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心に蓋、矛盾3





「沖田、さん……」


 鋭い眼差しに、嫌な汗が背中を伝う。


「何してるの?」


 声が苛立っている。


「あの、私……」


 沖田さんのあとを付けてきましたとは口が裂けても言えない。この状況でそれなりの言い訳が思い付くはずもなく、頭が混乱していた。


「僕のあと、付けてたでしょ」


 冷淡な口調と、同じくらい冷たい笑みに言葉が出なかった。ただそれが、その事を肯定するには十分すぎるほど十分だった。


「ねぇ、君は何がしたいの? 本当にただの女の子? 何か隠してるなら、容赦しないよ」


 刀に手を添えた沖田さんからは、素人の私から見ても殺気を感じられるほどだった。

 黙っていると、こちらに向かって歩き出した。後退りしそうになるのをどうにか堪え、沖田さんの足先に視線を落とす。


「僕が気付いてないとでも思ってた? いい加減、答えてくれる」


 ずいっと体を寄せると、私の顎に手を添えて顔を上げられた。


「土方さんほどじゃないけど、僕もそんなに気が長い方じゃないからね」


 笑いながら言われる事ほど怖いものはない。


「あの……」


 肩をゆっくりと上下させる。


「すみませんでした」


 頭を下げ、すぐにまた口を開く。


「以前、平助くんに八坂神社まで連れてきてもらった事があるんですけど、その時、偶然沖田さんを見かけたんです」


 そう言うと、瞬間眉をひそめた。


「沖田さんは女の人と一緒でした」


 そこまで話すと、何かを思い出したような顔をした。


「どうしてその時の事が今と関係あるの?」


 それもそうだと思ったけれど、今さらだった。


「だからその、確かめたくて……」


 沖田さんは顔だけでどういう事だと訴えている。


「その人は、沖田さんの大切な人ですか?」


 一気にそう言った。


「だったら、君と何の関係があるの? さっきから質問の答えになってないんだけど」


 分かりやすく苛立ちを見せると、鼻から大きく息を吐いた。


「——沖田さんが好きだからです」


 下唇を、ぎゅっと噛んだ。そうしていないと、今にも涙がこぼれてしまいそうだったからだ。


「何それ」


 吐き捨てるようなその言葉に、可能性のなさを痛感する。


「全然意味が分かんないんだけど」


 そう言って鼻を鳴らした。


「沖田さんが、好きだから……」


 真剣な気持ちと、自暴自棄な気持ちが入り雑じる。

 沖田さんは、私の言葉を全く信用していなさそうな様子だ。


「じゃあ、僕を好きだって言う証拠を見せてよ」


 からかわれているのか本気なのか、どちらにせよ、無理難題な事を言われ、言葉に詰まった。


「証拠は、ないです……」


 それをどう捉えたのか、私の手首を掴むなり大股に歩き出した。気遣いなど全く見られないのに、嫌だとは思わなかった。

 路地から四条通りへ出て左へ曲がり、八坂神社を正面にして今度は右に曲がった。人通りの少ない脇道へと逸れ、しばらく歩いた先の日の当たらない大きな木の下で立ち止まった。周りに人の気配はなく、野良猫さえも見当たらない。


「ここならちょうどいいかな」


 何がちょうどいいのか全く検討もつかない。


「ねぇ、僕が今怒ってる理由、分かってるよね?」

「……はい」

「君にあとを付けられてた事は、百歩譲って許したとしても、彼女も僕も、今日会えるのを楽しみにしてたんだ。その意味分かるよね?」


 沖田さんの口から聞きたくなかった言葉に、再び鼻の奥がツンとなる。

 答える代わりに、しっかりと頷いた。

 彼が、再び鼻を鳴らした。


「本当にすみませんでした。それならどうして、助けに来てくれたんですか? その、助けてもらっておきながら、こんな事を聞くのもあれなんですけど……」

「叫び声が聞こえたからだよ」


 まさか私の叫び声が沖田さんに届いていたとは思いもしなかった。


「でもまさか、君とは思わなかったけどね」

「すみません……」


 何か言いたげな表情(かお)をするけれど、大きく息を吐くだけだった。


「その、待ってらっしゃるんですか?」


 彼(・)女(・)と言う言葉ですら、言う事に躊躇った。


「いや、彼女には帰ってもらったよ」

「そう、ですか……」


 次の瞬間、肩を押されて木の幹に背中をぶつけた。


「今の僕は、感情が昂ってる事くらい分かってるよね?」


 恐る恐る頷いて答える。


「だったら、僕の事慰めてよ。僕の事、好きなんでしょ?」





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