表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/101

第16話:鉄の檻と、蒸気の牙

 王都キャメロット、円卓の騎士専用の地下修練場。

 すり鉢状になったその広大な石造りの空間は、今日、アグラヴェインによって悪趣味な『見世物小屋』へと変えられていた。


「――先の雪山討伐にて、ランスロット卿より『ガウェイン卿の剣に迷いが見える』との報告を受けた」


 観覧席の最前列。冷たい紅茶を傾けながら、アグラヴェインがマイク代わりの魔導具で静かに語りかける。

 周囲の観覧席には、噂を聞きつけた数十人の騎士たちが立ち並び、冷ややかな視線を下へ向けていた。


「故に、偉大なる太陽の騎士の(カン)を取り戻していただくべく、極上の『獲物』を用意した。存分に、卿の美しき剣技を我らに見せていただきたい」


 ガシャン、と。重々しい音を立てて修練場の鉄格子が上がる。

 暗闇の中から這い出してきたのは、全身を分厚い鋼の装甲で覆われた、四つ足の巨大な合成獣(キメラ)だった。

 王都の地下牢で極秘に飼育されていた、特級の処刑獣。


「(……あの野郎、俺が皆の前で『泥臭い戦い方』を曝け出すのを待ってやがるな)」


 修練場の中央で大剣を構えたアッシュは、忌々しそうに舌打ちをした。

 エレンに教わった美しい『型』だけで倒せる相手ではない。だが、以前のようにダラダラと火の粉を撒き散らして泥仕合を演じれば、確実に「ガウェインではない」という疑いを決定的なものにされる。


「グルルルルォォォォォォッ!!」


 合成獣が、石畳を砕きながら砲弾のような速度で突進してくる。


「アッシュ、姿勢を低く! 体幹をブラすな!」

 観覧席の隅から、エレンが祈るように叫んだ。


 アッシュは逃げない。

 彼はエレンに徹底的に叩き込まれた通り、足幅を正確に開き、巨大な質量を持つ『黒陽シリンダー』の重心を腰の捻りだけで完璧に制御した。


(……引きつけろ。あの狂犬モルドレッドの理不尽な殺意に比べりゃ、こんな獣の突進、止まって見えるぜ)


 合成獣の鋼の爪が、アッシュの脳天をカチ割ろうと迫る。

 激突まで、残り0.1秒。

 アグラヴェインが「やはり偽物の剣では受け切れまい」と冷笑を深めた、まさにその瞬間だった。


「……消えな」


 アッシュは、極限まで排熱弁を閉じ込めていた右腕の大剣を、下段から一気に振り上げた。

 そして、激突の瞬間にのみ、すべての熱量を『刃の先端』へと爆発させる。


「『蒸気の牙(スチーム・ファング)』ッ!!!」


 ――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 修練場全体が、地震でも起きたかのように激しく揺れた。

 アッシュの宣言と共に、右腕のシリンダーから『圧縮された超高圧の黄金の蒸気』が、文字通り巨大な『牙』の形となって一瞬だけ爆発的に噴き出したのだ。


「な……ッ!?」

 紅茶のカップを落としそうになり、アグラヴェインが初めて驚愕に目を見開いた。


 ダラダラと燃え続ける炎ではない。

 エレンの完璧な『理(型)』が生み出す一点集中と、モルドレッドの『暴力(殺意)』が生み出した瞬間的な爆発力。


 一瞬の閃光の後。

 アッシュの大剣は、合成獣の分厚い鋼の装甲ごと、その巨体を脳天から股下まで完全に両断していた。


「シューゥゥゥゥ……」


 真っ二つに割れた巨体が左右にドサリと崩れ落ちる中。

 アッシュは静かに立ち上がり、右腕のシリンダーから漏れる細い残煙を、フッと息で吹き飛ばした。

 骨が軋む痛みは、不思議と全くない。完全に熱の方向(ベクトル)を『外側の敵』へと乗せ切った証拠だった。


 静まり返る修練場。

 それは、かつてのガウェインが見せていた「万物を等しく照らす気高い太陽の剣」では、断じてなかった。

 しかし、あまりにも洗練されたその一撃の暴力性に、観覧席の騎士たちは息を呑み、誰からともなく感嘆のどよめきを漏らし始めた。


「……見たか、今の一撃を」

「以前の流麗な剣とは違う。だが、なんという重く、凄まじい一閃だ……!」


 アッシュは、大剣を肩に担ぎ、観覧席のアグラヴェインを真っ向から見据えて獰猛に笑った。


(……どうだ、陰険野郎。テメェの用意した檻ごと、噛み砕いてやったぜ)


 アグラヴェインの紫電の瞳が、かつてないほどの危険な光を帯びてアッシュを睨み返す。

 偽物であることを暴こうとした罠が、逆にアッシュの『新たな英雄像』を王都の騎士たちに強く印象付ける結果となってしまったのだ。


蒸気の牙(スチーム・ファング)』。

 その荒々しくも美しい一撃の誕生は、アグラヴェインの忍耐を限界まで削り、王都の謀略をいよいよ最終局面へと加速させていくのだった。

第16話、お読みいただきありがとうございます。

アグラヴェインの罠を逆手に取り、ついに必殺技が完成! 王都の騎士たちに「新たなガウェイン」を認めさせた痛快な一撃です。


少しでも『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、ぜひページ下部よりブックマークや星での評価をよろしくお願いいたします! 執筆の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ