↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/123

第42話:凱旋の白亜と、鉄を継ぐ花

 五年ぶりに、旧大陸の暗雲が晴れた。

 その歴史的な偉業を成し遂げた英雄の帰還に、王都キャメロットはかつてない熱狂と歓声に包まれていた。


 白亜の巨大な正門をくぐり、大通りをゆっくりと進む移動要塞『ガウェインの鉄靴』。

 ボロボロに傷つき、装甲の大半が溶け落ちたその無骨な鉄塊に向かって、数万の民衆が「太陽の騎士万歳!」「ガウェイン様!」と花吹雪を降らせている。


 だが、要塞の甲板に立つ彼らの表情は、歓声とは裏腹にひどく冷え切っていた。


「……反吐が出そうね」


 エレンが、降り注ぐ花びらを忌々しそうに白銀のレイピアの鞘で払い落とした。

 彼女の視線の先には、民衆と共に笑顔で英雄を出迎える、王都の高官や貴族たちの姿がある。


 あの満面の笑みの裏で、王都は自分たちを使い捨ての『囮(ルアー)』として死の心臓へ送り込み、挙句の果てには暗殺部隊を差し向けて闇に葬ろうとしたのだ。

 王の神聖な勅命すら盤面の一部として弄ぶ、この白亜の王都の腐敗。

 エレンの胸中には、かつて自分が信じていた『正義』に対する深い失望と、冷え切った怒りが渦巻いていた。


「おいおいエレン、そんな怖い顔すんなよ。せっかくのパレードだぜ?」

 上半身裸のアッシュが、新しくなった右腕『黒陽シリンダーVer.2』をボキボキと鳴らしながら、獰猛に笑う。


「……貴方(あなた)は呑気ね。アグラヴェイン卿は、必ず次の手を打ってくるわ。私たちを英雄として迎え入れるフリをして、どのタイミングで首を刎ねるか……」


「ギャハハハッ! 上等じゃねえか! メガネの野郎が仕掛けてきやがったら、この要塞ごとキャメロットの城に突っ込んで、あの綺麗なお城を泥まみれにしてやらァ!!」

 モルドレッドが酒瓶をあおりながら大笑いする。


 エレンがため息をつき、アッシュに何かを言いかけた、その時だった。


 「――そこを退けェッ!!」


 歓声に沸く大通りの群衆を掻き分けて、一つの『巨大な質量』が空高く跳躍した。

 太陽を背にして降ってきたのは、燃えるような赤い髪を束ねた少女。

 だが、その可憐な顔立ちとは裏腹に、彼女の細腕には、彼女自身の背丈よりも巨大な『漆黒の大盾』と、信じられないほど分厚い『鉄槌(ウォーハンマー)』が握られていた。


「(……上からの強襲!? 刺客か!)」

 エレンが反射的にレイピアを抜こうとする。

 だが、それよりも早く、アッシュが「面白え」と牙を剥き、黒陽の右腕で大剣を抜き放って上段に構えた。


「オラァァァァッ!!」


 ガギィィィィィィィィィンッ!!!!


 少女の振り下ろした巨大な鉄槌と、アッシュの大剣が、要塞の甲板の上で激突した。

 その凄まじい物理的衝撃に、分厚い鉄の甲板が円形にひしゃげ、火花が爆発的に散る。


「……ッ、重てえなオイ。ただのガキの腕力じゃねえぞ」

 アッシュが、黒陽の装甲を軋ませながらニヤリと笑う。

 並の騎士なら、一撃で骨ごとすり潰されているほどの圧倒的な質量だった。


「アハッ! なんだ、噂通りの『重くてやかましいボイラー』じゃない! 合格よ!!」


 少女は、巨大な鉄槌を片腕で受け止めたアッシュを見て、パァッと花が咲くような笑顔を浮かべた。

 そして、鉄槌を引き戻し、巨大な大盾をドンッ!と甲板に突き立てて、堂々と胸を張った。


「私の名前はベリンダ! かつて円卓の第四席を務めた、剛腕ボールスの娘よ!」


「ボールスの……!?」

 エレンが驚愕に目を見開く。五年前にガウェインの殿を務め、そしてネクロに遺体を弄ばれていたあの巨岩の騎士の娘。


「私の親父を、旧大陸の泥の中から救い出してくれてありがとう、ガウェイン様! あんたのその泥臭くて重たい剣、最高に気に入ったわ!」


 ベリンダは、アッシュに向かってビシッと指を突きつけた。


「あんたの大剣の横には、絶対に私みたいな『重い盾』が必要になるわ。だから今日から、私がガウェイン様の新しい『従騎士』になってあげる!!」


「……はぁ!?」

 間髪入れず、エレンの声が裏返った。


「ちょっと待ちなさい、この蛮族娘! ガウェイン様の筆頭従騎士はこの私、エレオノールよ! 貴様のような、力任せに鉄の塊を振り回すだけの粗忽者が立つ場所など……!」


「あン? 何よ、その細っこい銀の爪楊枝。あんたじゃ、ガウェイン様の背中への流れ弾一つ防げないじゃない!」


「つ、爪楊枝……ッ!?」

 ベリンダの無邪気で残酷な挑発に、エレンの額に青筋が浮かぶ。


 繊細で完璧な銀(エレン)と、分厚く荒々しい黒鉄(ベリンダ)。

 全く正反対の性質を持つ二人の少女の間に、バチバチと激しい火花が散り始めた。


「(……私じゃ、防げない……?)」


 だが、エレンは怒りの奥底で、その言葉の『重さ』を痛感してもいた。

 大魔将との戦いでも、影鴉の暗殺の時でも。自分はいつもアッシュに守られ、彼の暴力的な熱量に頼り切っていた。王都への不信感を抱え、ただ現状に失望しているだけの自分が、本当にこの先も『彼の隣』に立ち続けられるのか。

 銀の従騎士の胸の奥底に、新たな焦燥と、泥臭く這い上がるための強烈な『渇望(フラグ)』が芽生えた瞬間だった。


「ギャハハハハッ! モテモテじゃねえか偽物野郎! どっちか選べよ!」

 モルドレッドが腹を抱えて笑い転げる中、アッシュは「俺は剣振るうだけで手一杯だぞ……」と頭を抱えていた。


 そんなドタバタの凱旋劇の裏側。

 歓声に隠れるように、要塞の甲板の影から、音もなく一人の男が姿を現した。


「……お楽しみのところ失礼するよ、英雄殿」


 影から現れたのは、感情の読めない目を細めた、円卓第十位『影の騎士ガヘリス』だった。

 アグラヴェインの補佐を務める彼の出現に、アッシュとエレンは瞬時に空気を張り詰め、武器の柄に手をかけた。


「安心しろ。今日、貴様らの首を狙う気はない。……兄上(アグラヴェイン)が、貴様らに直接お会いしたいそうだ。誰にも知られず、秘密裏にな」


 ガヘリスの言葉に、アッシュは右腕の排気管から小さくチリッ、と火の粉をこぼした。

 王都の光と影。華やかな凱旋の裏で、冷酷な知将とのヒリヒリとする『裏の対談』が今、静かに始まろうとしていた。

第42話、お読みいただきありがとうございます。

ベリンダの登場が、エレンの心に火をつけます! そして知将からの呼び出し、アッシュたちはどう動くのか。


少しでも『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、ぜひページ下部よりブックマークや星での評価をよろしくお願いいたします! 執筆の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。