side story4.諜報員VS諜報員 ※ムセン視点
「残念ですが……私に刃を向けた時点で話し合いは終わりです。『彼岸』、そこの二人を捕らえなさい。抵抗するようでしたら多少傷を負わせても構いません」
「ムセンアイコム、コードネーム『雨天』。わたくしの持つ権限により戦闘を許可致しますわ。そちらの影を退けたのち、セーフ・T・シューズを下船させなさい。多少強硬策をとっても構いませんわ」
ツリーさんとネットさんはそれぞれが指示を出し、互いに武器を構えます。二人は既に言葉を発する気がないように睨み合います。
『きゃははっ、ネット様りょ~か~いで~すっ♪』
またしてもどこからか『彼岸』と呼ばれた影の操り手の声が聞こえます。
陰と呼ばれていた事から察するに……この人はウテンさんと同じ『諜報員』という職業であることが考えられます。
ウテンさんは魔王軍との戦いの時に身軽に魔物達の攻撃を躱したり、音もなく私の着替えを覗いたり、いつも天井に張り付いたりしていました。
つまりこの方も派手な動きを避け、あくまで裏方に徹して徐々に、そして確実に相手を仕留めるような……敵を翻弄するような戦闘方法を主とすると予想します。
私とウテンさんは背中合わせで無数の影達と向き合います。
「ムセン・アイコム、『陰転身』は自分の影を自在に操る。そして術者はそれに紛れるといった活用をする、影は近くになければ操作はできない。つまり本体はこの無数の影のどれかに潜んでいる可能性が高い」
「影に紛れる……それを見抜く方法はあるんですか?」
「簡単、耳を貸して」
ウテンさんは後ろから小声で私に作戦を伝えます。
それを了承した私は懐から光線銃を取り出し構えます、ウテンさんも短刀を取り出して影達から攻撃を誘うように挑発します。
「えーと…………バーカ、陰気者、馬鹿そう、影、……バーカ」
「何ですかそれ!? 挑発してるんですか!? 語彙力!」
ウテンさんは小声で影達の悪口を言って照れていました、どういう感情で照れているのか全くわかりませんが……とにかく相手には聞こえていません。意外とこういった事は苦手なのでしょうか?
「じゃあムセン・アイコムがやって」
「え?…………え、えーと………………お……お馬鹿さんっ! ごめんなさいっ!」
私はよく知りもしない相手の悪口を言えず、即座に謝りました。
すると、影の一つが同時に私達に近づき手に持つ短刀を振り翳します。
ザクッ!!
【王国諜報員技術『雨音ランラン』】
ウテンさんはそれに即座に対応し、短刀が私達を襲う前に音もなく、素早く影を切り裂きました。
王国で魔物と戦っているのを見ていた時から思っていましたが、素早さだけならば攻撃を躱けるイシハラさんと同じくらい速いです!
『きゃははっ、ざんね~ん♪まぼろし~』
切り裂かれた影はその人型の形状を崩し、地面の中に潜り込みます。しかし同時に、再び離れた場所に一体の影が地面から現れます。
どうやらこの影に物理的な攻撃を与えても消滅させることはできず、すぐに復活してしまうようです。
「出せる数には限りがあるけど……その一定数は無尽蔵に捻り出せる、作戦変更、ムセン・アイコム。私が戦って影を集まらせる、貴女は影に気をつけながら『タイミング』を狙って」
「わかりました! お願いします!」
【王国諜報員技術『雨風ルンルン』】
ウテンさんは無数の影達に切り込みます、まるで閃光が迸るかのように、雷鳴が走り抜けるように縦横無尽に。
次々と影を切り裂き、消し去っていきます。
(影自体はそれほど強くなさそうです、術者が潜む影以外は単なる目眩ましの役割……)
しかし、撃破してもそれと同時にまた新たに産み出されてしまいます。
(やはりウテンさんの言う通り……影を一斉に取り払って術者を見つけ出すしかありません。そのためにはもっと一点に影を集めないとっ)
私は警備技術『周囲確認術』を常に発動させて影の位置に気をつけながら動きます。
「!」
すると、視界端に何かの煌めきを捉えました。
それは……短刀。ウテンさんの使用しているものではなく、影の術者が持っていた……禍々(まがまが)しい柄の紋様をした武器。
それは、動くウテンさん正確に狙い、飛び道具としての役割に形を変えました。
「ウテンさっーー!!」
チッ……!!
「ーーくっ!!!」
私が叫んだ時には短刀はウテンさんの腕を掠めていました、腕からは少量の鮮血が飛び地面を濡らします。
「ウテンさっ……」
「ムセン・アイコム! 今っ!!」
ウテンさんは私の言葉を遮り叫びます、それは『作戦決行』の合図。
周囲を確認すると、全ての影達は私達を捕らえようとより近くに取り囲むように集まっていました。
『きゃははっ、ぜつめ~いっ♪なんか企んでるー、いみふ~』
術者の声はより一層近くから聞こえます。
無数にいる影のどれに潜んでいるかは未だにわかりません。
しかし、それは直ぐにわかる事でした。
私は上空真上に向かい、『銃』を構えて放ちます。
放てるのは回復術。
だけど、今はそれ以外の用途にも使えます。
【ムセン・アイコム技術『サンシャイン キュアライト』】
バァンッ!!
『!!まぶしっ……!?』
私が光線銃から放った技術は上空で滞留し、まるで切り取られた光の塊のように辺りを照らします。
その光は、集まった影達を溶かし、その場から消し去りました。
「やばっーー」
「もう遅い」
【王国諜報員技術『雨音ランラン』】
ザシュッ!
「!!」
「きゃははっ、なーんちゃって~♪」
一瞬何が起きたのかわかりませんでした。
光により消し去られた影から出てきた女の子、その子が姿を現した瞬間にウテンさんが背後に回って短刀を振るった筈でした。
しかし、それよりも速く、まるで全てわかっていたかのようにその女の子は短刀を逆手に持って後ろに突き刺しました。
つまり、攻撃されたのはーーウテンさんの方でした。
「がふっ……」
「きゃははっ、影の攻略法なんて光くらいしかなくね~? それを狙ってたのバレバレ~。わざと策にのったげたんだよ~」
「ウテンさんっ!!」
ウテンさんは膝をつきました、腹部には短刀が刺さり……口からは吐血します。
「きゃはははははっ、あんたも諜報員ならもっと考えなよ~。むいてないんじゃない? このしごとーーーうわっ!?」
ドサッ!!
「……えっ?」
私はまたしても呆気にとられます。
女の子はウテンさんの方を、つまり後ろを向こうとしたら……突然足を滑らせてひっくり返りました。
何かに足を取られたような……しかし、地面が濡れているわけでも、何かに引っ掛けたようにも見えません。
「なっ……なんでぇっ!? 足が動かないっ……!?」
女の子の足はまるで縛られたように揃っています、何にも縛られてはいないのに。
「……見えないのはしょうがない、私が使っているのは限りなく透明に近い『糸』……それが貴女の足に絡まってる」
ウテンさんは腹部に刺さった短刀を強引に引き抜きます。
傷はみるみるうちに治っていきました、私が放った光線銃の回復技術が降注いだからです。
そしてウテンさんは立ち上がり、横転した女の子を見下ろすようにして言います。
「影を集める狙いだけならあんなに動き回る必要ない。わざわざ動いていたのはこの『糸』を張り巡らせるため、それに気付けなかった貴女は影にこそこそ隠れながら移動し、結果ーー『糸』を足で無意識に手繰り寄せていた」
よく見ると、確かに女の子の足には細く長い白い糸のようなものが巻き付いていました。
ウテンさんの狙いは最初から女の子を張り巡らされたこの糸で捕縛すること……そのために影を誘き寄せるフリをしていた……っ!!
(凄いですウテンさんっ!! 普段は天然なところもありますけどやはり国家直属の職業……っ!! 洗練された技術と熟練された戦闘経験がっ……)
「私がお風呂を覗きながらコツコツと拾い集めたムセンアイコムの髪の毛……白金色だったから光に当たれば尚の事視認するのは難しい。けど諜報員を名乗るなら気付くべきだった、貴女こそこの職業には向いてない。陽気だし五月蝿いし声大きい。貴女の敗因はーー」
「ちょっと待ってくださいっ!! ウテンさん今なにか失言しませんでしたか!? それ私の髪の毛なんですか!? お風呂場を覗いていたのはその為だったんですか!? ではイシハラさんの髪の毛とかもっ……!?」
「…………」
私の突っ込みを受け、ウテンさんは失言したという表情で、しかし決め台詞の途中でしたのでそのまま続けました。
「職業の選択ミス、踊り子とかの方が向いてる……………………迂闊」




