第57話:白亜の狂信と、見下ろす純真
時計塔の頂上で、絶対防御の要であった第十二位ガラハッドの光が消滅した。
「……あーあ。ガラハッド、負けちゃったんだ」
広場の上空。
モルドレッドと空中で激しく刃を交えていた第三位パーシヴァルは、その無邪気な動きをピタリと止めた。
彼に悲しむ様子や、焦る様子は一切ない。ただ、オモチャが壊れたのを見るような、ひどく平坦で『光の一切宿っていない虚無の瞳』で、時計塔を見下ろしていた。
「よそ見してんじゃねえぞ、ガキィッ!!」
モルドレッドのギザギザの大剣が、容赦なくパーシヴァルの首元へ叩き込まれる。
だが、パーシヴァルは振り向きもせず、指先一つで展開した光の盾でそれを弾き返し、まるで無重力のようにふわりと後退した。
ガァァァァァァァァンッ!!
空中で弾かれたモルドレッドが、体勢を立て直して舌打ちをする。
「ガラハッドが負けたってことは、ここにはもう『汚れ』しか残ってないね。偽物の太陽も、煤に塗れた君たちも、あそこで逃げ惑ってる汚い民衆も」
「あァ? 何言ってんだテメェ。……頭イカれてんのか」
「神様が言ってたんだ。『汚れを放置する者は、世界への反逆者だ』って」
パーシヴァルが、両手を天に向かって大きく広げる。
瞬間、王都の青空が、『異常な純白の光』によって覆い尽くされた。
広場全体を丸ごと飲み込むほどの、超極大の神聖魔術のチャージ。円卓第三位が持つ、無尽蔵の魔力リソースが上空で渦を巻く。
「だから、君たちも、この街も、教団の兵士たちも……僕が全部、綺麗に燃やしてあげる!」
「(……狂ってやがる! 味方ごと広場を消し飛ばす気か!)」
地上でキメラの触手を大盾で防ぎ続けていたベリンダが、上空の異常な魔力溜まりを見て顔面を蒼白にさせる。
恐怖に逃げ惑う民衆たち。このままでは、アッシュたちが時計塔から降りてくる前に、何万人という命が灰と化す。
「……ギャハハハッ! そりゃいい。最高の花火になりそうだぜェ」
絶望的な光の奔流を前に。
上空のモルドレッドは、逃げるどころか、腹を抱えて狂ったように笑い声を上げた。
彼の瞳孔が、爬虫類のように縦に割れる。
「けどな、クソガキ。……テメェのその『神様だかに言われたから燃やします』って空っぽな目、見てて反吐が出るんだよ」
モルドレッドが空を蹴る。
重力を無視したような跳躍から、パーシヴァルの魔力溜まりを直接叩き斬ろうと、ギザギザの大剣を上段から振り下ろした。
「邪魔だよ、お兄さん」
パーシヴァルが笑いながら指を振る。
ただそれだけで、チャージされていた光の一部が『無数の槍』となって、モルドレッドに向かって雨あられと降り注いだ。
ズガガガガガガガガッ!!!
「ガ、ァァァッ!?」
空中で回避のしようがない。モルドレッドの装甲が砕け、全身から血飛沫が舞う。
純粋な実力では、パーシヴァルの方が圧倒的に上だ。
「アハハッ! 汚い血だね! ほら、もっと綺麗に……」
「……舐め、てんじゃねェぞォッ!!」
血まみれのモルドレッドが、空中で姿勢を捻り、自らの血を代償にして強引に踏み止まる。
アグラヴェインとの血みどろの特訓。
アッシュやエレンたちと歩調を合わせ、無意識のうちに自分を押さえ込んでいた『エゴ』のストッパー。
(……そうだ。俺は誰かを護るためじゃなく、ただテメェのそのすましたツラを、真っ二つにカチ割りたいだけなんだよ!!)
本能のままに。
モルドレッドは、己の内側から湧き上がる衝動を、一切のブレーキなしに大剣へと流し込んだ。
「教えてやるよ。本当に周りを巻き込む『狂気』ってのはな……てめぇ自身のハラワタから湧き上がってくるもんなんだよォォッ!!」
ドバァァァァァァァァッ!!
モルドレッドの全身から、空を焦がす純白の光を喰い破るように、禍々しい『赤黒い血雷』が爆発的に噴き出した。
それは、与えられた教義ではなく、己の執念と飢餓感だけで練り上げられた、純度百パーセントの闘争心。
血に飢えた狂犬の咆哮が、王都の青空を真っ二つに切り裂き、純白の絶望へと牙を剥く。
第57話、お読みいただきありがとうございます。
少しでも『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、ぜひページ下部よりブックマークや星での評価をよろしくお願いいたします! 執筆の大きな励みになります。




