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第56話:極限の溶断と、銀の死角

「オラァァァァァァァァッ!!」


 石造りの床を爆発的に蹴り飛ばし、アッシュが踏み込んだ。

 ガラハッドが光の槍を一斉に放つが、アッシュは回避すらしない。

 限界まで内部で圧縮された熱量が『大剣の刃の一点』に全て流し込まれ、極厚の黒鉄の刃が一瞬にしてドロドロの『絶対的な赤熱状態(ヒート・エッジ)』へと変貌している。


 ジュウウウゥゥゥッ!!


 迫り来る無数の光の槍が、赤熱した大剣に触れた瞬間に「蒸発」し、掻き消えていく。

 これぞ、極限の圧縮だからこそ到達できた執念の『真の溶断』。


「なッ……私の光の槍が、相殺されている!?」

 ガラハッドが初めて驚愕の声を上げた。


 アッシュはそのままの勢いで、ガラハッドの展開する絶対防御『聖杯の洗礼』へと、渾身の斬撃を叩き込んだ。


 ズガァァァァァァァァンッ!!!!


 絶対防御の光と、極限の赤熱刃が激突した。


「(……熱が、拡散していない!? 全ての力が刃の一点に収束し、私の光を喰い破ろうとしている……!)」

 ガラハッドの額に、冷たい汗が伝う。

 あの見すぼらしい偽物が、たった数日で『本物の領域(円卓の刃)』にまで手を伸ばしてきたというのか。


「ガァァァァァァァッ!!」


 アッシュの目、鼻、口から一斉に血が噴き出す。

 己の命を燃やす極限の圧力。限界を超えた右腕の純結晶装甲が、メキメキと悲鳴を上げる。

 本来ならとうに呪いが進行し、皮膚が炭化して右腕ごと消し飛んでいてもおかしくない破滅的な負荷。


 だが、アッシュの腕は崩れ落ちなかった。

 シリンダーの内側に宿る『目に見えない、暖かな何かの加護』が、アッシュの人間性を奪う炭化の侵食を、ギリギリで食い止めていたのだ。

 アッシュ自身はそれに気づかず、ただ『ガラムのジジイが打ち込んだ装甲、まだまだ持ち堪えやがる!』と全幅の信頼を寄せながら、純粋な高熱の激痛に耐え、血の混じった咆哮を上げてさらに剣を押し込む。


「……思い上がるな。不格好な紛い物が、神の光を喰い破れるとでも!!」


 ガラハッドが、ロザリオを強く握りしめた。

 円卓の騎士としてのプライド。彼は自身の持つ膨大な神聖魔力(リソース)の全てを注ぎ込み、ヒビの入りかけた光の障壁を、さらに分厚く、強固なものへと『再構築(上書き)』しようとした。


「地に這いつくばりなさい!! 『聖杯の――』」


 ガラハッドの意識と光の全てが、正面で命を燃やすアッシュの巨大な熱量に集中した。

 完全に、正面の『極限の溶断』を防ぎ切るためだけに。


 ――それが、エレンとケイが見抜いた『致命的な罠』だった。


「(……今っ!!)」


 アッシュの巨大な背中と、爆発的な閃光の陰。

 開戦時から完全に自らの気配を殺し、アッシュの死角に潜み続けていたエレンが、音もなく動いた。

 ガラハッドが、アッシュの重撃を防ぐために障壁を最高出力で『再構築』しようとした、まさにその瞬間。


 『光の変換効率が落ちる、わずか0.2秒の致命的な(ラグ)』。


 シュアンッ!!


 極限まで細い氷のような線画を思わせる、一筋の銀の閃光。

 それは、正面の熱量に気を取られていたガラハッドの完全な死角から、再構築の合間の『最も障壁が薄くなった一点』を、針の穴を通すような精度で射抜いた。


「――なッ!?」


 ガラハッドが気づいた時には、遅かった。

 エレンの白銀のレイピアが、薄皮一枚の光を貫通し、ガラハッドの握りしめていた『白銀のロザリオ(魔法の触媒)』を、正確無比に串刺しにして粉砕したのだ。


 パァァァンッ!!

 ガラスが砕け散るような音と共に、触媒を失った『絶対防御の光』が完全に霧散する。


「バカな……! 私の、神聖なる光が……こんな偽物ごときに……!」

 ガラハッドが、砕けたロザリオを呆然と見つめる。


「……テメェの言う通り、俺の剣は油と煤まみれだ。だけどな」


 絶対防御を失い、完全に無防備となった第十二位の胸元へ。

 血まみれのアッシュが放つ『極限の赤熱刃』が、そのままの勢いで迫る。


「……俺たちの『牙』は、テメェらみたいな薄っぺらい綺麗事じゃ、絶対に折れねえんだよッ!!」


 ズバァァァァァァァァァッ!!!!


 アッシュの渾身の溶断が、ガラハッドの純白の修道服を斜めに切り裂き、その胸板に深く、凄惨な『反逆の爪痕』を刻み込んだ。

 大量の鮮血が、白亜の時計塔の頂上を赤く染める。


「ガ、アァァァァッ……!!」


 円卓第十二位、ガラハッド。

 完全無欠と思われた純白の聖杯は、血反吐を撒き散らしながら、時計塔の冷たい石の床へと無様に崩れ落ちた。


「……ハァ、ハァ……ッ」

 アッシュが、限界を迎えた大剣を床に突き立て、荒い息を吐きながら膝をつく。右腕の黒陽シリンダーからは極太の白煙が上がり、全身はボロボロだった。

 その隣に、エレンが静かに降り立ち、血に濡れたレイピアを振り払う。


 圧倒的な絶望(本物)を前に、知略と覚悟で掴み取った不格好な勝利。

 時計塔の頂上には、倒れ伏した純白の騎士を見下ろす、満身創痍の『偽物の太陽』と『銀の従騎士』が静かに立っていた。

聖杯の騎士ガラハッド。彼の防御は強力で、誰にも破られないものだと信じられてきた。

だが、そんなことは決してない。円卓の騎士であれば全員、破ることができる。

故に彼は円卓の騎士の最下位である第十二位なのだ。

彼の防御を突破できれば、彼を撃破できれば、それは円卓の騎士の領域に足を踏み入れたことを意味する。


第56話、お読みいただきありがとうございます。

少しでも『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、ぜひページ下部よりブックマークや星での評価をよろしくお願いいたします! 執筆の大きな励みになります。

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