第86話:寄せ集めの円卓と、切り開かれる道
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!
アッシュの右腕から放たれた、純白と黄金が入り混じった異形の衝撃波。
それが王城の庭園を駆け抜けた瞬間、空気を重く支配していたタールのような悪臭が、一瞬にして焼却された。
『ガ……ァァァァッ!?』
狂信者たちが、苦悶の声を上げて次々と膝をつく。
痛覚を麻痺させ、切断された肉体すら強引に動かしていた大魔女の呪いが、強引な浄化の光に焼かれて急速にその効力を失い始めていたのだ。
「今よ! 奴らの再生が追いついていない! 一気に押し込みなさい!」
エレンが、銀糸のように細く鋭い声を戦場に響かせた。
「言われるまでもないわ!」
ベリンダが、漆黒の大盾を構えたまま猛然と突進する。
呪いの補助を失い、ただの人間へと戻りつつある教団兵たちの群れを、彼女は鋼鉄の質量だけで次々と跳ね飛ばし、前線に巨大な風穴を空けていく。
「遅いッ! 兄様の名を背負う者に、その程度の刃は届きません!」
ガレスの白銀の双剣が、ベリンダの空けた穴を縫うように瞬く。
円卓随一の神速。流れるような踏み込みと刃の軌跡は、狂信者たちが武器を振り上げるよりも早く、その喉元を正確に切り裂いていた。
だが、ただの教団兵たちの足が止まっても、根源たる二体の異形は健在だった。
『……不浄なる光。我らが神の火で、焼き尽くしてあげる!』
異形化したパーシヴァルが、無邪気な笑声を上げながら両手を空へと掲げる。
浄化の光に抵抗するように、彼の小さな体から、先ほどランスロットを圧倒したのと同じ、極大の漆黒の光条が収束し始めていた。
「させるかよ、クソガキがァ!!」
上空から、落雷のような咆哮が響いた。
モルドレッドだ。彼は周囲の城壁を蹴り上げて跳躍し、身の丈ほどもある大剣に赤黒い血雷を限界まで纏わせ、パーシヴァルの頭上へと急降下する。
『邪魔だよ、野良犬!』
パーシヴァルが収束しかけていた光条の矛先を、反射的に上空のモルドレッドへと向けた。
ズドォォォォォォンッ!!
漆黒の光条と、モルドレッドの血雷が空中で真っ向から激突する。
空気が悲鳴を上げ、凄まじい余波が王城の石畳を粉砕していく。
「ガハッ……! テメェ、一丁前に……重てェ魔力してやがる……!!」
モルドレッドの両腕の筋肉が、限界を超えてミシミシと膨張し、毛細血管から血が噴き出す。だが、狂犬の瞳は歓喜に燃え上がっていた。
「だがなァ! 俺の獲物を横取りするような真似は、絶対に許さねえんだよォォッ!!」
モルドレッドは己の生命力すらも雷に変換し、空中でパーシヴァルの光条を力任せに押しのけ、そのまま大剣を叩きつけて強引に軌道を逸らした。
黒い光条は王城の尖塔を吹き飛ばしたが、アッシュたちのいる直線上からは完全に逸れた。
「――道は空けたわよ、アッシュ!」
エレンの鋭い叫び声。
前衛の狂信者たちはベリンダとガレスが散らし、後方からのパーシヴァルの砲撃はモルドレッドが空へと逸らした。
戦場のド真ん中に、アッシュと、ガラハッドとを繋ぐ一本の道が、仲間たちの奮闘によって見事に切り開かれたのだ。
『……偽りの太陽。貴様だけは、この場で確実に排除する』
ガラハッドの虚無の赤い瞳が、真っ直ぐにアッシュを捉えた。
アッシュの放つ黄金の浄化光を最大の脅威と認識したガラハッドは、黒く染まった聖剣を正眼に構え、音もなく、しかし弾丸のような速度で一直線に突進してくる。
かつての絶対防御の全質量を、ただ一点の刺突に込めた、回避不能の必殺の一撃。
「……来やがれ、第十二位」
アッシュは、聖杯を右手の呪籠手に括り付けたまま、左手で名もなき大剣の柄を握り、重く腰を落とした。
右腕からは、聖杯の純白の光と、シリンダーの過回転による黄金の火の粉が、未だに噴き上がり続けている。
「神様気取りのその面、俺のボイラーで全部焼き剥がしてやるよ」
アッシュの口から、白く熱い呼気が漏れる。
本物の光を失い、呪いに堕ちた円卓の騎士。
偽物の名を背負い、油と血に塗れながら這い上がってきたただの青年。
両者の距離がゼロになり、黒い聖剣と赤熱する大剣が正面から激突するまで、残りわずか数秒。
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