百三十三.底辺職
「………あ? 笑えねぇな……今なんつった……?」
「誰もお前なんかを笑わそうとしてないぞ、バカかお前。面倒くさいからもう言うけど警備兵だ、け・い・び・へ・い。聞こえたか脳筋野郎? DO YOU UNDERSTAND? き・こ・え・ま・し・た・かー?」
俺は戦士集団のこの場のリーダーっぽい脳筋に理解を求めた。なるべく穏便に済ませたいからな、面倒だし。俺が腰を低く丁寧に説明した甲斐あってか下を向いて少し大人しくなったようだ。ふむ、やはり話し合いは大事だ。
「んなわけあるかニャアー!! どこが丁寧ニャこれ以上ないくらい挑発してただけじゃニャいかニャーー!! 明らかに怒りの臨界点を越えてキレてるニャアー!!」
猫娘が遠くから叫んでいる、見ると酒場入口のドアに手をかけていた。どうやら逃げる準備万端のようだ。
俺はムセンの肩に手をやって押し退けた。
「きゃっ……!?」
ズドンッ!!!
ムセンが声を漏らしながらよろけると同時に、俺とムセンの間に木屑が舞った。後ろから大剣が襲来し俺達に振り下ろされたからだ。
当然、危険予知で察していたから大剣は俺とムセンの間の空を斬り飯屋の床を破壊した。見た目どおり野蛮な奴等だな、沸点が低すぎるだろ。やる気かこの野郎。
ふむ、だが自然な流れで警備兵だとバレてしまったしここで大立回りを演じてもあまりいい事はないだろう。なにより面倒の極み、ナントカカントカ逃げるに如かりとかどっかの有名人も言ってたし、うん、逃げるか。
「猫娘ー、ガキ共を回収しろー。お前の素早さならできるだろー。俺達も二人ずつくらい連れてくからー」
猫娘まで面倒に巻き込まれないように俺は秘密のサインで猫娘に合図しようとした。が、そんなサインを考えていなかったので普通に周りにも聞こえるくらいの声量で指示した。
「ニャアーーー!!! ウチまで顔バレしちゃうじゃニャいかー! もぅっ!! 仕方ニャいっ!!!」
【属性技術『風』検定二級+『猫人』生態
融合開発技術『超速移動』】
ビュウッ!!!
猫娘はまるで風のように一瞬にして野蛮人共の間をすり抜けて裸のガキ達を四人くらい回収した。凄いなあいつ、元々が猫のうえに風魔法みたいなの使っているから素早さに関して右に出る者はいないだろう。
「ムセン、ガキを引っ張ってこい、行くぞ」
「は、はいっ!!」
「に、逃がすなっ!!」
【一流警備兵 異界技術
開発技術『対人用・Aバリによる歩行者用区画』】
俺は追っかけてきて邪魔してきそうな野蛮人共と俺達の間にお馴染みAバリを張って出口まで歩行者通路を作った。道路工事で歩道を潰している時に歩行者が安全に歩けるように作る通路だ。これで重機やクルマから歩行者の身を守る、当然且つ必要な措置だ。
「な、なんだこりゃあっ!? 結界か!? う……動けねえっ……」
「逃げんな!! くそがっ……!!」
野蛮人共はAバリ結界に阻まれていて歩行者通路に来れないようで俺達は颯爽と悠然に早歩きで酒場から出た。はぁ、まったく着いて出っ端からこれじゃあ先が思いやられるな。
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〈港町 倉庫裏〉
「はぁっ……はぁっ……」
「にゃ~~………つ、疲れたにゃ~~……」
酒場から早歩きでスタコラした俺達は身を隠すために船の停留場に連なっていた倉庫にやって来た。勿論、鍵がかかっていて入れなかったので倉庫と倉庫の間に大所帯で隠れる。RPGで言うと何故か奥の方に宝箱が置いてある隙間だ。
総勢8人もいるガキ共は裸なせいか震えていた、着せる服を8人分も持っていないため警備兵支給装備のマントを寄せ集めて包ませた。
息も絶え絶えなムセンと猫娘は置いておいて俺はガキ共の中で一番年上そうな10才くらいの女児に聞いてみた。
「お前ら一体何をしていたんだ? おままごとってわけじゃないだろう? あいつら野蛮人共に奴隷にでもされてるのか? あ、ちなみに俺らは異界人なうえこの土地には来たばかりだから事情を何も知らん。それを踏まえて何であんなんなってたのか教えてくれ」
無駄な時間を省くためにこちらの事情を説明してから説明を求めた、それを理解したのか10才くらいの女児は少し考えたのちに意を決したような表情をする。
「……逃げた方がいいですっ……わたしたちはあの人達に逆らえないんです……お察しの通りにわたしたちは【奴隷】として職業に就いてしまっているから……」
「はぁっ……そんな……こんな幼い子達まで奴隷に……こんな子供達まで職業に就けるんですか!?」
「……勿論、どの職業に就くにも成人を迎えてからだったり学院の卒業資格っていう制限があるんニャけど……奴隷っていう職業に関してはその縛りがないんだニャ……身元を取れない身寄りのニャい子供が生きるためには奴隷に就くしかニャかったりするためニャ……」
「…………わたしたちは生きるために奴隷になるしかなかったんです……奴隷としてならちゃんと働き口があるからって……みんな引き取ってくれる人がいなかったから……」
ふむ、こいつらにも色々な事情があるのだろう。だが、今はそんな事は聞いていない。
「だが、その含んだ言い方だとお前らはあの野蛮人共に買われた奴隷というわけじゃないんだろう?」
「……はい、今日たまたま港町に皆でお買い物に来たんです……そしたらお姉ちゃんとはぐれちゃって……」
「それであいつらに誘拐でもされたのか?」
「……いえ、あの人達が……『椅子になれ』って言ったから……」
「………え?! それで……そ……その通りにしたんですか……!? もしかして武器か何かで脅されて……!!」
ムセンが驚嘆の表情でガキ共に問う。
だが、ガキ共は言い淀んでいるようで浮かない表情をして互いに顔を合わせる。
どうやらムセンの至極当然の疑問は的外れのようだ。俺は何となく察しがついたのでやれやれ系の主人公ではないが『やれやれ』と言わざるを得なかった。そして女児は予想通りの言葉を呟く。
「……この国では……【底辺職】の人達は【上級国民】に一切逆らっちゃダメなんです……もし逆らえば……【底辺職】の人は刑罰に科されるんです」




