↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/58

過去へ4





 怒鳴り声が狭い部屋に響く。

 反射的に体がビクッとなるけれど、怯(ひる)んではいられない。


「自分でもまだよく分からないですし、信じてもらえないかもしれないですけど。もし、本当にあなたが壬生浪士組の土方歳三さんなら、私は、この時代の人間ではありません。たぶん……」


 語尾が消え入りそうになるのは、私の言葉に部屋の空気が張り詰めるのが分かったからだ。


「この時代の人間じゃないって言うなら、お前は、いつの時代の人間だって言うんだよ」


 土方さんは鼻で笑っている。


「私のいた時代の元号は、令和と言います。今からその、約百六十年先の、未来です……」

「お前、冗談言ってると本当に斬るからな」


 土方さんの低い声に、そこにいる全員が私を白い目で見ている。


「こ、この状況で、冗談が言えると思いますか?」

「お前の言う事が事実なら、証明しろ」


 早口に言われ、自分のバッグを思い出す。


「あの……」


 今度は、壬生寺で会ったその人に顔を向ける。


「私が持っていたバック、いえ、これくらいの四角い入れ物は、どこですか?」


 両手で宙に四角を書きながら尋ねると、その人は立ち上がり部屋を出て行った。そして、すぐに戻ってくるなりバッグを私に手渡してくれた。それの中身を順番に畳の上に並べていく。

 財布、スマホ、パスポート。化粧ポーチとハンカチに、絆創膏、家の鍵、カナダで買った飴とボールペン。それらを一つ一つ説明する。


「たぶん、この時代の物は、この中に一つとしてないと思います。ただ、こんな物で信用してもらえるとは思いませんが、今の私には証明出来る物がこれしかありません」


 同席していた土方さんよりも若い男性、と言うよりも少年が、私に近寄るとそれらを物色し始めた。


「これはどうやって使うもんなんだ?」


 スマホを指差して私に聞いてきた。

 手に取り電源を入れる。たったそれだけで、少年は興奮しているようだった。そして、カメラモードにしてからそれを少年に向ける。シャッターのボタンを押すと、この時代には似つかわしくない音が響いた。

 撮った写真を少年に見せると、先程よりも更に興奮した様子で他の人たちにも見せている。

 すると、張り詰めていた空気が徐々に和らいでいくのが分かった。


「君は本当に、その、百六十年も先の未来から来たと言うのかね?」


 中央の男性が、半信半疑と言った様子で尋ねてきた。


「もし、これが夢でないとすれば、それ以外に考えられません。でも、私にも詳しい事情ははっきりと分かりませんが……」

「何か、特別な事でもしたのではないのか?」


 その質問に対し、カナダから日本に帰る途中の出来事を話した。それ以外、特別と言えるような事が見当たらなかったからだ。ただ、飛行機やなんかの説明がこんなにも難しいとは思わなかった。

 一通り話終えたところで、目を伏せ長い息を吐くと、中央の男性に優しい声色で名前を呼ばれた 。


「くれはさん」


 顔を上げ、その男性を見る。


「どうやら、大変な思いをされたようだね」


 そこまで言うと、心なしか涙目になっているように見えた。


「とりあえず、帰る方法が分かるまで、ここにいなさい」


 一変した態度に、驚いているのは私だけではなかった。


「近藤さん!」


 土方さんが叫んだ。


「歳、まあそう言うな。どこにも行く宛のない娘さんを、京の町に一人置き去りには出来んだろう」


 土方さんの声に動じる事なく、近藤さんと呼ばれた男性は、ゆっくりとした口調で話している。


「ちょっと待ってくれよ! 間者かどうかって問題はまだ解決してねぇだろ」

「歳、お前も今の話を聞いていただろう。もしも彼女が間者なら、自分が疑われるような事を言ったりはしないだろう。それに、それらの物は、今までに見た事のない物ばかりだ」


 先程から、私の事を擁護(ようご)するような言い方をしてくれているのは、たぶん、近藤勇(こんどういさみ)だろう。よく見れば、写真で目にした顔そのままだ。

 動いている近藤勇は、写真で見る勇ましい存在感とは違い、温和な雰囲気すら感じる。


「ただ——」


 そう言うと、近藤さんは私を真っ直ぐに見つめた。


「歳の言う通り、丸きり信用していると言う訳ではない。何しろ我々も、君のような人間に出会ったのは初めての事なんだ」

「そう、ですよね」

「まあ、とにかくこれも何かの縁だと思って、しばらくはここに居ればいい」


 目尻を下げ、そう言ってくれた近藤さんに頭を下げてお礼を言った。


「礼等いらんよ。それでは、遅ればせながら。私は壬生浪士組局長の近藤勇だ。よろしく」

「はい。あの、私は、星宮くれはです。よろしくお願いします」

「ああ、名前は総司から聞いていたよ」


 壬生寺で会ったその人に、近藤さんが目配せをする。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。