第21話:狂気の鉄塊と、爆走の幕開け
息の詰まるような白亜の王都を出立して数日。
灰色の荒野を抜けたアッシュたちの視界に、かつて彼らが血と泥に塗れて防衛した最前線、『黒角の砦』が見えてきた。
いや。正確には、「砦だったもの」だ。
「……おい。なんだよ、アレ」
丘の上からそれを見下ろしたアッシュが、目を丸くして立ち尽くした。
かつて石壁で囲まれていたはずの防衛拠点。その石壁は全て乱暴に取り払われ、代わりに『無数の巨大な歯車』と『家屋ほどもある極太の鉄の無限軌道』が、砦の土台そのものに強引に接合されていたのだ。
砦の中心からは、もくもくと真っ黒な煙を吐き出す巨大な煙突が数本突き出ている。
それはもはや防衛陣地などではない。巨大な鋼の怪物だった。
「ギャハハハハッ!! なんだありゃ! 城に足が生えてやがるぞ!!」
モルドレッドが腹を抱えて大爆笑し、エレンは「……嘘でしょ。私の知ってる前線の景色じゃないわ」と、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
『――オラオラァ! 炉心の温度が足りねェぞ! もっと魔物の油をぶち込めェ!!』
砦(?)の甲板部分から、拡声器を通したダミ声が荒野に響き渡る。
機械の左腕を振り回しながら、煤だらけの作業員たちを怒鳴り散らしている筋骨隆々の老ドワーフ。
アッシュの右腕に『黒陽シリンダー』を打ち込んだマッドサイエンティスト、ガラムだった。
「ガラムのおっさん!!」
アッシュが丘を滑り降りて甲板に飛び乗ると、ガラムは機械の義手で豪快にアッシュの背中を叩いた。
「おお、泥人形じゃねェか! 生きて王都から帰ってきやがったか!」
「痛ぇよ! それよりなんだよこの悪趣味な鉄屑は! 砦をどうしちまったんだ!」
「ヒッヒッヒ、決まってんだろ。前線が膠着してるから、砦ごと旧大陸にカチコミかけられるように『移動式』に魔改造してやったのさ! 名付けて、超弩級・装甲拠点『ガウェインの鉄靴』だ!」
勝手に主君の名前を使われたエレンが、後ろで白目を剥いている。
だが、ガラムの狂気じみた視線は、すぐにアッシュの右腕――熱で黒光りし、すっかりアッシュの肉体に馴染んだ『黒陽シリンダー』へと釘付けになった。
「……ほう。良い色に焼けてやがる。随分と極悪な『排熱』を覚えたようだな」
「ああ、お陰様でな。王都の小綺麗な大理石を、こいつで粉砕してきたところだ」
「ギャハハッ! 最高だ! テメェの腕のデータを取るには、最高のタイミングだぜ!」
ガラムはニヤリと笑い、砦の操舵輪を乱暴に握りしめた。
「いいかお前ら! この巨大な『鉄靴』の最初のテスト走行に付き合ってもらうぜ! 進路は旧大陸への最短ルート――『廃墟都市の死者街』をぶち抜いて、一気に『腐海』まで突っ走る!!」
「はぁ!? 廃墟都市って、アンデッドの巣窟じゃない! この鈍亀みたいなデカブツで突っ込んだら、四方八方から群がられて……」
エレンが必死に止めようとするが、もはや狂人二人の耳には届いていなかった。
「面白ェッ!! アンデッドの群れの中を、この鉄塊で轢き潰しながら進むってのか! 最高にイカれたドライブだぜェ!!」
モルドレッドがギザギザの大剣を振り回して、歓喜の雄叫びを上げる。
「しっかり掴まってろよ泥人形共! 炉心、最大出力!! 前進だァァァッ!!」
――ズゴゴゴゴゴォォォォォォォォンッ!!!!!
荒野を震わせる、耳を劈くような爆音。
巨大な鉄のキャタピラが泥を跳ね上げ、砦そのものが『巨大な戦車』となって、魔王軍の支配域である旧大陸へと猛進を始めた。
「アッハッハッハ! 揺れる揺れる!」
「笑い事じゃないわよこの戦闘狂!! アッシュ、右腕の調子は!? アンデッドが湧いてきたら、貴方とモルドレッドで甲板で迎撃するのよ!!」
「言われなくても分かってる! 行くぞ狂犬、どっちが死体を多く鉄屑から落とすか競争だ!」
白亜の王都での息の詰まる知略戦は、もはや遠い過去。
黒煙を吐き出しながら荒野を爆走する超巨大な移動要塞の甲板で、偽りの英雄と叛逆の狂犬は、押し寄せる死者の大群を前に獰猛な牙を剥く。
圧倒的な質量と物理演算の嵐が吹き荒れる、最高に泥臭くてやかましい迎撃戦が、轟音と共に幕を開けようとしていた。
第21話、お読みいただきありがとうございます。
移動要塞『ガウェインの鉄靴』のお披露目! そしてエレンの胃がさらに削られる、治安の悪すぎるカチコミドライブの始まりです!
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