繋がる甘い香り5
「これなんてどう思います?」
「ん、いいんじゃねぇか」
鼻を近付けて匂いをかぐと、頷きながらそう言ってくれた。
今は、以前原田さんに連れて来てもらった匂袋のお店に平助くんと来ている。
七夕に好きな人がいると打ち明けた時、その人に何か贈り物でもしようと考えているという話したら、私以上に盛り上がってくれた。
相手が誰なのかも、さらには彼に恋人がいる事も、このプレゼントを渡して告白をし、きっぱり断られようと思っている事も話せていないけれど、平助くんと一緒にいると、前向きな彼の言葉に乗せられて、一瞬でもうまくいくような気がしてしまう。だから、一緒に選んでほしいとお願いすると、「しょうがねえなぁ」と面倒くさそうに言いながらも、快く付き合ってくれた。
その時の事はその時に考えるとして、今は、平助くんと楽しい時間を過ごせればいいと思った。
「そういえばさ、くれはも匂袋持ってるよな?」
「あ、うん」
「気付いてたんだけどさ、いちいち言うのもあれかなぁと思って言わなかったけど、やっぱり女子はいい匂いする方がいいよな」
両手に取った匂袋を交互に鼻に近付けている。
「そういうのって言ってくれた方が嬉しいものですよ」
「そうなの?」
「そうなの!」
「女子って難しいのな」
口をへの字にして見せた。
店に置いてある匂袋のほとんどを手に取ったあと、もう一度沖田さんの事を思い浮かべた。
悩みに悩み、いくつか絞った中から、現代にもありそうな甘い香りの匂袋にした。バニラの香りにも似たそれは、甘い物が好きな沖田さんにぴったりだと思った。
時間をかけて選んだ匂袋を大切に懐にしまう。
「平助くん、今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「おう。頑張って渡してこいよ」
「うん……」
鴨川を横目に四条大橋を渡る。その時、ほとんど同時に平助くんと同じ光景を目にした。それもそのはずで、女性の悲鳴にも似た声が聞こえたからだ。
驚いて立ち止まっていると、「くれははここで待ってろ!」、言うなり走り出した。
体を横にしながら上手く野次馬の間をすり抜けて行くと、あっという間に姿が見えなくなった。
ただ、待ってろと言われて素直に待っていられたのは数ヶ月前までで、気付けば後を追っていた。一応は、平助くんに気付かれないように遠巻きから様子を伺う。
ここから見える限り、一人の女性が数人の男に絡まれているようだった。たぶん、たちの悪い輩だろう。その女性を庇うようにして立っている男性が、何やら輩の一人のともめていると言った感じだ。前にできた人垣で顔までは見えないけれど、平助くんも加勢して話し合いをしているようだった。
心配で、足を一歩進めた。そして、気持ち程度に背伸びをする。
「え……」
思わず声が出たのは、女性を庇っている男性が沖田さんだったからだ。
今度は必死に背伸びをする。
よく見ると、沖田さんの背中で小さくなっているのは例の女性だった。状況がどうであれ、二人が一緒にいる姿を見たくはなかった。
しばらくして、男の怒鳴り声が聞こえた。輩の一人が沖田さんたちに向かって罵声を浴びせている。そのすぐあと、私のいる場所とは反対の方へと去って行った。
「くれはっ!」
平助くんが小走りで戻ってきた。
「大丈夫だったの?」
沖田さんの事は抜きにしてそう聞いた。
「おう。偶然総司さんもいたみたいでさ、たまたま通りがかったら輩に絡まれてたらしいんだよ」
そう言うと、何かを思い出したように、「あっ!」と声を上げた。
「ど、どうしたの?」
「今思い出した、あの子の名前」
「え?」
「だから、さっきの女の子、総司さんと一緒にいた」
言葉に詰まった。それを、頷きながら誤魔化す。
「確かサヨだったと思うよ」
「そう、なんだ。彼女は大丈夫なの?」
「今から総司さんが家まで送ってくってさ。今日の巡察がたまたまこの辺りだったにしても、こういうのってやっぱ運命って言うんだろうな」
楽しそうに話す平助くんに、どうにか愛想笑いを貼り付け、適当な相づちで返す事しかできなかった——
屯所に戻り、玄関で平助くんと別れた。
台所へ行き、勝手口から裏庭に出る。
太陽の日差しに目を細めながら、井戸のそばに腰を下ろした。
懐に入れた匂袋をおもむろに取り出し、ぎゅっとにぎった。「こんなもの!」思うけれど、それだけだ。今にも涙がこぼれそうになり、大きく息をついてぐっと堪える。
泣くのは、もう少し先でいい——




