過去へ11
抜けるような青空。広い空の下、建物の低さが際立って見える。町を包み込むような青を見ていると、まるで空の中にいるみたいだった。手を伸ばし、掴めないと分かっている空を掴んだ気でいると、体ごと吸い込まれそうな感覚になる。
「何してるの?」
後ろから声をかけられ、首だけで振り返った。
「あ、沖田さん。空があまりにも綺麗だったので、つい見とれていました」
洗濯物を入れていた桶を抱えたまま、素直にそう答えた。すると、私の隣へ来て、視線を空へと向けた。
「確かに、こんな日は縁側に寝転んで日向ぼっこでもしたいよね」
頬を緩め、腕を組み直した。
「沖田さん、今日の巡察は夜からでしたっけ?」
「ん、そうだけど」
「それじゃあ、日向ぼっこ、連れてって下さい」
そう言うと、少し驚いた顔をした。
「あ、いえ、すみません。思い付きで口から出た事ですから、気にしないで下さい」
出すぎた事を言ったと思い、頭を下げて早口に撤回する。
「いいよ」
「え——」
「行きたいんでしょ」
「いいんですか?」
予想外の返事に声が上擦ってしまった。
「何そんなに驚いた顔してるの?」
腕は組んだまま、顔を傾げて正面から覗きこまれるから、途端に鼓動が早くなる。
「いや、だって……」
「たまにはさ、のんびり日向ぼっこをするのも悪くないよね」
「じゃ、じゃあ私、これ片付けてきますね」
抱えた桶を軽く持ち上げて見せた。
「それじゃあ先に外で待ってるから」
「分かりました」
小走りに裏庭へ向かい、桶を元の場所に戻してから一旦沖田さんの部屋に戻る。
たすき掛けしていた紐を外し、それらしく着物を整えた。
緊張しつつも、それ以上に楽しみで仕方ない。
「お待たせしました」
沖田さんの後ろ姿にそっと声をかけた。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
彼のあとに続いて屯所の門を出る。そのまま、一歩後ろを付いて歩いた。
坊城通りを抜け、四条通りを東に曲がった。
「ねぇ」
呼ばれて顔を上げる。
「もう少し歩くけど、いいかな?」
「はい、私なら大丈夫ですよ。今から行く場所にはよく行かれんるですか?」
「ん、たまにね」
「そうなんですね。楽しみです」
言いながら体を揺らすと、沖田さんがふっと笑った。
屯所から数十分は歩いただろうか、人通りが増え、暖簾がかかった店が軒を連ねている。少し先に、橋が架かっているのが見えてきた。
「もうすぐだよ」
沖田さんの声に笑顔で返す。
四条大橋のたもとから河原に下り、木陰を広げた木の下に並んで腰を下ろした。
太陽は、ほとんど真上にある。
「気持ちいいですね」
足を伸ばし、遠くを眺める。
「君に感謝しなきゃね」
「え?」
「たまにはさ、こんなふうにのんびり過ごすのも悪くないよね」
両手を後ろに着け、小さく笑った。
「そうですね」
重なった葉の隙間から、太陽の光がキラキラと輝いている。そんな些細な事に、心が癒される。
隣に目を向けると、沖田さんは先ほどと同じ格好のまま目を閉じている。その姿に、思わず見入ってしまった。着物を初めて着付けてくれた日にも思ったけれど、どうにも男前すぎる。
私とほとんど歳が変わらないにも関わらず、落ち着きすぎているところなんかは妙に大人に見えるのに、近所の子供たちと遊んでいる時の姿はまるで子供そのものだ。




