第16話:鉄の檻と、蒸気の牙
王都キャメロット、円卓の騎士専用の地下修練場。
すり鉢状になったその広大な石造りの空間は、今日、アグラヴェインによって悪趣味な『見世物小屋』へと変えられていた。
「――先の雪山討伐にて、ランスロット卿より『ガウェイン卿の剣に迷いが見える』との報告を受けた」
観覧席の最前列。冷たい紅茶を傾けながら、アグラヴェインがマイク代わりの魔導具で静かに語りかける。
周囲の観覧席には、噂を聞きつけた数十人の騎士たちが立ち並び、冷ややかな視線を下へ向けていた。
「故に、偉大なる太陽の騎士の勘を取り戻していただくべく、極上の『獲物』を用意した。存分に、卿の美しき剣技を我らに見せていただきたい」
ガシャン、と。重々しい音を立てて修練場の鉄格子が上がる。
暗闇の中から這い出してきたのは、全身を分厚い鋼の装甲で覆われた、四つ足の巨大な合成獣だった。
王都の地下牢で極秘に飼育されていた、特級の処刑獣。
「(……あの野郎、俺が皆の前で『泥臭い戦い方』を曝け出すのを待ってやがるな)」
修練場の中央で大剣を構えたアッシュは、忌々しそうに舌打ちをした。
エレンに教わった美しい『型』だけで倒せる相手ではない。だが、以前のようにダラダラと火の粉を撒き散らして泥仕合を演じれば、確実に「ガウェインではない」という疑いを決定的なものにされる。
「グルルルルォォォォォォッ!!」
合成獣が、石畳を砕きながら砲弾のような速度で突進してくる。
「アッシュ、姿勢を低く! 体幹をブラすな!」
観覧席の隅から、エレンが祈るように叫んだ。
アッシュは逃げない。
彼はエレンに徹底的に叩き込まれた通り、足幅を正確に開き、巨大な質量を持つ『黒陽シリンダー』の重心を腰の捻りだけで完璧に制御した。
(……引きつけろ。あの狂犬の理不尽な殺意に比べりゃ、こんな獣の突進、止まって見えるぜ)
合成獣の鋼の爪が、アッシュの脳天をカチ割ろうと迫る。
激突まで、残り0.1秒。
アグラヴェインが「やはり偽物の剣では受け切れまい」と冷笑を深めた、まさにその瞬間だった。
「……消えな」
アッシュは、極限まで排熱弁を閉じ込めていた右腕の大剣を、下段から一気に振り上げた。
そして、激突の瞬間にのみ、すべての熱量を『刃の先端』へと爆発させる。
「『蒸気の牙』ッ!!!」
――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
修練場全体が、地震でも起きたかのように激しく揺れた。
アッシュの宣言と共に、右腕のシリンダーから『圧縮された超高圧の黄金の蒸気』が、文字通り巨大な『牙』の形となって一瞬だけ爆発的に噴き出したのだ。
「な……ッ!?」
紅茶のカップを落としそうになり、アグラヴェインが初めて驚愕に目を見開いた。
ダラダラと燃え続ける炎ではない。
エレンの完璧な『理(型)』が生み出す一点集中と、モルドレッドの『暴力(殺意)』が生み出した瞬間的な爆発力。
一瞬の閃光の後。
アッシュの大剣は、合成獣の分厚い鋼の装甲ごと、その巨体を脳天から股下まで完全に両断していた。
「シューゥゥゥゥ……」
真っ二つに割れた巨体が左右にドサリと崩れ落ちる中。
アッシュは静かに立ち上がり、右腕のシリンダーから漏れる細い残煙を、フッと息で吹き飛ばした。
骨が軋む痛みは、不思議と全くない。完全に熱の方向を『外側の敵』へと乗せ切った証拠だった。
静まり返る修練場。
それは、かつてのガウェインが見せていた「万物を等しく照らす気高い太陽の剣」では、断じてなかった。
しかし、あまりにも洗練されたその一撃の暴力性に、観覧席の騎士たちは息を呑み、誰からともなく感嘆のどよめきを漏らし始めた。
「……見たか、今の一撃を」
「以前の流麗な剣とは違う。だが、なんという重く、凄まじい一閃だ……!」
アッシュは、大剣を肩に担ぎ、観覧席のアグラヴェインを真っ向から見据えて獰猛に笑った。
(……どうだ、陰険野郎。テメェの用意した檻ごと、噛み砕いてやったぜ)
アグラヴェインの紫電の瞳が、かつてないほどの危険な光を帯びてアッシュを睨み返す。
偽物であることを暴こうとした罠が、逆にアッシュの『新たな英雄像』を王都の騎士たちに強く印象付ける結果となってしまったのだ。
『蒸気の牙』。
その荒々しくも美しい一撃の誕生は、アグラヴェインの忍耐を限界まで削り、王都の謀略をいよいよ最終局面へと加速させていくのだった。
第16話、お読みいただきありがとうございます。
アグラヴェインの罠を逆手に取り、ついに必殺技が完成! 王都の騎士たちに「新たなガウェイン」を認めさせた痛快な一撃です。
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