↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/58

過去へ11





 抜けるような青空。広い空の下、建物の低さが際立って見える。町を包み込むような青を見ていると、まるで空の中にいるみたいだった。手を伸ばし、掴めないと分かっている空を掴んだ気でいると、体ごと吸い込まれそうな感覚になる。


「何してるの?」


 後ろから声をかけられ、首だけで振り返った。


「あ、沖田さん。空があまりにも綺麗だったので、つい見とれていました」


 洗濯物を入れていた桶を抱えたまま、素直にそう答えた。すると、私の隣へ来て、視線を空へと向けた。


「確かに、こんな日は縁側に寝転んで日向ぼっこでもしたいよね」


 頬を緩め、腕を組み直した。


「沖田さん、今日の巡察は夜からでしたっけ?」

「ん、そうだけど」

「それじゃあ、日向ぼっこ、連れてって下さい」


 そう言うと、少し驚いた顔をした。


「あ、いえ、すみません。思い付きで口から出た事ですから、気にしないで下さい」


 出すぎた事を言ったと思い、頭を下げて早口に撤回する。


「いいよ」

「え——」

「行きたいんでしょ」

「いいんですか?」


 予想外の返事に声が上擦ってしまった。


「何そんなに驚いた顔してるの?」


 腕は組んだまま、顔を傾げて正面から覗きこまれるから、途端に鼓動が早くなる。


「いや、だって……」

「たまにはさ、のんびり日向ぼっこをするのも悪くないよね」

「じゃ、じゃあ私、これ片付けてきますね」


 抱えた桶を軽く持ち上げて見せた。


「それじゃあ先に外で待ってるから」

「分かりました」


 小走りに裏庭へ向かい、桶を元の場所に戻してから一旦沖田さんの部屋に戻る。

 たすき掛けしていた紐を外し、それらしく着物を整えた。

 緊張しつつも、それ以上に楽しみで仕方ない。


「お待たせしました」


 沖田さんの後ろ姿にそっと声をかけた。


「それじゃあ行こうか」

「はい」


 彼のあとに続いて屯所の門を出る。そのまま、一歩後ろを付いて歩いた。

 坊城通りを抜け、四条通りを東に曲がった。


「ねぇ」


 呼ばれて顔を上げる。


「もう少し歩くけど、いいかな?」

「はい、私なら大丈夫ですよ。今から行く場所にはよく行かれんるですか?」

「ん、たまにね」

「そうなんですね。楽しみです」


 言いながら体を揺らすと、沖田さんがふっと笑った。

 屯所から数十分は歩いただろうか、人通りが増え、暖簾がかかった店が軒を連ねている。少し先に、橋が架かっているのが見えてきた。


「もうすぐだよ」


 沖田さんの声に笑顔で返す。

 四条大橋のたもとから河原に下り、木陰を広げた木の下に並んで腰を下ろした。

 太陽は、ほとんど真上にある。


「気持ちいいですね」


 足を伸ばし、遠くを眺める。


「君に感謝しなきゃね」

「え?」

「たまにはさ、こんなふうにのんびり過ごすのも悪くないよね」


 両手を後ろに着け、小さく笑った。


「そうですね」


 重なった葉の隙間から、太陽の光がキラキラと輝いている。そんな些細な事に、心が癒される。

 隣に目を向けると、沖田さんは先ほどと同じ格好のまま目を閉じている。その姿に、思わず見入ってしまった。着物を初めて着付けてくれた日にも思ったけれど、どうにも男前すぎる。

 私とほとんど歳が変わらないにも関わらず、落ち着きすぎているところなんかは妙に大人に見えるのに、近所の子供たちと遊んでいる時の姿はまるで子供そのものだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。