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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第13話:赤き鎖、逃亡の果ての熱

 ガタゴトと、石畳を叩く馬車の振動が、そのまま私の神経を逆なでする。

 帝都を脱出し、私たちは国境へと続く険しい山道にいた。


「……っ」


 不意に、右足首を真っ赤な焼火箸で押し当てられたような激痛が走った。

 私は声を押し殺し、座席のクッションを強く握りしめる。


「エララ、顔色が悪い。……見せてみろ」


 向かい側に座るレオが、鋭い視線を私の足元に向けた。

 馬車の中は暗い。けれど、私の足首に巻き付いた「銀の鎖」の一部が、今や不気味なほど鮮やかな「赤色」に変色し、服越しでも分かるほどの熱を発している。


「……なんでもありません。ただ、少し、疼くだけですから」


「嘘をつくな。……リンクを通じて、貴様の喉が焼けるような痛みが伝わってくる」


 レオは強引に私の足を自らの膝の上に引き寄せた。

 革の手袋を外し、彼の熱い掌が私の足首に触れる。


「あ……」


 その瞬間、嘘のように痛みが引いていった。

 彼の熱が、私の血管に巣食う「赤き呪い」を押し戻し、溶かしていく。

 レオの琥珀色の瞳が、苦渋に満ちた色で揺れた。


「……指輪が求めた代償は、これだったのか。私と離れるほど貴様に痛みを刻み、触れることでしかそれを癒やせない……。どこまでも、悍ましい指輪だ」


 彼は私の足首を、壊れ物を扱うように両手で包み込んだ。

 それは慈悲であり、同時に、逃げ場のない執着の宣言でもあった。


       ◆


 深夜。私たちは「追跡者を撒く」というロザリンの提案に従い、国境手前の小さな宿場町に滑り込んだ。

 雨が降りしきり、街灯もない寂れた宿。


「空いているのは、屋根裏の一部屋だけ。……文句は言わないでくださいね。今は『行商人の夫婦』になりきらなきゃいけないんですから」


 ロザリンがそう言って手渡してきた鍵は、一つ。

 狭い階段を上がり、埃っぽい部屋の扉を開ける。

 そこには、大人二人が横になれば隙間もなくなるような、簡素な木製ベッドが一つあるだけだった。


「……私は、床で寝る」


 レオが背を向けて言った。

 だが、彼が私から一歩遠ざかった瞬間、私の足首から全身へ、氷のナイフで刺されたような「寒気」が駆け抜けた。


「レオ、待って……!」


 私は、彼の漆黒の外套の袖を掴んだ。

 全身がガタガタと震え、視界がチカチカと火花を散らす。

 リンクを通じて、レオにも私の「異変」が伝わったのだろう。彼は舌打ちを一つして、私を抱きかかえるようにしてベッドへと運び込んだ。


「……くそ。……呪いが、物理的な距離を許さないのか」


 狭いベッド。

 レオの体温が、すぐ隣にある。

 彼が私の腰に腕を回し、肌を密着させるたびに、私の意識は甘い痺れの中に沈んでいく。


 雨音が、トタンの屋根を激しく叩く。

 その音さえも、リンクしたレオの激しい動悸にかき消されていく。

 彼は私の耳元で、耐えるような低い呼吸を繰り返していた。


「……レオ、苦しい……?」


「……黙れ。……お前の『心地よい』という感覚が流れ込んできて、正気を保つのに必死なんだ」


 レオの指が、私の髪を掬い上げる。

 彼の「独占欲」が、もはや言葉ではなく、重く湿った熱となって私の肌を犯す。

 接吻をしたあの法廷よりも、今のこの沈黙の方が、ずっと危うく、官能的だった。


「……エララ。……貴様を、連れてこなければよかったと思うか?」


 不意に、レオが掠れた声で囁いた。

 彼の胸の奥から伝わってくるのは、深い「後悔」と、それ以上に深い「愛着」。


「いいえ。……泥の中で auction にかけられていた私を、あの日、貴方が買ってくれたから。……今のこの痛みさえ、私は、貴方と繋がっている証だと思えるわ」


 私は、レオの胸元に顔を埋めた。

 リンクした彼の心臓が、大きく、一つ跳ねた。


「……愚かな女だ」


 レオが私の顎を掬い、暗闇の中で私を見つめる。

 その瞳には、かつての近衛騎士としての忠誠も、公爵としての仮面もなかった。

 ただ、一人の女を壊してしまいたいほどに渇望する、飢えた獣の瞳。


「……これ以上、私に触れるな。……一線を越えれば、もう二度と、貴様を『王女』としては扱えなくなる」


「……構わない。……私はもう、貴方の『妻』なのだから」


 私の言葉が、レオの理性の最後の一糸を断ち切った。

 彼は私の唇を奪うように、深く、重く重ねた。


 雨音の向こうで、誰かが宿の階段を上がる音がした。

 けれど、私たちはその音に気づかない。

 リンクした魂が、互いの存在以外のすべてを、この夜から消し去っていた。


 だが、私の「銀の瞳」は、夢うつつの中で視ていた。

 宿の窓の外、雨に濡れながら、白銀の甲冑を纏った「死神」が、不敵な笑みを浮かべてこちらを見上げている光景を。

逃亡中の宿屋、一つのベッド。

「離れると痛む」という呪いの代償により、二人は心も体も極限まで密着せざるを得なくなります。

レオの抑え込んでいた情動が、エララの覚悟によってついに決壊した夜。


しかし、その幸福を切り裂くように、カイルの放った「刺客」がすぐそこまで迫っています。

そして、エララの「銀の瞳」が捉えた不吉な予感とは……。


次話、第14話「囁く森、追跡者の影」

束の間の平穏は終わり、物語は血と硝煙の逃走劇へと戻ります。


「レオの理性が壊れる瞬間がたまらない!」「エララが強くて素敵」

と感じていただけましたら、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価で、この愛の行方を見守ってください。

皆様の応援が、二人の夜をより熱く、美しく彩ります!

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