幕間:泥濘に沈んだ巨岩と、鉄を継ぐ花
五年前。魔王軍の『大侵攻』。
太陽の騎士ガウェインが、敵の最深部【死の心臓】へと単独で突入するためには、彼の背中を追おうとする数万の魔族の群れを「誰か」が食い止める必要があった。
その殿を務めたのが、円卓の第四騎士、剛腕のボールスであった。
「行けェ!! ガウェイン!! 後ろのハエ共は、俺が全て叩き潰す!!」
紫黒色の毒沼が広がる腐海の森。
ボールスは、身の丈三メートル近い巨大な鋼の鎧を泥で汚しながら、巨大な双頭の鉄槌を振るい続けた。
何千、何万という魔物の波。
魔法など使えない。ただ純粋な「腕力」と「圧倒的な質量の装甲」だけで、彼は三日三晩、毒沼の中に仁王立ちし、ガウェインの背中へと続く道を死守した。
そして四日目の朝。
周囲に文字通り「山」のような魔族の死骸を築き上げたボールスは、巨大な鉄槌に寄りかかるようにして、立ったまま静かに息絶えた。
彼の肉体は泥濘に沈み、後に狂った屍姫に冒涜されることとなる。
だが、その男の魂は、最後まで円卓の騎士としての誇りに満ちていた。
……。
…………。
そして、現在。
王都キャメロットの片隅にある、活気に満ちた重装甲専門の鍛冶区画。
「オラァッ!! もっと分厚く! もっと重く打て!! ボールス家の女は、ハエが止まるようなヤワな盾は持たないよッ!!」
カァァァァンッ!! という凄まじい鉄の打撃音が響き渡る。
そこにいたのは、燃えるような赤い髪を後ろで束ねた、グラマラスで勝気な少女だった。
彼女の細腕には、彼女自身の背丈よりも巨大な『漆黒の大盾』と『鉄槌』が握られている。極厚の装甲を纏った彼女が鉄槌を振るうたび、周囲の鍛冶職人たちが「お嬢様、施設が壊れます!」と悲鳴を上げていた。
彼女の名は、ベリンダ。
かつて円卓の第四騎士として名を馳せた巨岩、ボールスのただ一人の愛娘である。
「お嬢様! ニュースです!!」
息を切らした従者が、鍛冶場に駆け込んでくる。
「……五年前に旧大陸で消息を絶った旦那様の最期が、ついに判明しました! 旦那様の亡骸は魔王軍の幹部に操られていたそうですが……それを、新しく就任した『今のガウェイン様』たちが、完全な形で粉砕し、旧大陸の土に還してくださったと!」
その報告を聞き、ベリンダは振り上げていた巨大な鉄槌をピタリと止めた。
「……お父様の、無念を」
ベリンダは、少しだけうつむき、巨大な盾の影で静かに涙を拭った。
父が誇り高く死んだことは知っていた。だが、その亡骸が魔王軍に弄ばれていたという事実と、それを「太陽の騎士」が救ってくれたという報告は、彼女の胸の奥に強烈な火を灯した。
「……今のガウェイン様は、魔王軍をたった一人で焼き払ったという本物の超人とは違うって、噂で聞いたわ」
ベリンダが、バチッと顔を上げ、赤い瞳を輝かせる。
「泥だらけで、重油の匂いがして、やかましい火の粉を撒き散らすボイラーみたいな騎士だって。……最高じゃない! 私のお父様みたいに、泥臭く前線で武器を振るう人が、今の円卓のトップにいるなんて!」
エレンのような洗練された白銀の騎士たちを、ベリンダは少し「綺麗すぎる」と敬遠していた。
だからこそ、噂で聞く『泥臭く、骨が軋むほど重い武器を振るう新しい太陽騎士』に、彼女は強烈な興味と、父を救ってくれた恩義を感じていた。
「決めたわ。私、旧大陸から帰還してくるガウェイン様の部隊に直訴して、従騎士にしてもらう!」
「ええっ!? お嬢様、エレオノール様という恐ろしい筆頭従騎士がすでにいらっしゃいますが!?」
「関係ないわよ! ガウェイン様のあの巨大な大剣の横には、私みたいな『重い盾』が絶対に必要になるはずだわ!」
ベリンダは、父から受け継いだ巨大な鉄槌を肩に担ぎ、極端に分厚く重たい『黒鉄のベタ塗り』のような重厚な装甲を鳴らして、太陽のように明るく笑った。
静かで繊細な白銀の従騎士と、喧しく重厚な赤銅の令嬢。
太陽の隣を巡る、全くベクトルの違う二つの『相棒候補』の火花が散る日は、そう遠くない未来に迫っていた。
幕間、お読みいただきありがとうございます。
亡き父の誇りを胸に。豪快で重厚な令嬢が、新たな太陽の盾となるべく動き出す。
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