変化
夕食に限らずだけれど、「ごちそうさま」と隊士の方に声をかけられる事が、最初の頃は気恥ずかしくてせっかくの気持ちを笑ってごまかしてしまっていた。けれど今は、あの日斉藤さんに言われた「素直に受け止めろ」を実践できている。
いつものように食事の後片付けをしていると、普段あまり話をした事のない隊士の方に声をかけられた。
「ご苦労様です」
言いながら、こちらに来るなり私の隣にすっとしゃかんだ。
「どうかされたんですか?」
手を止めその人に顔を向ける。けれど、何かが喉に引っかかったみたいに、その人の名前がすんなりと出てこない。思い出すのは諦め、話に耳を傾ける。
「いえ。ただ、あなたが来てからの食事が本当に美味しくなったので、礼をと思って」
にこやかにそう言った顔を、失礼のない程度にまじまじと見つめるけれど、どうしても名前が出てこなかった。
「私、お礼を言われるほどの事なんてしてないですから」
首を横に振って答えるけれど、その人は、重ねて私を誉めるような事を言うものだから、返って申し訳なく思ってしまった。
台所の後片付けを終えたあとも、しばらくその人と話を続けていた。もっと堅物な方なのかと思っていたけれど、実際はとても気さくな方で、自然と肩の力が抜けた。
考えてみると、隊士の方と今回のように向き合って話をする機会は今まであまりなかったような気がする。こうして話してみて思ったけれど、たぶん、他の隊士の方たちも、私が勝手に想像しているような怖い感じではないのかもしれない。
その隊士の方と別れてから、部屋に戻るついでにと、沖田さんのために温かいお茶を煎れた。
「沖田さん、くれはです」
言ってから襖を開くと、寝間着姿の沖田さんが文机に向かっていた。
「あの、良かったらお茶を煎れたのでどうぞ」
お盆を畳の上に置き、後ろから文机の端に差し出した。
「ありがとう」
横目で私にそう言うと、そっと湯飲みに手を伸ばした。
「ねぇ——」
背中越しに続けると、持ち上げた湯飲みを置き直し、ゆっくりと半身振り向いた。
「今日は何してたの?」
口調はいつもの沖田さんだけれど、その横顔にはどこか違和感を覚えた。
「出かけてなかった?」
私が答えるより先に重ねて聞いてきた。
「はい。出かけてました」
なんとなく、言葉に詰まってしまった。
「どこ行ってたの?」
聞くなり口角を上げるけれど、それが笑顔とは思えなかった。
先程呼び止められた時の違和感は、きっとこれだったのかもしれない。
「えっと、四条河原町の方です」
「まさか、一人でなんて事ないよね?」
「いえ、違います」
首を横に振りながら答えた。
「じゃあ、誰と行ってたの?」
「斉藤さんと、です」
「そう……」
威圧感にも似た何かを感じる。沖田さんの顔から、すっと表情が消えた気がした。
沖田さんからすれば普通に会話をしているだけなのだろうけれど、どこか、奥歯にものの挟まったような言い方に聞こえる。一層の事、話題を変えようかと考えたけれど、こう言う時に限って適当なそれが浮かんでこない。
先程と変わらない横顔を、伺い盗み見る。
「……沖田さん、あの、何か怒ってますか?」
言葉通り、恐る恐る聞いた。
「どうして僕が?」
「ど、どうしてって、なんとなく、そう言うふうに見えた気がしたので……」
「斉藤さんと何しに行ってたの?」
「ああ、えっと。 買い物と、修理に出していた斉藤さんの刀を受け取りに」
答えると、鼻を鳴らすような相づちを打った。瞬間、やっぱり怒っているのだと思った。けれど、同じ事を聞くのも気が引け、開きかけた口をすっと閉じた。
湯飲みに手を伸ばし、それを口に運ぶのかと思いきや、そのままの格好で湯飲みの中に目を落としている。
「斉藤さんの事、好きなの?」
予想外の質問に驚き、一瞬遅れて理解した。
簡単なその質問に、好きか嫌いで答えるのならもちろん好きになるのだけれど、聞かれている意味合いが微妙に違う気がした。
どう答えればいいのか考えていると、持っていた湯飲みをお盆に戻した。
「黙ってるって事は、そうだって認めるって事なの?」
なんとなく、顔を見れないでいた。
「あの、斉藤さんはとても親切な方で、その、好きは好きですけど、斉藤さんだけを特別好きと言う意味のそれではなくて……」
伝わっているのか不安になり、ゆっくり顔を上げると、沖田さんが短く息を吐いた。態度があからさますぎて途端に緊張感が増す。
「……で、でも、どうして急にそんな事聞くんですか?」
「今日、二人が一緒に歩いてるところを見たから」
「えっ、ああ。あの、さっきも言いましたけど、ただ一緒に出かけていただけですよ」
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