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過去へ3





 素直に答えているにも関わらず、その人達からは、全くと言っていい程私の言葉を信用していない様子が伺える。


「あの、聞いてもいいですか?」


 中央の男性に目を向ける。


「私に答えられる事なら」

「ここは、どこなんですか? それに、どうして皆さんは着物を着てらっしゃるんですか?」


 全員が、一気に怪訝な顔つきになる。


「では、どうして君はそのような格好をしているのかね?」


 質問の返事になっていないと思った。けれど、それを言える雰囲気でもない。


「どうしてって。春、らしいかな、と……」

「お前、ふざけてんのか!」


 先程の見覚えのある男性が、言いながら片膝を立てた。


「歳(とし)、落ち着け!」


 歳と呼ばれたその人を制したのは、中央の男性だった。


「星宮くれはさん、だったかな。君の身なりはどう見ても怪しいとしか言いようがない。それに、私たちは君をどこかの間者だと思っている」

「あの、先程もそちらの方に言われたのですが、間者って映画に出てくるスパイ、みたいな人ですよね?」

「すぱい?」


 そう繰り返したのは、やはり壬生寺で会ったその人だった。


「君の話す言葉は我々とほとんど同じにも関わらず、節々に理解のできない部分がある。君は、どこから来たんだね?」


 中央の男性が言った。


「東京、です……」

「それはいったい、どこなんだね?」


 つい怪訝な表情(かお)をしてしまった。東京をどこだと聞いてくる日本人に、今まで一度も出会った事がないからだ。

 先程から私に質問をしてくる男性の言った事が、理解できる気がした。確かに何かがずれている。言葉は通じるのに——通じない。

 北海道から東北、その下に東京があり、さらに西へ行くと京都がある事を手振りを付けて説明した。が、それが良くなかった。どうしてか、私を見る目がさらに厳しくなったように見えた。


「お前、正直に言わねえと本当に斬るぞ!」


 歳と呼ばれる男性が、凄みのある声で叫ぶように言った。


「あの、私さっきから本当の事しか話してません。それに何度も言いますけど、どうして自分が京都にいるのか分からないんです。もう、家に帰ってもいいですか? 私が誰かなんて、どうでもいいでしょう?」


 後半は、口調が強くなっていた。


「いや、そう簡単に君を返す訳にはいかない。君にはもうしばらく、ここにいてもらう」


 中央の男性が、さも当たり前かのようにそんな事を言った。


「何言ってるんですか? そんな事をしたら、あなたたち捕まりますよ」

「捕まってるのはお前の方だ」


 歳と呼ばれる男性が、相変わらずの口調で恐ろしい事をさらりと言った。でも、本当に捕まっているのなら、私がいったい何をしたと言うのだろうか。思わず自問自答した。


「お前、ここがどこだか本当に分かってねぇのか?」


 歳と呼ばれる男性が、真っ直ぐに私を見据える。


「はい。ここはどこですか?」


 私の質問に答えたのは、壬生寺で会ったその人だった。


「ここは、壬生浪士組(みぶろうしぐみ)の屯所です」


 冗談にするでもなく、真顔で答えたその人を、疑う事の方が間違っているように思えた。


「壬生、浪士組って……」

「君は、我々の事を知っているのか?」


 中央の男性が、私に問いかけた。


「名前は、聞いた事があります」


 新選組の前身、壬生浪士組。今も尚、彼らのファンは日本中にいる。もし、この人たちの言っている事が本当なら、今は江戸後期、幕末の時代になる。

 壬生浪士組の屯所である事が確かなら、本当にここは京都で、先程から脅すような事を言ってくる歳と呼ばれる男性は、たぶん、土方歳三(ひじかたとしぞう)だ。


 ——いや、ありえない。


 思ってから心の中で苦笑いする。

 バンクーバー発、幕末の京都行き。


 ——いやいや、ありえない……


 例えば、飛行機がああなってしまった事で、あの国民的アニメに出てくるどこへでも行ける扉を開けてしまい、私だけここへ飛ばされた、とか。


 ——いやいやいや、ありえない!


「お前、さっきから何を考えてやがる?」


 土方歳三と思われる男性が、敵意丸出しで私を睨みつけている。


「い、いえ、何も……」

「とりあえず、お前には尋問を受けてもらう」

「え……」

「疑われるような事がないなら、問題ないだろ」


 とりあえずは、ぎこちなく頷いた。


「あ、あの——」


 話しかけられたからではないけれど、土方歳三と思われる男性に言った。


「今度は何だ?」

「本当にここは、壬生浪士組の屯所、なんですよね……」

「だったら何だ?」

「あの、今の元号って、何ですか?」


 ゆっくりと言葉を並べる。


「文久(ぶんきゅう)だ。だったら何が言いたい?」


 淡々とした口調とは、まさにこの事を言うのだろう。


「……土方、さん?」


 言いながら、馬鹿な事を言っていると思った。そして、間違いなく私の一言で、土方歳三と思われる男性の眉根が、益々ぐっと寄せられた。


「お前、本当に何者だ!? どこから来た?」

「あの、えっと——本当に土方さんなんですか?」

「質問に答えろ!」





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