第17話:白亜の断罪と、鉄の処刑人
王都キャメロットの大法廷。
円卓の騎士たちが居並び、最奥には王の代理たる『黄金の玉座』が鎮座するその神聖な空間は、血も凍るような冷たい静寂に包まれていた。
中央に立たされたアッシュとエレンを見下ろすように、アグラヴェインが冷徹な声で告発状を読み上げる。
「――以上、七つの戦術的矛盾、および過去の出撃記録との魔力波長の差異。さらには、先日の修練場で見せた『野蛮極まりない未知の剣技』。これら全ての論理的帰結として……」
アグラヴェインが、氷点下の紫電の瞳でアッシュを射抜いた。
「そこに立つ男は、偉大なるガウェイン卿を暗殺し、その武具を奪った『偽物』であると断定する」
ざわめきすら起きない。
アグラヴェインの提示した証拠は、法的に一切の隙がないほど、あまりにも完璧だった。
「そして、その大逆人を王都に引き入れた従騎士エレオノール。貴様もまた、同罪である。……近衛兵、二人を拘束せよ。明朝、広場にて斬首刑に処す」
ガチャリ、と。重武装の兵士たちが一斉に槍を突きつける。
エレンは顔面を蒼白にしながらも、アッシュを庇うように一歩前に出ようとした。
だが、それよりも早く。アッシュの『黒陽シリンダー』が、ゴキリと重く、極めて危険な駆動音を鳴らした。
「……随分とご立派な御託だな、アグラヴェイン」
幾本もの槍の切っ先を喉元に突きつけられながらも、アッシュは獰猛な笑みを浮かべていた。
彼には、難しい法律など分からない。だが、この息苦しい王都の『法』について、エレンから耳にタコができるほど叩き込まれた、たった一つの『抜け穴』を知っていた。
「俺が偽物だって言うなら、王都の法に則って証明してみせろ。……『神明裁判』だ」
その言葉に、法廷中の騎士たちが息を呑んだ。
神明裁判。それは、言葉で決着がつかない場合、神の前で『決闘』を行い、生き残った者の主張を真実とする、古く野蛮な王都の絶対法。
「貴様……! 自ら死を急ぐか、下賎な泥棒が!」
他の騎士が激高して剣を抜こうとするが、アグラヴェインがそれを冷たく片手で制した。
「……よかろう。法がそれを許すなら、私は『処刑人』として、法の枠内で貴様を完璧に排除するだけだ」
アグラヴェインが、ゆっくりと玉座の階段を下りてくる。
彼は腰に剣を佩いていない。丸腰だった。
しかし、彼が両手の純白の手袋をゆっくりと外した瞬間、アッシュの全身の産毛が総毛立った。
チャリ……。
アグラヴェインの十本の指先から、照明の光すら反射しないほど極細の『銀色の暗殺糸』が、まるで蜘蛛の巣のように垂れ下がったのだ。
「私の指先は、王都の法そのものだ。貴様のような規格外の熱など、決して通しはしない」
アグラヴェインの指が、微かに動いた瞬間。
シュガッ!! 鋭い風切り音と共に、アッシュの頬が浅く裂け、一筋の血が流れた。
「なッ……!?」
「アッシュ、動くな! 空間そのものに細い刃が張られているわ!」
エレンの悲鳴が響く。
見えない。
だが、確実にアッシュの周囲三百六十度を、アグラヴェインの指先から伸びる不可視の『処刑の銀糸』が、ドーム状に包み込んでいた。
力任せに大剣を振れば、自分の肉が細切れになる。
一歩でも動けば、見えない刃が首を刎ねる。
これこそが、絶対的な法の中で相手を解体する、『鉄の処刑人』の真骨頂。
「さあ、証明してみせよ偽物。その醜悪な鉄屑ごと、賽の目に切り刻まれる前に」
冷酷な微笑みを浮かべるアグラヴェイン。
見えない鋼糸の檻の中で、アッシュは右腕の『黒陽シリンダー』をギリギリと鳴らし、追い詰められた獣のように低い唸り声を上げる。
(……チッ、見えねえ。少しでも動けば肉が削がれる。だが……!)
白亜の法廷で、知将が張り巡らせた『冷たく絶対的な法』に閉じ込められた泥犬。
だが、その血に塗れた偽物の両眼に絶望の色はなく。張り巡らされた死の銀糸の向こう側にいる処刑人の喉元を、ただ獰猛に、真っ直ぐに睨み据えていた。
第17話、お読みいただきありがとうございます。
アグラヴェインは公平ではないが、忠実ではある。
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