百三十二.癖(くせ)がすごい
「見えてきたニャ、あれが主要大陸の内の一つ……『バレット大陸』。目的のイルムンストレア大国を有する……地表大陸の中では最大の大陸ニャよ!」
猫娘が元気いっぱいに水平線に見える新大陸の名を叫ぶ。
俺の視線の先には確かに新たな大陸が映し出されている、が、別に海上から見える大陸に感慨もなにもあるわけはないのでどうでも良かった。
ファンタジー世界だとは言えど、遠景に見える大陸なんかどれも一緒だからな。空に浮いているという【天空大陸】だとか地下にある【無大陸】とかいうやつならともかく俺達が出港してきた大陸と景観はさほど変わらないから当然だろう。
そんな気持ちで俺は異世界における新たな境地を迎え入れた。
「ニャはは、ナツイにゃんにとってはどんな新しい世界も無情に過ぎないニャね。もしもナツイにゃんを主人公にした物語が書かれたら書き手は相当苦労しそうニャ」
「本当ですよイシハラさん……ここはリーダーらしく士気を上げるために嘘でも皆を鼓舞する場面じゃないですか……」
女子二人がなんか文句言ってきた、何故俺がんな事しなきゃならんのだ。俺は某海賊漫画の主人公じゃないんだ、冒険はしたくないし、ましてや海賊王にもならない。異世界でも変わらず警備仕事をして普通に人生を終わらせるだけだ。このクエストが終わったらもう絶対定時で終わる仕事しかやらない。
さ、何はともあれ無事に船旅を終えたんだ。サクサクと警備を始めるとしようか。
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◇【イルムンストレア大国 港町『バザル・ゴザル』】
船から降り、なんかやたら接してくる船長に別れを告げる。道中襲いかかってきた魔物を倒したらやたらグイグイ接してくるようになってしまったのだ。やはり滅多な事はするもんじゃないな、鬱陶しいったらありゃしない。
「まぁまぁナツイにゃん、そのおかげでこの国の事を色々教えてもらえたんニャから良かったにゃん。地図まで貰えたしニャ」
「それもそうか、まぁ技術のマップがあるからいらないけど」
だが、やはり旅をするからには地図を片手に行くのが醍醐味という説もある。ファンタジー世界でスマホ頼りに旅をするなんて風情もクソもないからな。
「意外だニャ、ナツイにゃんなら面倒だから簡単な方で済まそうとするかと思ったニャけど」
「時にはロマンや情緒を大事にする事もある、気分次第だ」
「ナツイにゃんも男の子っぽいところもあるニャね、なんか嬉しいニャ」
「なんでお前が嬉しがるんだ」
「んーー……ニャんでだろう……わからんニャ」
「…………」
猫娘とどうでもいい雑談をしているとトラブルメイカーパイロットが横でジト目をしていた。それを見た猫娘はなんか悪戯顔をしながらムセンを連れて離れ、ひそひそ話を開始した。
まったく、女子というのはこれだから。何話してるのか知らんが今はスイーツ談義をしている場合じゃないというのに、もっと緊張感を持ってほしいものだ。
「テメーが言えた義理かよ……」
「それよりも旦那、まず何をするんですかい?」
「まずは必要物資と情報の調達だ。食糧と情報は適任だからあの女子二人に任せよう、俺達は移動手段であるシャベリューの引く荷台を手に入れる。五人乗りの箱型のワゴンタイプがいいな、ひけるか? シャベリュー」
「勿論でさぁ、アッシはどのタイプの荷台でもひけますぜ」
「よきかな」
「ナツイにゃん、見知らぬ土地で女の子二人きりにするのはよくないニャ。ナツイにゃんはこっちチームにゃ」
「そ、そうですよイシハラさん!」
ふむ、言われてみれば確かに。ならば俺は女子チームに入るとしよう。
「じゃあクルマの調達は任せたシャベリュー。ヤンキーと爺さんは問題を起こすんじゃないぞ」
「テメーに言われたくねぇよ、そっちこそムセンちゃんを危ない目に合わすんじゃねぇぞ」
善処する、としか言えないな。何故ならこいつは勝手に問題に飛び込んでいくトラブルメイカーだから。
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◇【港町 酒場『デンチュウ・ゴザル』】
俺達はRPGの情報収集といえばでお馴染みの酒場にやって来た。
昼間だというのに酒場は賑わっていて、ダメ人間たちが日も沈まぬうちからバカ騒ぎしていた。
「イシハラさんっ、声が大きいですっ。船長さんに言われたじゃないですか」
「何を?」
「ニャ、この地はウルベリオンやシュヴァルトハイムとは比べものにならないくらい職業格差が蔓延してるって話ニャ。職業によってランク付けがされてて【上級国民】【中流階層】【下等職】そして【底辺職】っていうグループ分けがあるってやつ……」
そういえばそんな事を言っていたようなどーでもいいような。
「それで? それがどうしたんだ?」
「ウチら警備兵は【底辺職】にグループ分けされていて、それが露見するとこの国での行動がかなり制限されちゃうニャよ。この港町は新魔王軍が現れた事により検閲制度が多少緩和されてるって話ニャけど……あまり目立たない方がいいニャ。この港町を出たらそこはもう全くの別世界……イルムンストレアだけじゃない、そこをも支配下に置く【帝王】が仕切る【帝国】の領域内なんだニャ。今までどうりにはいかないニャよ」
ふーん、そういえばそんな話をしてたような興味ないような。
「真面目に聞いてほしいニャ……」
「くだらなさすぎて覚える気がないな。今は人対人で争ってる場合じゃないだろう。せめて魔王軍をどうにかするまで他と協力すればいいのにバカじゃないのかこの国は」
「…………ナツイにゃん……」
「まぁ安心しろ、俺だって面倒は御免だ。郷に入っては郷に従えなんて諺もあるしな、シューズの件が終わるまでは協力するさ。面倒だけど」
「ニャ……良かったにゃん。いざとなった場合はナツイにゃんは【警備兵】じゃなく【騎士】として行動してほしいニャ、そうすればかなり融通が効くと思うニャよ。確か土地を持つ【騎士】は【上級国民】扱いになるからニャ」
「それはいいが、諭す相手を間違えてるぞ。本当のトラブルメイカーは俺じゃない、早速そこで問題を巻き起こしているパイロットだ」
「……………え?」
俺の視線の先を見て猫娘は恐る恐る振り向く。
そこには馬鹿騒ぎをしている戦士みたいな集団にケンカを売っているムセンの姿があった。
「何をしてるんですか貴方たちは!! 今すぐにその子たちを開放してください!!!」
「………ぁあん? なんだこの女は……」
戦士集団は上機嫌な表情を一変させてムセンを睨む。騒ぎに気づいたのか周囲の喧騒も一旦止まる、どうやらバカ騒ぎしてこの酒場を占領していたのは同じ一団らしく何人かが立ち上がりムセンを取り囲おうとしていた。
「ニャアーーーーー!!? なななななにやってるんニャ!? ムセンにゃんは!!?」
「はぁ、仕方あるまい」
俺はムセンの元へ歩いていき守るように背中合わせに立つ。
面倒だがこいつを警備すると言った手前、見過ごすこともできんだろう。
新たに現れた俺を見て戦士集団はもう一度問いた。
「ぁあ? 今度は何だ? 何者だてめぇら」
「イシハラさん……」
ムセンが泣きそうになりながら俺に向き直りしがみつく。
まったく、早速トラブルを巻き起こしてくれてこいつには困ったものだ。
だが、その原因はもうわかっていた。こいつがこの馬鹿騒ぎ集団に突っかかった理由ーーこれは仕方あるまい。異様な光景、こんなもんを平然と見せつけられちゃ普通は物申すしかないだろう、胸糞悪い。
ムセンが突っかかった店の中央テーブルにいた集団、こいつらは『裸の子どもを四つん這いにさせ、椅子として使っている』からだ。
苦しそうに呻いたり、中には痣だらけで倒れているガキもいる。
世紀末かこの酒場は。
はぁ、早速予定外な事が起きたな。これ以上面倒にならないように打ち合わせどおりに【騎士】として名乗るようにしよう。
「面白ぇ、俺らに文句あるってんだな? 誰だテメーら?」
「警備兵だ」
「ニャアーーーーー! バカーーーーーーーーーー!!!」
あ、いつもの癖で間違えちった。




