第50話:白亜の円卓と、導きの光
王都キャメロット、円卓の間。
分厚い黒鉄の巨大な円卓を囲むように、人類最高峰の武力と権力を有する騎士たちが顔を揃えていた。
「……以上が、暗部の調査報告だ。第十二位ガラハッドは、聖法国神聖教団と内通し、地下水路にて魔王軍の『死の心臓』を培養している。これは明らかなる大逆罪である」
冷徹な眼鏡の奥の瞳を光らせ、アグラヴェインが告発の書類を円卓に叩きつけた。
だが、告発された張本人である純白の修道服の男――ガラハッドは、穏やかに微笑んだ。
「心外ですね。あれは魔族の穢れた残骸を、神聖なる光で『浄化』する儀式の最中だったのです。……むしろ、あなたの手駒である『偽物のガウェイン』たちこそ、突如として地下に押し入り、神聖な儀式を妨害してきたではありませんか」
「えーっ! 僕はガラハッドの言うこと、信じるなぁ!」
緊迫した空気をぶち壊すように、無邪気で甲高い少年の声が響いた。
円卓の第3位。純真の騎士、パーシヴァル。
可愛らしい少年の姿をした彼は、円卓の上に足を乗せてケラケラと笑いながら、しかし『光の一切宿っていない虚無の瞳』でアグラヴェインを見つめた。
「だってさぁ、悪いのは、太陽のふりをして王都を汚してる『不潔な偽物』の方でしょ? ……ねえ、僕が燃やしてあげようか? あのゴミごと、地下の連中もまとめてさ。そうすれば綺麗になるよ!」
純粋な笑顔で、街一つを焼き払うような狂気。
教団の教義に極端に傾倒している第3位の介入により、盤面は完全にアグラヴェインの不利へと傾いた。
「……静かにしろ、パーシヴァル。そしてガラハッド」
その狂気を、ただ一言でねじ伏せたのは、円卓の最上座。
汚れ一つない完璧な白銀の鎧を纏った男、第1位ランスロットだった。彼が口を開いただけで、白飛びするほどの圧倒的な極光が空間を支配する。
「証拠なき身内争いは、王の御前では控えよ。だが……ガウェインが騒ぎを起こしているのは事実。彼らには謹慎を命じる。これ以上王都の底で騒ぐようなら、私が斬る」
ランスロットは静観の構えを崩さず、会議は「アッシュたちの行動制限」という最悪の形で閉会となった。
***
時を同じくして。
王都の郊外に停泊する移動要塞『ガウェインの鉄靴』。
その最下層にある薄暗いボイラー室で、アッシュは全身に包帯を巻いた姿で、狂鍛冶師ガラムの前に頭を下げていた。
「……頼む、ガラムのジジイ。俺の右腕、もう一段階『上』に引き上げてくれ」
「馬鹿を言え。今のVer.2でも、これ以上圧力をかけりゃ自爆するんだぞ」
「……本物だ。俺の全力の火の粉が、指一本で止められた。このままじゃ、俺たちはあの『純白のバケモノ』に殺される」
旧大陸で魔将を倒した慢心は、完全にへし折られた。アッシュの瞳には、かつてないほど濃い『殺意と執念』が燃え滾っていた。
「右腕がぶっ壊れてもいい。あの『光の壁』を真正面からぶち破れる、理不尽な火力を俺にくれ」
その焦げ臭い執念に、ガラムがフンと鼻を鳴らし、工具を手に取ろうとした――その瞬間だった。
「――その無骨な鉄屑に、これ以上何を足すというのだ、偽物」
静かで、しかし絶対的な威圧感を伴う声が、ボイラー室に響いた。
アッシュが弾かれたように振り向く。
そこに立っていたのは、煤と油に塗れたこの要塞に最も不似合いな、汚れ一つない白銀の鎧。円卓第一位、ランスロットだった。
「テメェ……なんでここに……!」
アッシュが名もなき大剣の柄に手をかける。
「アグラヴェイン卿から『監視』を受けた。……貴様が、本物のガウェインの剣を、ただのボイラーの圧力で振るおうとしている愚か者だからだ」
ランスロットの冷徹な眼差しが、アッシュの全身を射抜く。
「誰よりも太陽の背中を知る私が、その見苦しい剣の振り方を矯正してやる。……かかってこい、偽物」
***
一方、要塞の甲板。
モルドレッドは不機嫌そうに酒瓶をあおり、ベリンダは漆黒の大盾を何度も何度も甲板に叩きつけていた。
ガラハッドの圧倒的な光の前に、何もできなかった自分たちへの怒り。
「……随分と鈍ったものだな、狂犬」
影から音もなく現れたのは、冷徹な眼鏡を光らせたアグラヴェインと、銀の義手を持つガヘリスだった。
「あン? 嫌味を言いに来たなら、その首叩き斬るぞメガネ」
「事実を言ったまでだ。……貴様、持たざる者たちと歩調を合わせるうちに、無意識に力にリミッターをかけている。円卓の第十一位が、第十二位の光の壁ごときに弾き飛ばされるなど、本来あり得ないことだ」
アグラヴェインの言葉に、モルドレッドの目が爬虫類のように細められた。
アグラヴェインは、自身の背後に無数の魔法陣を展開する。
「私が、貴様に『本来の狂気の剥き方』を思い出させてやる」
その横で、ガヘリスがベリンダの前に静かに歩み出た。
「……ガヘリス様」
「ベリンダ。君の盾は、ただ重いだけの鉄板になっている。……かつてボールス卿が、私のような未熟者にどれほど気を配ってくれていたか。その恩返しに、少しだけ稽古をつけよう」
ガヘリスが、ベリンダの漆黒の大盾に手を触れる。
「君の父が、その剛腕と盾で、何をどう守っていたのか。……一番近くで見ていた私が、君に全て伝授する」
***
そして、王都の中央大図書館の禁書区画。
エレンは一人、山のような魔術の古文書の中に埋もれていた。
「(……アッシュの火力が足りないわけじゃない。ガラハッドの『聖杯の洗礼』の絶対防御、必ずどこかに『変換のラグ』があるはず……!)」
彼女は美しい顔に煤とホコリをつけながら、血走った目でページをめくり続けていた。
「私はもう、彼の背中に隠れるだけの従騎士じゃない。……必ず弱点を見つけ出してみせるわ」
静寂に包まれたそれぞれの場所で。
円卓会議で政治的敗北を味わい、圧倒的な力にひれ伏した者たちは。それでも誰一人として諦めることなく、冷たい壁に爪を立てるようにして、反逆の糸口を手繰り寄せていた。
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