奔流と衝突し、内側から彼を壊し始めていた。


「もういいんだ、レオ。……君の役目は終わった」


 カイルが剣を振り上げる。

 銀薔薇の呪核が放つ不吉な光が、森の闇を白く染め上げる。

 私はレオの背中にしがみつき、叫んだ。


「やめて、カイル! これ以上、彼を傷つけるなら、私は――!」


「……死なせはしないよ。君から彼を奪うために、徹底的に『無力』にするだけだ」


 振り下ろされる銀の閃光。

 死を覚悟したその瞬間――。

 私たちの周囲に、不自然なほどの「静寂」が立ち込めた。


 カイルの剣が、見えない「壁」に弾かれ、火花を散らす。

 同時に、森の奥から低く、枯れた声が響き渡った。


「……騒々しいねえ。せっかくの雨の音を、下劣な殺気で汚すんじゃないよ」


 霧の中から現れたのは、ボロボロの麻布を纏った、小柄な老人だった。

 背中には巨大な楽器ケースのようなものを背負い、右手には古びた調律用のハンマーを握っている。


「誰だ……! 帝国の騎士団に刃向かうつもりか!」


 カイルが焦燥を露わにする。

 老人はふんと鼻を鳴らすと、手にしたハンマーで、虚空を軽く叩いた。


 キィィィィン――。


 鼓膜を突き刺すような高周波。

 その瞬間、カイルを覆っていた銀の魔力が霧散し、彼に付き従っていた「屍の騎士」たちが一斉に地面へ崩れ落ちた。


「……音が狂っているね。特にかの銀の鎧の小僧、お前の魂はもう、修復不可能なほどにひび割れている」


「貴様……ッ!」


 カイルが再び踏み込もうとしたが、老人が指を鳴らすと、私たちの足元の地面がぐにゃりと歪んだ。

 泥の中に沈み込んでいくような感覚。

 レオを抱えたまま、私は深い闇へと吸い込まれていった。


       ◆


 次に目を覚ましたとき、鼻を突いたのは「香草」と「古い紙」の匂いだった。


 どこかの洞窟、あるいは隠れ家だろうか。

 石造りの壁には無数の楽器や時計の部品が吊るされ、暖炉では青い炎が静かに揺れている。


「……気がついたかい、お嬢さん」


 先ほどの老人が、温かいスープの入った器を差し出してきた。

 私は混乱した頭を振るい、隣のベッドに横たわるレオを見た。

 彼は上着を脱がされ、包帯を巻かれている。……けれど、その包帯越しにも、黒い痣が脈打っているのが見えた。


「レオ! ……よかった、生きているのね」


 私は彼の手を握ろうとして、あまりの「熱さ」に手を引っ込めた。

 リンクした神経が、彼の高熱と苦痛を、私の脳へと直接叩きつけてくる。


「……触れない方がいい。今の彼は、共鳴の過負荷で魂が焦げ付いている状態だ」


 老人は「ジーク」と名乗った。かつて王宮で「音の調律師」を務めていた、ヴェスパーの古い知人だという。


「あんたたちの指輪と呪い。……それは今、一つの『共鳴器』になっている。彼が傷つけばあんたが鳴り、あんたが泣けば彼が壊れる。……このままじゃ、二人まとめて灰になるよ」


「どうすれば……どうすれば、レオを救えるんですか?」


 ジークは、暖炉の炎を見つめながら静かに言った。


「あんたの『銀の瞳』で、彼の魂の結び目を解くのさ。……ただし、代償が必要だ。同期を深めれば深めるほど、あんたの意識は彼と溶け合う。……自分の心がどこまでで、彼の痛みがどこからなのか、分からなくなる地獄だよ」


 ジークがレオの胸元を指差す。

 そこには、銀の龍の紋章が、弱々しく点滅していた。


「今夜、彼の手入れ(調律)を始める。……お嬢さん、あんたには『中身』になってもらうよ」


 手入れ。

 私は、レオの傷だらけの胸元に、震える手で触れた。

 伝わってくるのは、彼がこれまでひた隠しにしてきた、あまりにも純粋で、あまりにも重苦しい、私への「独占欲」。


(……痛い。レオ、貴方の愛は、こんなにも痛かったのね)


 レオが、うっすらと目を開けた。

 焦点の合わない琥珀色の瞳が、必死に私を探している。


「……エラ……ラ……。逃げ……ろ……」


「いいえ、逃げません。……レオ、私を、貴方の地獄の中へ入れて」


 私は彼の額に自分の額を重ねた。

 同期が、加速する。

 彼の流す汗も、血の味も、絶望も。

 すべてが私の中に流れ込み、私の涙が、彼の頬を伝う。


 隠れ里の夜が更けていく。

 外ではカイルが狂ったように森を焼き、私たちを追っている。

 けれど、この小さな部屋の中で、私たちはかつてないほど濃密に、残酷に、一つの「魂」へと溶け合おうとしていた。


 ジークが、静かに巨大な竪琴の弦を弾いた。

 物語の「調律」が、ここから始まる。

第15話までのご愛読、本当にありがとうございます。

第1部の大きな山場を越え、物語は「影の調律師」による、二人の魂の再構築へと進みます。

絶体絶命のピンチを救ったジーク。彼の語る「同期の真実」は、レオとエララをさらなる「じれ甘」の深淵へと誘います。


「逃げて!」と願いながらも、二人の密着した苦しみにドキドキしてしまう……。

そんな、レオン・クラフトならではの「執着の美学」を、これからも丁寧に描いていきます。


次話、第16話「偽装の聖餐、重なる鼓動」

隠れ里での「治療」という名の、あまりにも際どい二人きりの夜。

レオの理性が、ついに限界を迎えます。


「ジークさん、渋い!」「レオをもっと甘やかして(苦しめて)!」

と感じていただけましたら、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価で、応援をいただけると幸いです。

第1部完結に向けて、皆様と一緒にこの物語を盛り上げていければと思います!

明日からは1日1話の投稿予定です。お楽しみに。

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