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第15話:二人の師匠と、圧縮される火花

「……頼む、エレン。俺に『剣』を教えてくれ」


 王都の地下牢から解放され、執務室裏の修練場へ戻るなり。

 泥だらけのアッシュは、ボロボロになった青い外套を脱ぎ捨て、エレンに対して深く頭を下げた。


 その瞳には、これまでの「ただ生き残るためのハッタリ」ではない、純粋で強烈な渇望(ねがい)が宿っていた。

 円卓第一位、ランスロット。

 あの雪山で、ただの一振りで特級魔獣を消し去った、圧倒的な『本物』。


 あれを見せつけられてしまった以上、もう誤魔化しは効かない。

 己の右腕の熱を制御できずに、いつか自分自身が焼け死ぬという恐怖。アッシュはそれを、確かな『技術(チカラ)』でねじ伏せようとしていた。


 エレンは少しだけ目を丸くしたが、やがて薄く、だがどこか嬉しそうに笑い、木剣を拾い上げた。


「……いい覚悟ね」


 彼女は、アッシュの異形の右腕を細剣レイピアの鞘で軽く叩く。


「貴様の命を燃やすその『粗大ゴミ(黒陽シリンダー)』の出力を10とするなら、今の貴様は常に10を垂れ流して自滅しているだけ。……それを瞬時に『0から10』へ切り替える『(ことわり)』を、その鈍い体に叩き込んでやるわ」


 バキィィィッ!!


「がはッ!?」

 容赦のないエレンの木剣の刺突が、アッシュの鳩尾(みぞおち)に深く突き刺さる。


「足幅が広い! 右腕の鉄の質量に完全に振り回されている証拠よ! 体幹で重さを殺しなさい!」

「い、痛ぇ……! もう少し手加減ってものを――」

「ランスロット様や魔王軍が、貴様に手加減をしてくれるとでも!?」


 それから数日。アッシュの地獄が始まった。


 昼はエレンによる、血を吐くような『型』の徹底。

 無骨で重すぎる『黒陽シリンダー』の重心を理解し、無駄な蒸気を一切噴かずに、踏み込みの姿勢と剣の軌道だけで威力を生み出す、極限の基礎練習。

 エレンの美しく正確なレイピアの軌道を、泥臭い大剣で必死になぞり、体に刻み込む日々。


 だが、アッシュの地獄はそれだけでは終わらなかった。


 夜。

 アグラヴェインの監視を逃れ、スラムの薄暗い裏路地で一人、マメの潰れた手で素振りをしていたアッシュの背後に。

 不吉で、凶悪な金属音が響いた。


「――チマチマと、つまんねえ素振りしてんじゃねえぞ、『偽物』ォ!!」


 ガギィィィィィィンッ!!!


 闇夜から突然振り下ろされた、巨大なギザギザの大剣。

 アッシュは反射的に右腕のシリンダーを駆動させ、大剣でそれを受け止めた。激しい火花が、路地裏を黄金色にフラッシュさせる。


「モルドレッドッ! テメェ、毎晩毎晩……ッ!!」

「ギャハハッ! 小娘に教わった『お上品な剣』が、実戦で通用するか試してやるって言ってんだよ! ほら、火の粉を吹け! 熱が足りねえぞ!!」


 理屈ゼロ。純度百パーセントの殺意と暴力。

 モルドレッドは、アッシュが昼間にエレンから教わったばかりの『基礎』を、荒々しい連撃で力任せにぶち壊しにくる。

 アッシュは防戦一方になりながらも、必死に頭をフル回転させていた。


(……エレンの『型』だけじゃ、この狂犬の規格外の重さは凌げない。だが、シリンダーの『熱』をダラダラと垂れ流せば、隙だらけになって殺される……!)


 エレンの教え()と、モルドレッドの圧力()

 本来交わるはずのない二つの理不尽の間に挟まれた瞬間。アッシュの脳裏に、雪山でランスロットが残した言葉がフラッシュバックした。


『――その暴れ狂う熱を、一点に収束させろ』


「……ッ!!」

 アッシュの瞳孔が開く。

 彼は、モルドレッドが上段からギザギザの大剣をフルスイングで振り下ろしてくるのに対し、あえて右腕の『黒陽シリンダー』の排熱弁を完全に閉じた。


「あァ!? 諦めたのかテメェ!」

「……いいや」


 アッシュは、エレンに叩き込まれた『完璧な足幅』でドンッと踏み込み、体幹を岩のように固定する。

 そして、二つの大剣が激突する、まさにその『0.1秒前』。


「……ここだッ!!」


 アッシュは、極限まで抑え込んでいた右腕の熱を。激突の瞬間のみ、一気に全開(出力10)にして爆発させた。


 ――ドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


「なッ!?」


 路地裏を吹き飛ばすような、凄まじい爆発音。

 これまでの「ダラダラと蒸気を噴き出し続ける」戦い方ではない。

 衝突の瞬間にのみ、すべての熱と排気ブーストを刃に乗せる、『圧縮された火花(カウンター)』。


 モルドレッドの巨体が、その一瞬の圧倒的な推進力と重さに弾き飛ばされ、路地裏のレンガ壁に激突して粉砕した。


「ハァッ……、ハァッ……!」


 黄金の蒸気が晴れた路地裏。

 アッシュは、右腕からシューッと細い煙を上げながら、大剣を構えたまま立っていた。

 骨が軋む痛みはある。だが、以前のように「熱に振り回されている」感覚は全くない。熱を、自分の意志で『刃の先端()』に叩きつけた、確かな感触があった。


 瓦礫の中から、モルドレッドがゆっくりと立ち上がる。

 彼は額から血を流しながらも、極上のオモチャを見つけた子供のように、顔をひきつらせて歓喜の笑声を上げた。


「……ギャハハハハッ!! 最高だ! 基礎を叩き込んだ途端、その熱を『牙』に変えやがったな!!」


 エレンの『理』と、モルドレッドの『暴力』。

 二人の規格外の師匠に揉まれることで、泥に塗れた偽りの英雄は、王都の闇の中で急速に、かつてないほど凶悪な『自分だけの(キバ)』を研ぎ澄まし始めていた。


 そして数日後。

 その未完成の牙を試すかのように、アグラヴェインが仕掛けた悪趣味な地下修練場の檻が、重々しい音を立てて開かれようとしていた。

第15話、お読みいただきありがとうございます。

現時点でのアッシュだと、1対1ではエレンには勝てない。

何でもアリならワンチャンあるかも、くらいには差があります。


少しでも『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、ぜひページ下部よりブックマークや星での評価をよろしくお願いいたします! 執筆の大きな励みになります。

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