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五月晴れ、恋2





 五月とは言え、汗ばむほどの陽気だった。

 ほとんど小走りで斉藤さんのあとを付いて行っているものだから、背中を汗が伝うのが分かる。それを立ち止まって拭き取る事もできず、ただひたすらに前に進んで行く。

 四条通りをどんどん東に行くにつれ、次第に人の流れも増えてきた。遠くに八坂神社が見えた頃、前を歩く斉藤さんが屯所を出てから初めてこちらに振り向いた。


「もうすぐ着く」


 簡潔にそう言うと、私が返事をするよりも先に再び前を向いた。

 斉藤さんの歩く速度は、屯所を出た時と全く変わらない。この陽気をものともせず、ただ真っ直ぐに目的に向かって乱れる事がないのは、彼の性格そのままなのかもしれない。さすが斉藤一、と思わず言いそうになる。

 四条大橋を渡る手前で左に折れるとすぐ、彼が立ち止まった。


「この辺りなら、気に入る手ぬぐいが見つかるはすだろう」


 言われて辺りを見回すと、確かにそう言った小物やなんかの店が並んでいる。


「それじゃあ、あそこのお店に入ってもいいですか?」


 一番近くにあった手ぬぐい屋を指差した。

 その店の軒先には、色んな柄の手ぬぐいが並べられていた。それらを目にした途端、歩き疲れていた事など忘れてしまった。

 軒先に並んでいる物の中から、早々に柄の違う手ぬぐいを両手に取り、斉藤さんに向けて見せる。


「斉藤さん、どっちがいいですか?」


 顔の横に上げた両手を交互に動かすと、彼は唸るようにして悩んでいる。


「あの、そんなに深く考えなくても、斉藤さんならどちらにしますか?」


 真剣に選んでくれている彼に、苦笑いにならないように言った。


「俺なら、こちらかな」


 そう言うけれど、決まり兼ねていると言ったような感じだった。


「確かに、素敵ですよね」


 手にしていた両方をもう一度交互に見比べてから元に戻し、他の物にも目を移す。

 店の中には、無地の物もあれば、単色で絵が描かれている物や、鮮やかな色で描かれている物まで多様にあり、正直種類の多さに悩んでしまう。それでも、見ているだけで十分に楽しいのは、買い物自体が久しぶりすぎたからだろう。

 あれでもないこれでもないと、店の商品全てを見比べたのではと思うほどに、店内を右往左往していた。

 始めこそ、斉藤さんに伺いながらのプレゼント選びも、次第に一人で夢中になっていた。だから、彼が店内の隅で待ってくれている事に、全く気が付かなかった。

 どれくらい時間が経ったのか、結局は、一番最初に手にした手ぬぐいを選んだ。それからすぐ、思い出したように斉藤さんの姿を探した。

 入口近くの壁にもたれ、腕を組んで外を見ている。


「すみません! つい、夢中になってしまって……」


 申し訳ない顔を向けると、表情を変える事なく首を横に振った。


「気に入った物は見つかったのか?」

「はい。斉藤さんもいいと言ってくれた、これに決めました」


 手に持っているそれを差し出して見せると、「そうか」と言って、わずかに目を細めた。

 紫色よりも薄く、藤色のような柔らかな色に染められたそれは、淡い白色の菖蒲の花が大きく一輪描かれている。すぐに会計を済ませ、斉藤さんのあとに続いて店を出た。


 「あの、待たせてしまってすみませんでした」


 そう言って頭を下げた。


「いや、気にする事はない。妥協をするよりはいいだろう」

「ありがとうございます。そう言って頂けると、助かります」


 気が付けば、斉藤さんの後ろではなく、彼の隣を歩いていた。


「あの、斉藤さんの用事は、この近くなんですか?」

「ああ、ここから歩いてすぐの所だ」


 隣に並んだせいなのか、その場所までの距離が近いからなのか、斉藤さんの歩く速度がずっとゆっくりになった気がした。そして、二、三分も歩かないうちに目的の場所に到着した。


「ここだ」


 言われて外観を見るけれど、一見何屋なのか分からない。のれんをくぐって中に入ると、細長い長方形の木箱が壁側に積まれている。それから、専用の台のような物には、刀が並べられていた。


「刀屋さん、ですか?」


 店内をぐるりと見回しながら、斉藤さんに問いかけた。


「ああ」


 短い返事のあと、彼はすぐに店主と話始めた。

 手持ちぶさたになった私は、とりあえず店内を見回した。

 現代では博物館などでしか目にする事のない刀が、普通に売られている現実に一気に興味が沸いた。ガラスケースの中に展示されているのではなく、手を伸ばせば触れられる距離にあり、あまりにも無防備だと思ってしまう。緊張しながらも、なかなか見る事のできない本(・)物(・)を間近で見させて頂く。

 鞘に収められている物もあれば、刃だけの物もあり、それは鏡のように私を写している。

 始めこそただの興味に過ぎなかったけれど、次第に怖いと言う感覚が現れ、さらにはそれが勝っていく。改めて考えなくてもそうなのだけれど、目の前の刀には様々な用途があり、当たり前に人を切るためのものでもある。

 先行する恐怖を抑え、どうにか頭を切り替える。この時代の常識や情勢など、私なりに理解をしているつもりでいたけれど、未だ、斉藤さんたちが刀を使っているところを見た事がない——

 そんな事を考えていると、用事が済んだ斉藤さんに声をかけられた。


「帰るぞ」


 はっとなり、振り返り返事をする。





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