百三十.愛米Ⅲ
<港町『ボウソウハントウ』 宿屋『タビユケバミカヅキ』>
「………すー……すー……ん……イシハラさん……んん……」
ムセンは隣で寝息を立て寝言で人の名前を呼んだ。
何だ?、と聞こうとしたが寝言に反応するのは良くないとどこかで聞いた事があったのでやめた。
よほど疲れていたのだろう、ウテンとですわ騎士の治療にずっとあたっていたようだしな。珍しく一緒に寝ていた俺の方が早く起きていた。
ムセンは俺に寄り添い、人の腕を枕にして寝ていた。
そのため起き上がる事もできず、俺は窓から見える景色を寝ながら眺めてボーッとする。
天気は雨、ガラスに打ち付けられる雨音が騒々しくもありながら不思議と心を落ち着かせる。
「ん…………あ………お……おはようございます……」
「おはよう」
ムセンが目を覚ます、寝起きなので頭が働いていないようだが布団に潜る自分の状態を見て徐々に覚醒していくのが表情と染まる頬の様子から見てとれる。
「あ……あの……なんで私……半裸で……イシハラさんとくっついて寝てるんでしょうか……もしかして……」
「男女が半裸で共に寝ていた理由など一つしかないだろう」
ムセンは急いで毛布で露になっていた上半身と口元を隠して潤んだ瞳でこちらを見る、その様子を見るに何をしたかを思い出したようだ。
「……わ……私、どんな様子でしたか……? その……あまり覚えていないんですが……」
「顔を紅くし、息を切らして苦しそうに悶えていたぞ」
「………」
よほど恥ずかしかったのか、ムセンは顔を真っ赤にした。
しかし目尻が緩んでいるように見える、毛布で隠している口角が上がっているからだろうか。どこか嬉しそうな様子だ。
「それは……初めてだったから……初めては痛いんですよね……? けど……嬉しいです。覚えていないのは悔しいですけど……私、イシハラさんと一つに」
「初めて? お前酒飲んだの初めてじゃないだろう」
「……………え? お酒……?」
「酒場で間違って酒を口にしてふらふらだったんだ。介抱してたら『背中かいて』とうるさかったから面倒だったからふて寝した」
そして朝起きたらムセンは半裸だった、なんか以前にもこんな事があったような気がする。まったく酔っ払った時のこいつの寝相の悪さは困ったものだな。
「……………」
何故か微妙な空気になった俺達は起きて軽食を済ませ、ウテン達の様子を見に行く事にした。
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ガチャ
「失礼」
コンコン
俺はウテンとですわ騎士が療養している部屋に入室して挨拶してノックした。
「いー君、入室の作法が滅茶苦茶。今は女の子の部屋なんだから気を使って」
ベッドに起きて座っていたウテンに突っ込まれた。
何だ、元気そうじゃないか。良かった良かった。
入室の作法が滅茶苦茶だった事を謝罪すると横から喧しい声が響く。
「ややっ? お知り合いですかっ? もスや貴方が噂のイスハラさんですねっ? 初めまスてっ! わたスは」
「ウテン、体の具合はどうだ?」
明らかな新キャラらしき女が自己紹介しようとしてきたので無視してウテンに体の具合を聞く。
「イシハラさんっ! 失礼ですよっ! この方はこの町に駐在しているお医者さんで治癒術師の【クララバ】さんです。ウテンさんとツリーさんをずっと看病してくださっていたんですよ」
「そうだったのか、済まなかった。礼を言う、世話になった」
「いやぁ~わたスはなにもなにも。ムセンさんの治療技術のおかげですよぉ~、わたスも大変学ばさせていただきました。でへへ」
新キャラの丸メガネの女は変な笑いかたをして照れている。
「クララバさんがいなければウテンさんの毒の識別ができませんでしたから……すぐに回復はできなかったと思います。本当に助かりました」
「あれはとある国にスか咲かない花から抽出される毒でスたからねぇ~。でもムセンさんは凄いですよぉ、治癒術書を読んですぐにその解毒技術を会得スてスまいまスたから。スんばらスい才能をスかとこの眼に焼き付かせてもらいまスた!」
つい先日翻訳機能のバグについて考察してみようと思いたったばかりだが、方言丸だしの新キャラが現れたことによりやっぱり面倒くさくなって考察を止めることにした。
まぁそんな事はどうでもいい、それよりもウテンの横のベッドで布団にくるまって一向に顔を出さないですわ騎士に声をかける事にする。
「ですわ騎士、どうした? 傷が痛むのか?」
「っっ! ………………」
声をかけられた事によるものなのか、一瞬ビクッと体を震わせたが返事はない。
俺はムセンと方言眼鏡に聞いてみる。
「どうしたんだ? ですわ騎士は。怪我は治ったんじゃないのか?」
「それが……私達にもわからないんです……起きてから一言も話してくれなくて……」
「怪我の後遺症はないと思いまス……おそらくはせいスん面の問題かと」
精神面ーー怪我した事により戦闘が怖くなったという事だろうか。騎士として百戦錬磨であろうですわ騎士らしくないが。
だが、なにが人に傷を与えるかなんて千差万別だ。仕方ないだろう。
俺は再度、一言だけ声をかける。
「お前がいてくれて良かった。ゆっくり休んで療養しろ」
「~~~~っ! ぐすっ……なんでっ……こんな時だけ優しいんですのっ……! ぅええええんっ………わたくしは……悔しいんですの……植物の使い手でありながら……毒の可能性を一切思慮せずにまんまと出し抜かれたことがっ……ぐすっ……」
ですわ騎士はまた泣き出した。
どうやらこいつはこと戦闘に関して相当高いプライドを持っているようだ。
「いっそのこと……いつものように無視してくだされば良かったのに……諦めもつきましたのに……」
「なにをだ? 諦める必要なんかなにもないだろう。お前もムセンと同じーー壁に当たってはそれを乗り越えることができる強いやつだ。今は更に強くなる転機に過ぎないだけだろ。負けて悔しいならやり返せばいい」
「……ですが、わたくしはもう間に合いそうにないですわ……身体が自由に動きませんもの……同行することは叶いませんわ……」
「ならば想いを託せばいい。その悔しさも全部ひっくるめてな」
そう言うと、ですわ騎士は少しの間を置き布団から顔と手を出した。
紅くなった目尻と濡れたその碧眼は弱々しくも、未だに騎士としての矜持を濁していないと言わんばかりの意志の炎を宿す。
俺はその手を握ったーー
「……お願いしますわっ……必ずっ……セーフ・T・シューズを救ってあげてくださいまし! この想い全てを託しますわっ……イシ」
ーーそして、隣にいたムセンの手を取ってですわ騎士の手を握らせる。
「ムセンがその想いを引き継いでくれる、安心しろ」
「え? 私ですか!? もちろん引き受けますけどっ……今明らかにイシハラさんに託してそれを格好良く引き継ぐ流れでしたよね!? イシハラさんの見せ場でしたよね!?」
俺に見せ場なんかいらない、そもそも俺は金を返しに行くだけだしな。
「だから救うのはお前の役目だ」
俺はただその想いを守るだけ、なんたって俺は天性の日陰者の警備兵だからな。
「行くとするか、警備を始めよう」




