膨らむ誤解5
今日、沖田さんと久しぶりにまともな会話ができた事は嬉しかったけれど、例の女の人の事については全く解決していない。けれど、私は私のできる事をすればいい。そんなふうに思えた。
沖田さんと壬生寺から屯所に戻ったあと、着替えてすぐに台所に立った。が、それがいけなかった。濡れた髪の毛なんかをきちんと拭かなかったため、思った以上に体が冷えてしまっていたのか、見事に風邪をひいてしまった。
今は、鼻の下まで布団をかぶり、迫り来る悪寒と戦っている真っ最中だ。
少し前に、水の入った桶と手ぬぐいを平助くんが持ってきてくれた。私のおでこにしぼった手ぬぐいを乗せてくれると、すぐに巡察に出かけて行った。彼の心配そうな顔に力なく笑うと、「すぐ良くなるって」といつもの笑顔で言ってくれた。
またしばらくすると、遠くで誰かの足音が聞こえた。少し前から、意識が現実と夢の中を行ったり来たりしている。
おでこにひんやりとした感覚がして、まぶたを薄く開いた。
「……沖田、さん?」
言ってから、無意識に手を伸ばしていた。
「そうだよ」
優しい声に安心する。
私の手を取ると、両手でぎゅっと握ってくれた。
「色々と、迷惑かけてすみませんでした」
「別に、そんなふうに思ってないよ」
「でも……」
「皆にはちゃんと言ってあるから、今はゆっくり休めばいいよ」
私が頷くと、握っている手を離した。
それからゆっくりと腰を浮かすものだから、とっさに彼の着物の端を掴んでいた。
「ん、どうしたの?」
その先は、考えていなかった。
「あの……」
私を見下ろす顔に、心臓が早くなる。
「そばにいてもらえませんか?」
ものすごく大胆な事を言ったと思った。
身体中が熱いのは、風邪のせいだけではない。
あたふたする私を見て、沖田さんが小さく笑った。
「ここ、僕の部屋だから」
言われてはっとなり、恥ずかしくなった。
「でも、その気持ちは分かるよ。体が弱ってる時は、誰かにそばにいてほしいよね」
それももちろんあるけれど、沖田さんだからそばにいてほしかった。
「今日は特別だよ」
言うなり私の隣で横になった。
片肘を立てて頭を支えると、急に顔が近くなるものだから、恥ずかしくなって布団で顔を隠した。
沖田さんがどこかへ行ってしまわないか不安で、布団の中からそろそろと手を伸ばし、彼の着物をぎゅっと掴む。そしてすぐ、まぶたを閉じた。沖田さんが小さく笑ったのが分かったけれど、目を開けられなかった。不自然なほどにぎゅっと目を閉じていると、横から伸びてきた手が私の頬に触れた。冷たいのに温かくて、恥ずかしいのに心地良い。できるなら、ずっとそうしていてほしい。このまま眠ってしまいたい気持ちと、もったいなくてそうはしたくない気持ちが同じくらいあった。
頬に添えられた手を取り、それを抱きしめるようにしながら寝返りを打つ。こんなに大胆になれるのは、熱のせい、そうに決まっている。すぐ近くで沖田さんの息づかいを感じる。緊張で心臓が口から出そう、とは聞いた事があるけれど、まさに今がそれだ。こんな状況で眠れるわけもなく、それならと、今だけでもこの手の温もりを独り占めしたい。そう思うのに、沖田さんと一緒にいた例の女の人の事が頭を過る。
私だって、私だって、と何度も思てきた。けれど今は、私の方が、私の方が、に変わっていた。私の方が、沖田さんの事が好き——
少し前から鼻先がくすぐったくて仕方ない。けれど、それすらも心地良いと思えた。ゆっくりと、まぶたを開ける。
「おはよう」
一瞬何が起きたのか分からなかった。
「よく眠れた?」
そう聞いたのは、沖田さんだ。
「まだ熱っぽい?」
この状況に、寝起きの頭ではついていけなかった。
目の前に沖田さんの顔がある。と言うか、ほとんど顔がくっつきそうな距離だ。そしてこの感覚は、抱きしめられている。
「お、おはようございます」
「そんなに僕の腕は寝心地良かったの?」
「あ、いえ、すみません……」
眠れないと思っていたのに、実際はすぐに眠ってしまっていたらしい。
「あ、あの、いつからそこにいるんですか?」
「いつからって、昨日からずっとだよ」
「ええ?」
「君が眠ったら自分の布団に移動しようと思ってたんだけど、僕の手を握って眠っちゃったから、 なんだか離しずらくてさ、そしたらいつの間にか僕も一緒に寝てたみたい」




